第一章 第三話
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《ヘミシンク研究サークル》…………?
目の前のドアにはそう書いてあった。
「《ヘミシンク》ってなんだ? はじめて聞く言葉だな…………」
《ヘミシンク》といったものに一瞬でも興味を持ってしまったあの日の俺に、もし、時間を戻すことができるのならば『絶対に近づかないよう』全力で止めたことは言うまでも無い。
…………が、現実にそんなことはありえない。
そんな何も知らない頃のウブな俺(たった二週間前の俺だが……)は、その《ヘミシンク研究サークル》のドアを“ふいに”開けて中に入ってしまったのだ。
「おじゃましま~す…………って、あれ? 留守……なのかな?」
部屋の中は、広すぎず、狭すぎず…………大人5~6人がくつろげるくらいのスペースと、長机が一つだけ置いてあった。イスを数えると3つ……つまり、ここには少なくとも3人は部員がいるということがわかった…………というより《研究室》とあったので厳密には『部員』とは言えないのかな?…………などと、ひとり言をブツブツ心の中でつぶやきながら、部屋の奥まで入っていた。
すると、ドアのあたりで『ガチャリ』と鍵の閉まる音がした。
「!?」
俺は、とっさに後ろを振り向いた。
すると、そこに人影を1つ確認することができた。
「だ……誰だ?!」
「誰だ? まったく何を言っているのか、この《侵入者》は。それはこっちのセリフだ」
極めて『正論』だった。
「お前…………そこで何をしている?」
「あ、いや、その~……ドアに書いてあったクラブ名を見て、興味がわいたというか…………ハハ」
「ほう……? つまり、お前は興味があったらそうやって無断で人様の部屋に忍びこむような常識の持ち主だと…………そうアピールしているのだな? そうか、そうか」
「え? あ、いや……そんなつもりでは……………………す、すみませんでした~! 無断で部屋の中に入り込んで…………さっさと出て行きますんで……ハハ」
と、俺はスーっとそいつの横を通り過ぎてそのまま外に出ようとした…………が、もちろん、そんなことは許されず、
ガシッ!?
「!?…………えっ?」
「まー待て……ゆっくりしていけば良いではないか、ワタシが許す」
ソイツは、俺の腕をガッシリ掴むと、部屋の奥へと引きずっていった。
腰のあたりまである、恐ろしいほどきれいな黒髪…………この大学の学生であればソイツのことを知らないヤツを探すのが難しいほどの有名人…………。
それが、このサークルの部長である『豪徳寺さやか』との最初の出会いだった。