三章 帰郷
朔夜は彩音を連れてやっと首都・静欒に着いた。
約半日強での帰還だ。
この静欒から彩音のいた桃嘉までの距離は、普通に馬で移動するとおおよそ1日半ぐらいの距離。
それを約半日強で帰還するということはかなりの強行軍だ。
途中何度も馬を換え、休みも必要最低限取る以外はずっと馬の上。
彩音は目を覚ましかけた頃、薬で意識をおとして連れてきた。
そうしないと朔夜から逃げ出そうとして、暴れ出すのは目に見えているからだ。
昼を過ぎた頃。
王宮・皇華殿裏門に朔夜はいた。
裏門を警備している兵士が朔夜に気付いた。
「これは明将軍、今お帰りですか?」
門を警護する兵士が声をかけた。
「ああ」
「おい、開門だ!」
兵士が大声を上げて、門の中にいる同僚に言う。
少し待つと、大きな鉄の扉がギィーと音を響かせながら内側に開いた。
「どうぞお通り下さい」
兵士が頭を下げ、朔夜に言った。
朔夜は返事をすることもなくそのまま城内に入ろうとしたが、もう一人、門の警護をしていた兵士が朔夜に声をかけた。
「明将軍、その……そちらの方は?」
兵士が朔夜と一緒に馬に乗っている彩音に視線を向けた。
その問いかけにいち早く反応したのが、朔夜ではなく最初に朔夜と言葉をかわした兵士だった。
兵士は冷水を浴びせられたように驚き、あわてて朔夜に「も、申し訳ございません! この者はつい最近配属されたばかりでまだ礼儀を知らぬもので、その……」と、しどろもどろで詫びる。
朔夜は先輩の方の兵士を冷ややかに一瞥した。
「お前達は今、何も見なかった。そうだな?」
「は、はい!」
兵士が慌てて返事をすると、何事もなかったように朔夜達は城内へと去って行った。
朔夜達が城内へ消え、門が閉ると先輩兵士が後輩兵士の頭に思いきりげんこつをした。
「ってー! いきなり何するんですか!」
後輩兵士が頭を抱え、げんこつをくれた先輩を恨めしそうに見る。
「馬鹿かお前! 大将軍にあんな質問するな! そうじゃなくても明将軍は何かと厳しい方なんだから」
「はあ……」
「それにだな、いつも言っているが、お前は日頃から目上の者に対しての礼儀というのがだな……」
「はあ。もう解りましたから、ほら仕事しましょうよ、仕事。ね?」
先輩の長くなる説教をうまく流し、自分の持ち場へと戻る。
「それにしても今日もきれいな月だな……」
と、後輩兵士が呟いた。
そう。今は昼だ。
昼なのに月が上っている。それだけなら珍しくはないかも知れない。
だが昼なのに、ここは夜の様に暗い闇に包まれていた。そして太陽の替わりとでもいう様に、空には月が煌々と輝いていた。




