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姫君の日常  作者: ふとん
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変わらぬ追想

 その白い容貌を眺めて、私は椅子に腰掛けた。

 貸し与えられたこの部屋も例外なく豪奢だったが、一室に詰め込める装飾などたかがしれているようで、むしろ人の目がないだけでありがたかった。

 意識を失ったパセリーニ伯を運ぶ時、マルセーリ卿が散々、この上司の受け渡しを要求してきたのだが、仕事の一環として考えれば迂闊に伯の身柄を明け渡すわけにはいかなかった。口八丁、手八丁で何とか私は一室をもぎ取ったのだ。

 世にも希な美しい我が上司殿は、青白い顔のままベッドに横たわっている。

 夜会はすでに終わったのだろうか。

 私はぼんやりと、会場での会話を思い出す。

 マルセーリ卿が口にした『小鳥』は揶揄ではない。

 パセリーニ伯のただ一つ記録に残る“浮いた話”である。

 伯がまだ十代の頃、一人の男性と駆け落ちしたことがあるのだ。すでに伯の階位は男爵、男性は無位、治安課に入り立ての新人だった。年の近い二人がどこで出会ったのかは、想像に難くない。パセリーニ伯のことである。治安課沙汰になるような事件は幾らでも持っていたはずだ。

 出会えば惹かれる。それを人は運命と呼ぶ。

 しかし、生粋の貴族と無位の庶民ではあまりに身分違いである。二人は夜半に議会城から抜け出し、そのまま逃避行。一年にわたり逃亡し、ある日、パセリーニ伯だけが議会城に戻ってきた。彼女等の詳しい経緯は分からない。だが、手に手をとって逃げ出した片割れの男は、ついに戻らなかった。現在でもその消息はつかめていない。

 これは極秘文書である。そんな記事をなぜ私が知っているのかというと、文官の兄のせいである。たまたま帰宅していた兄が、家に仕事を持ち込んだのだ。極秘文書を管理する手前、家族にも漏らしてはならないのだが、彼は事もあろうか私に整理の手伝いをさせた。それもペーパー文書をデータ処理するという、最も機密性の高い整理を。

 その頃の私は治安課に勤めていたこともあって、確かに信頼性はあったのかもしれないが、無謀というのか迂闊というのか。時折、兄の度量と度胸の広さに感服することがある。

 


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