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姫君の日常  作者: ふとん
19/26

格子越しにある最近の思い出

 その日は、確かに平穏だった。

 私はいつものように当直日記をつけていた。春も終わりに近づき、短い夏がすぐそこに迫っている。刻々と延びる日照時間が穏やかに四季の変化を告げているのだ。机と椅子だけの当直室で、私は間延びした午後を迎えていた。

 数日前の夜会で我が部屋の主殿が投下した爆弾発言の影響は未だ見られなかったのだ。

 伯の婚約者発言。

 それは議会城を揺り動かすと言っても良いほどの、ニュクレス爆弾級の話題だが、私の身分が勤労男爵であることがゴシップ紙止まりとなっているようだ。幸い、私はゴシップを読まないので捏造情報すら耳に入らない。私の兄たちの耳には入っているはずだが、彼らからの最後通告がないので問題はないのだろう。私の美徳はこの楽観視である。

 だから、突然治安課の面々が当直室に押入ってきても優雅なものだった。無遠慮に机の周りを囲まれても、椅子から立ち上がっただけで事なきを得た。


「ペンファー・ロッソン・ルーチェ・ゼパンツェン卿、公職法違反の容疑でご同行願います」


 公職法とは実に大雑把な法律である。

 別名を、議員様御用達法、とも言う。

公務執行妨害といえば、議員様の御側路を妨げたとか、賄賂を寄越さなかったとか、出された茶菓子が気に入らなかったとか。強制執行免脱といえば、裏帳簿あわせを正確に行わなかったとか、楽しみにしていた果実酒を送ってこなかったとか、夜会に誘ってくれなかったとか。そういう検挙理由である。

 公職法違反、というもっともらしい名前がついていたりするが、内実はこんなものだ。

 さて、私は誰のお怒りを買ったのだろうか。

 不可抗力とはいえ、お美しい上司殿のお陰で心当たりがあり過ぎる。そのため私はいちいち被害者様のご尊名を拝聴しなければならなかった。


「どなたのご推挙ですか?」


 私がとんだ間抜けに見えたのだろう。隣で私の腕を捕えていた治安課職員(彼は私の知り合いだった)は哀れむように太い眉を眉間に寄せた。


「パセリーニ伯だよ」



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