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姫君の日常  作者: ふとん
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氷の国の女王さま

 世の中には、男性を主とし、女性を卑下する国があるらしい。この国にもそういった気風がないこともないが、それを抜きにしても彼女、パセリーニ・アルマナの態度を不快に思う人がいるだろう。

 しかし、私の仕事はこの部屋を管理することであり、部屋の主に仕えるしがない軍人である。

 大尉、と軍では幾らかお高い位があるが、議会のお歴々である爵位を持てば、男爵でしかないのだ。階級制の統制が緩やかになったとはいえ、所詮は三角形の弱肉強食社会である。

 私の役職は、軍の中でも一応は名誉なものらしいが (あとで友人から聞かされて知った) 実状は、閑職である。名を、議会城警備部、執務室付き。北国最高の決定機関を警備することを使命とする議会城警備部の中でも、フランチェスカ各所に設けてある議員の個人執務室を警備、管理する栄誉職である。議員の大半は、常にテロや暗殺者などに狙われている敵多き方々ばかりなので、こういう役職ができた。執務室付に下士官はいない。いつ殉職しても悔いの残らないようにという配慮らしい。

 が、そうしたことが頻繁に起こるわけでもなく、私は日々、平穏に雑務をこなしている。


「お待たせいたしました」


 最近の点字化は楽になった。以前は一字一字を専用のタイプライターで打っていくか、翻訳ソフトを使うかしなければならなかったのだが、今はフィルターという点字翻訳機械に文書を通すだけでいい。この機械、非常に優れもので、文書を瞬時にスキャナして点字に変換し打ち出してくれる。

 私が重厚なファガー杉製の机に書類を置くと、アルマナ伯は少し手で机上を探って書類を引き寄せた。すぐに、彼女の白く細い指先が書類をなぞる。


「最近、武官どもが小うるさいのよ」


 書類に指先を沿わせたまま、彼女はさも面倒臭そうに溜息をついた。

 議会には貴族、資産家、各団体の会長などが参会しているが、大きく分けると文官と武官に分けることができる。その名の通り武官は軍事を、文官は庶政をもって議会に臨んでいる。要は、目的は一緒でも、考え方が違うのである。


「隣国が大型兵器を開発しているらしいの」


「軍事開発費問題ですか」


 答えると、生徒を褒める教師のようにアルマナ伯は微笑む。こうしていれば、傾国の姫君だが


「ホント、軍人はバカばかりで困るわ。兵器開発は国際連盟で規制されているのよ?」


「そうですね。国際連盟に報告した方がよろしいでしょう」


「何、言ってるの?」


 常識を進言した私に、姫君は冷酷にほそく笑む。


「黙っておいて、恩を売るのよ。見事な相互関係ができるわ」


 フランチェスカの戦姫。議会城の雪女。

 世が世なら、王の寵愛を根こそぎ奪い、最後には王座までもぎ取ってしまったかもしれない。 私は、密かに今現在の平和の幸せを思った。 

 


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