プロローグ
暗く淀んだ空から降り注ぐのは無数の悲鳴と鮮紅の雨。篝火を受けて鈍く光るのは、鉄の板とも言えるほど大きな剣。影が剣を振るうと刃についた赤い雫が地表に散った。
「――ひッ!」
足元で恐怖に歪む顔を一瞥し、影が剣を一閃する。肉を断つ手応えとともにソレは二度と動くことはなかった。
篝火にくべられた薪の爆ぜる音が聞こえ、影がそちらへ視線を滑らせる。
無駄なく鍛え上げられた太い手足。足元に転がったソレを、まるで木の枝を踏みつけるようにして乗り越える。微かな息遣いを頼りに歩を進め、傾いた扉に剣を叩きつけた。
「っ……! た、たすけ――」
頭を抱えて蹲る背に、影は一分の躊躇いも見せずにその大きな剣を突き立てた。
剣を抜くと鮮紅の雨が降り注ぎ、影は更に赤く染まる。
影は感情の断片すらも宿さぬその黒い瞳を巡らせ、背後を振り返る。
「いつも通りに」
背後からかかった声に影は頷き、鮮紅の雨を降らせたばかりの胸部をもう一度突く。力任せに強引にこじ開けるとぴくりとも動かなくなった肉塊をむしり取り、背後へと放った。
両手は鮮紅に濡れていたが気にした様子もなく、その大柄な体躯にようやく隠れるほどの大剣を背に負った。