歓迎、トラブル御一行さま
その日、空はとても晴れていた。
蒼空の海に綿雲が浮かび、小鳥たちが泳いでいる。議会城の周囲は堅牢な城壁に囲まれているが、内側には優雅な庭園が広がっているのだ。野生の鳥や小動物の住処となっている。
私は、執務室の隣に配置されている、広くも狭くもない宿直室でのんびりと当直記録を書いていた。小さな本棚と使い古された樫の机、スプリングの弱った椅子しかない部屋ではあるが、代々、部屋守を穏やかに迎え入れてくれる。
一般に、貴族はそれこそ毎日ぜいたく三昧と考えられているが、私の家は家族全員が働きにでなければ、領土を守りきれない貧乏貴族である。土地貧乏とはよく言ったもので、祖先代々受け継いできた邸宅とわずかな土地を守るのに精一杯で、生活は庶民と変わらない。
ドアがノックされた。
この部屋には執務室へ続くドアと、廊下へ続くドアと二つ備えてあるが、打ち鳴らされたのは廊下側だった。
「どうぞ」
私は少し姿勢を正した。宿直室に来客は少ない。たいていは伝声管で用件を伝えられるし、同僚はノックなどしない。執務室の主といえば、大声で呼びつけるか呼び鈴を鳴らす。
ドア先から返答はなかった。ドアノブも回されず、数分が経った。
「……?」
椅子から立ち上がり、ドアへ向かう。慎重に見回すと、ドアの隙間に封筒が挟み込んであった。私は腰にぶら下げている手袋をはめた。
以前、封筒を引き上げて指を吹き飛ばされた同僚がいる。封筒の先に爆弾が仕掛けてあり、封筒を引くと爆発する仕組みになっていた。
私はドア横の壁に背中を貼り付け、封筒に触れた。
何もないかもしれないが、用心にこしたことはない。
封筒を引く。
とっさに息をつめたが、爆発はない。
とたんに先ほどまでの自分がバカバカしくなって封筒の宛名を見やった。
タイプライターらしい印字で、私の名が記してある。しかし、送り主に名前はない。
私は封筒を開封しなかった。
不審物は処理班に送るきまりとなっている。
私は封筒を部屋の机に置いた。
あとで処理班の同僚にでも見てもらおう。
そんなことを考えていた私に殴られるような衝撃が襲った。
鼓膜を突き破らんばかりの爆音が眼前で閃いたのだ。
窓が、弾け飛んだ。




