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姫君の日常  作者: ふとん
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凶兆の宴

 春の肌寒いような、生ぬるい夜風が頬を撫でた。

 私は爆破されてしまった宿直室の応急処置をようやく終え、馴染みの備品係から貰ってきた椅子に腰掛けた。過剰と言えるほど装飾された椅子は、少し座り心地が悪い。この椅子は、新しい文官が備え付けの椅子が気に入らないと自分の椅子を持ち込んだために廃棄処分寸前だった椅子である。飴色に磨かれたアンティークで、毎年張り替えられている最高級のクッションは、堅い椅子に慣れ親しんでいる身では腰を痛めんばかりに柔らかい。執務机のデスクチェアなので、肘掛けもついている。こんな椅子を貰ってしまっていいのか、と思ったのだが、リサイクルに協力しろと言われて運び込んでしまった。

 堂々と座ればいいものの、椅子の端に腰を乗せているあたり、貧乏三男の複雑な性質である。

 今のところ、持ち込んだ備品は椅子のみで、机は八つ裂きにされたものを、削ってもらえば使えるようだったので修理に出した。窓は議会城環境維持部に頼んで古い窓を譲ってもらった。

 真冬でもないので、今日はこれで眠ることができるだろう。

 私はグレーの制服の上着を脱いで掛け布団代わりにして、上質な椅子にもたれかかった。

 執務室付きは、執務室の管理があるで議会が開かれている間は、よほどのことが無い限り宿直室に泊まり込む。シャワー等の施設は共同で、金のある者は宿直室にベッドなどを持ち込む。食事は定時に食堂で採れる。これで家賃はいらないのだから、一年中、宿直室で過ごす者も居る。

 私は家族が領地で待っていてくれるので、とりあえず休暇中は帰るようにしていた。

 次の休暇は、春の議会が終わってすぐだ。

 私は家族の顔を浮かべながら、疲労に任せて目を閉じた。

 物音はない。照明を落として久しく、窓から光が入ることもない。

 吸い込まれていくような感覚を残して、私の意識は閉じた。


「ペンファー大尉!」


 ひんやりとした指が頬に触れた。

 薄く目を開けると、白磁の端正な顔がこちらを覗き込んでいる。

 夢か。

 私もつくづく疲れているらしい。フランチェスカの戦姫の幻覚が見える。


「早く起きなさい! ペンファー・ロッソン・ルーチェ・ゼパンツェン大尉!」


 幻聴ではない。

 私は飛び起きた。

 椅子から半身を起こすと、暗闇にも輝かんばかりの美貌が私を見下ろしていた。


「起きた?」


「……セパリーニ伯!?」


 姫君は寝ぼけ眼の私に向かって、ニヤリと笑むと腰に手を当て宣言した。


「いくわよ。犯人を捕まえに」


 私はささやかな眠りを求めて、目を閉じた。 



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