九、革命と戦い
「待てよ」
民衆の中で、一本の手が挙がった。
人々がその腕の持ち主を中心にわかれていく。
やがて、半円状に舞台の前にスペースができた。
そこにただ一人立っていたのは、灰色のボロボロのフード付きマントを着た男。
衛兵達がぞろぞろとやって来た。
ずいぶん準備がいい。
「愚か者が。捕らえよ」
兵達がガチャガチャと鎧をならして男に駆け寄る。
槍を突きつけられ、囲まれても、男に動じた様子は少しも無い。
男が腕を下ろす。
「あんたらも大変だな~。こんなクソ以下のお馬鹿な奴らに従ってるなんてよ」
「我らが主は国王ただ一人。不満などありません」
ちらりと見てみると、その国王サマはドヤ顔だ。キモ。
「そうか。なら今からお前らは俺んだ」
「…は?」
うはwww
兵隊さんたちすごく戸惑ってるよwww
集まった民衆たちは何故だか落ち着いている。
「だーかーらー、」
男がマントを勢いよく脱ぎ捨てた。
ミルクティー色の髪が日の光をあびて金髪に見え、その瞳は紛うことも無い金。緑と茶を基調とした旅人風の服装はずいぶん使い込まれたようでよく馴染み、腰にさした細身の剣…いや、刀がよく似合っている。ツンツンの髪は左のもみあげあたりから二本細く三つ編みにされていて、風と動きで大きく揺れていた。
男…レントゥスは、刀を抜いて空に掲げた。
「今日から俺がこの国の王だ!!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
民衆達が声を上げる。
近くの人々が兵隊達を押さえ込んだ。
兵隊達は突然のことに対応ができない。
「このっ、勇者よ!奴らを止めろ!!」
えええ、僕達は魔物退治にこれから旅立つってのになんで人と戦わないといけないんだよ。
「なんだその目は」
「いえ別に」
「ギャアアアアアアアアアアッ」
絶叫
「あ、あ、あああ…」
「っ…」
鈴乃ちゃんが声にならない音を漏らす。
静まり返る人々と、異様に高く上がっている一般人と思われる男、赤、鮮血、うめき声…
「お父様、勇者様たちは本当の戦いを見たことがありませんわ。いきなり戦えなどと、おまりにも酷です」
男から視線を下に移すと、細い剣が不気味な光を放っており、さらに下には困ったように微笑を浮かべるリスティスが…。
リスティスはうめく男を振り落とし、トドメを刺そうと剣を振り上げる。
振り下ろされる瞬間鈴乃ちゃんが小さく悲鳴を漏らしたが、僕らが予想した最悪の事態にはならなかった。
ガキン!!
リスティスの前に、刀を構えたレントゥスが立っている。
レントゥスが男を護ったのだ。
「…ふう。間に合った。あいかわらず姉貴様は乱暴だなあ」
「お馬鹿な弟とお馬鹿な庶民にはこれくらいがいいでしょう。わたくしたちに刃向かおうだなんて、どうしようもないお馬鹿じゃなくて?」
睨みあう二人はすごくキマっている。かっこいい…
レントゥスは王女には答えず、視線を逸らさないまま言った。
「キノ、助かるか?」
「うん♪」
「でも、さっきから馬鹿馬鹿いってるお馬鹿な姫様は助かんないんじゃないの~?」
どこからかキロノミーが現れてレントゥスの後ろに倒れている男のところに現れて何かを振りかける。
その隣で赤毛の女がリスティスを挑発するが、王女は無視してレントゥスに斬りかかった。
「ったく、無視!?ま、いいわ」
ってあれ、いつの間にかさっきの男が消えてる?
「そこの、えーと、勇者だかなんだか知らないけど、あんたたち!」
「なんだい?」
「あらら?思ったよりしっかりしてんじゃない。あんたたちもぼさっとしてないで、そこで逃げようとしてるアホを足止めでもしなさいよ」
そんなこと言われてもね。めんどうだし。
鈴乃ちゃんは完全に腰を抜かして怯えている。
でも、日本人は空気を読むべきだよね。
僕は近くに落ちていた剣、聖剣ユースティティアに手を伸ばした。
こんなところに転がって、この剣にはもったいないな…。
そんなことを少しだけ思いながら柄を持った。
走り出そうと一歩踏みだしたとき、尋常じゃない頭痛と眩暈が…
えええ、こんな時に…?
どんだけ間が悪いんだよ…そんなに僕、KY、だったっけ…?
頭をガンガンと殴られているような気がする。
目の前が、暗く……
◇◇◇◇
バタッと音がした。
動かない首を無理やり回してみると、光夜先輩が倒れている。
…え?見てなかった…何が?
も、もしかして、いつの間にか刺されて…?
「せ、先輩っ」
大きな声は出なかった。
しかし、私の代わりに、私とは代わりにならないくらいの絶叫が上がった。
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
泣き声と、叫び声と、怒号と…
広場を見ると、兵士達が人々を斬りつけている。
な、なんで…?
さっきまでおとなしかったのに…しかも、これは…魔法の感じが…?
私はさっとアル王子の方を見た。
王子は冷たい笑みを浮かべて兵士達を見つめている。
強い魔力のせいで風も無いのに王子の髪や服が揺れていた。
「や、やめてっ」
だめだ、この人は、人は、ころ…
「だめ…」
兵士達をさっき現れた男の人の仲間らしき人たちが食い止めようとしている。でも、兵士達の数が多いから苦戦していた。
普通の、町の人も兵士達を倒そうとするが、日々鍛え、武器を持った兵士達の敵ではない。
そしてたぶん、兵士達が強い…。
なぜか私達のところには誰も来ない。
もし、兵士達がこの人に操られているとしたら…?
勝手な想像だけど…。
…なんでそんな馬鹿なこと?
はは、ははは…、そうだよね。ただの、妄想…。
私はへたり込んだまま地獄のような広場を見た。
助けてくれ、痛い、このっ、…聞こえる声はすべて恐ろしい。
そんななか、私はひとりの兵士と子供を見てしまった。
ちょうど、位置的にどちらの顔も見えてしまったのだ。
目がいいのも考え物だね。
大きな帽子をかぶった少年が大きな斧を振り上げ、兵士も剣を突き出そうとしている。
なぜか兵士は微かに震えていた。辛そうな表情で、少年も、悲しそうで…。
『助けてくれ』
『ごめんなさいっ』
口の動きが、確かにそう言っていた。
少年の斧が兵士に襲い掛かる…。
………………。
私は王子に視線を戻す。
「おう、じ…」
「ああ、リノ。すぐに終わりますよ」
にっこりと笑う王子。
すごく、こわい…
「だめ、だよ、こ、こんな…」
「ははは」
言葉が見つからない。
私は王子に飛び掛った。
「リノ!?」
想像魔法なら、集中力が切れればなんとかなるかもしれない。
こんなこと、やめさせないと…!
目指せ偶数日投稿。
話数が二桁目前!!