第2話:彼の仕草
暁のくせは、あたしの前髪に触れること。
今でも、その暁の手の温もりを覚えてる。
その仕草も感覚も……。
暁は必ず言うんだ。
「奈々(あたし)の髪は、綺麗だな。」
って。すごく愛しそうな瞳をして。
そしてあたしは、決まって冗談で返してたっけ。照れ隠しで。
「髪だけなの?あたしの綺麗なところは。」
暁はいつも余裕気に笑ってた。
あたしの冗談にもすぐに答えてくれた。
「奈々の全てが綺麗だよ。」
よく、恋愛漫画や小説で書かれているようなキザな台詞。
でも何かの受け売りとか、台詞の棒読みではなかった。
心からあたしを愛してくれてるな。って思えるような言い方。
でも、本当はそのキザな台詞の後に、暁が付け足す言葉
「けど、1番はやっぱり前髪だな。茶くて、ふんわりしてて、おまけに天パ。」
これが1番嬉しかったりしたんだ。
あたしの髪は、後ろも横も黒のストレート。
なのに、前髪だけは微妙に茶くて、異常に柔かくて、そのうえクルって天パ。
正直、デッドポイントだった。
前髪だけ茶いってのは、本当に変だから。
だけどね、暁がそう言ってくれてから、チャームポイントになったんだよ。
自分の前髪が好きになった。
「あたしは、暁の目が好きだよ。」
暁にとってもまた、“目”はデッドポイントだったらしい。人より、少し細いキレ目。
そのうえ、目つきもあんまよくなくて、“恐い”というイメージを与えてしまうからだと。
でも、あたしはそんな暁の目が好きだった。
キレ目だとか、目つきが悪いとか関係ない。
その瞳の奥に、優しさが見えたから。
あたしたちは、本気で愛し合っていたんだ。
紛れもなく、お互いにとって、なくてはならない存在。
そう、感じていたから。