P*
「あれ?転入生の麻南じゃ〜ん」
すぐ近くで、声がした。
「今、目が合ったよね?」
「無視?」
随分春めいてきた長閑な朝とは似つかわしくない、異様なオーラを出す女のコたち。
私と同じ一年生だろうか。
「えっ、あ…おはよう」
「おはよ」
軽蔑と怒りを含んだような眼差しでこっちを見ている。
誰だろう…。
「ウチ、笠井ってゆうの、ヨロシク。」
「ウチは栗野亜美」
「あたし保土田結実。」
「鈴木麗奈」
彼女たちは次々と自己紹介をした。
「私は…麻南優愛、です」
「知ってる」
と鈴木さん。
うーん…なんか、怒っているみたい。
「なあ、こっち来いよ」
グイ。
グループのリーダーらしい笠井さんが、私の腕をひっぱる。
「え…。」
嫌な予感がする。
これってもしかして…。
「早くしろよお」
断る理由も無いので、仕方なく彼女たちについて行った。
だけど連れてこられたのはやっぱり体育館の裏だった。
そして彼女たちは周りに誰もいないことを確認すると、顔を見合わせ彼女たち同士で目配せをした──。
「お前ウザいよ」
「きゃあ!」
鈍い音がして、背中に激痛が走る。
無抵抗の私は土臭い地面に倒れこんだ。
「何がきゃあ!だよ」
「こんな時までぶりっこぉ〜?」
違う!私、ぶりっこなんてしてない!
「自分は可愛いとか思ってんの?」
「金持ちのお嬢さまだからって調子乗んなよ」
彼女たちは私を取り囲んで、一斉に暴力を振い始めた。
「つーか何で東京のトップがこの中学に来るんですか〜」
「優等生ぶってるくせに茶髪ってどういうこと?」
「お前マジうぜぇんだよ」
「死んでくれない?」
どうしてこんなに怒ってるんだろう。
私、何かしたっけ!?
「そのまま入院してれば良かったのに」
「ホントホント」
「医療ミスで、死んじゃえ〜」
ハハハハハ・・・
甲高い笑い声と吊り上った目じりには、何とも言えない威力があった。
相手は集団だし、私には、抵抗する由が無い。
黙って耐えているだけ…。
怖い。
痛い。
誰か助けて…。
♪キンコンカンコーン
「あっチャイム鳴ったよ」
「そろそろ戻んなきゃじゃん?」
「いこいこ〜」
ドタバタと慌しく引き揚げていく彼女たちの後ろ姿を見る私は、情けないけど気絶寸前だった。
閉じかけていた目を無理矢理開けなくても感覚で分かるよ。
蹴られたり殴られたりで顔や足には血が滲んでいて、制服と通学鞄は砂だらけ。
一体、何でこうなったんだろう。
チャイムが鳴らなかったら私、どうなっていたんだろう…。
とりあえず立ち上がって制服の汚れを掃い、ハンカチで血を拭いた。
私も急いで教室に行かないと。
唇をそっと噛んで涙を堪え、鼻をすすってから足早に教室へ向かった。