↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの借金学生〜親父が残した借金を払う為に迷宮配信始めました〜  作者: 青海空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

case① 新米祈祷師の場合

「__はぁっ、はぁっ……」


 迷宮の中で手に持った錫杖を握りしめながら、一人の少女が駆けている。


 何かに追われているのか、その少女の表情には焦りと恐怖といった様々な感情が張り付いていた。迫り来るナニカは彼女に追いつくや否や殺そうと、いや『喰おう』としている。


 __何処で間違えてしまったのか。


 彼女の頭の中に浮かぶのはそんな疑問だった。


 今の状況に陥ってしまったのは、果たして誰のせいなのか。そんな疑問に答えてくれるものはこの薄暗い洞窟の中には誰も居ない。


「___あっ、ぐっ!?」


 必死に逃げる、彼女の右足に拳大の石が飛んでくる。その石は、走る彼女の膝をいとも容易く折ると、彼女の逃亡を差し止めた。


「__ぐっ、ぷっ、『プロテクション』」


 幸いだったのは彼女が錫杖を手放さなかったこと。


 手放さなかったからこそ、彼女は最後の『祈り』を使って、自分を守る透明な結界を貼ることが出来たのだ。


「__ひっ」


 しかし、ソレで防げたのは拳大の石だけ。迫り来る捕食者はもう、彼女が目視できる場所までやって来ていた。


『石蜥蜴』。通称、ロックリザードと呼ばれる二メートルは遥かに超えるオオトカゲが、少女をその爬虫類特有の目で捉えている。


 本来なら、この階層には生息しない、所謂イレギュラー。討伐推奨ランクは『Cランク』。つまり、『Eランク』の『祈祷師』である彼女では、逆立ちしようが勝てない化け物なのである。


 チロチロと舌を出して、首を傾げて、少女の様子を伺うロックリザード。……待っている。彼女の守りが消える時を。


「あ、あぁ___」


 必死に次の手を考えようとする彼女だったが、嘲笑うかのように祈りが薄れていく。


「やだっ、やだやだやだっ……!」


 そして、それを見計らったかのように、ロックリザードが少女に向かって歩いてくる。必死に藻掻いて、ずりずりと後ずさる彼女だったが、すぐに、トンッと背中にゴツゴツとした岩肌が触れた


 そこまできて、ようやく彼女は袋小路へとワザと追い詰められていたのだと気付いたのだ。


「来ないで、来ないでよぉっ……」


 腰につけてあったポーチから、手当り次第アイテムを放り投げる。


 低級の回復薬や学生証、そして売れば結構な額になるだろう『金貨』が詰まった袋。手当たり次第に投げて見るが、ロックリザードは特に気にした様子もなく、彼女へと進んでくる。


「___誰か、助けてっ……!」


 そんな最後の声が響き、ロックリザードとの距離が五メートル程に達した時。


 __『ソレ』は現れた。


「__えっ……?」


 いつまで経っても来ない痛みに目を開けると、彼女とロックリザードを挟むようにして、黒色のローブを頭まで被った不気味な存在が立っていた。


『……』


 不気味な『亡霊』の様な存在は、ゆっくりと此方を振り返ると、怪しげに光る機械仕掛けの頭を此方に向ける。


「__危なっ__」


 同じく困惑していたのか、動きを止めていたロックリザードが大きな口を開き、奇怪な黒ローブに襲いかかろうとしていた。


 慌てて警告しようとした、次の瞬間。


 __ズルり。


「__えっ?」


 突然に。なんの脈絡もなく。ソレが当たり前だったかのように。ロックリザードの首が断ち切られ、コツンっと心臓替わりの魔石が地面を打った


『何も見えなかった』所の話ではない。彼の動きにはロックリザードを攻撃する意思すら感じられなかった。


 だが、現にロックリザードの首は落ち、その体は灰へと変わり、地面には妙な濁りがある紫色の魔石とドロップアイテムだけが落ちている。


『……』


「__あっ、やめっ__」


 黒ローブの亡霊が『何か』を持ち上げゆらりと少女に近付く。反射的に体を縮こませた彼女だったが、『ジャラジャラ』と鳴る音に気付いて、目を開ける。


『無事なのはこれしか無かった』


「えっ、あっ__そ、そうですか」


 金貨袋を拾い集めてくれたらしい黒ローブの亡霊は、ボイスチェンジャーを通した様な奇妙な声でそういうと、彼女の掌の上に金貨袋をのせる。


『金は大事だ。きっちり持って帰れ』


「___は、はい!ありがとうございます!」


 黒ローブの言葉に金貨袋を大事そうにぎゅっと抱えた彼女だったが、直ぐに黒ローブと金貨袋を互いに見ると、何か決心したかのように、黒ローブに金貨袋を突き出した。


「あ、あのっ!命を助けて貰ったお礼にしては少ないかもしれないですけど……!受け取ってください!」


『……』


 そんな彼女の言葉に対して、少しだけ考え込むように首を傾げた黒ローブだったが、金貨袋と彼女を一瞥して、一つため息を吐く。


『……分かった、貰っていく』


 そう言った黒ローブは、袋の中から一枚の金貨を取り出すと、指でキンっと弾いた。


『これで代金はいただいた』


「えっ、あの、遠慮なさら__あっ、あれ!?」


 そう言って、金貨袋を差し出そうとした少女が顔をあげると、黒ローブの姿が忽然と消えていた。


「___!?足も治ってる!?」


 黒ローブが消えたことに驚き、思わず立ち上がってしまったところで、確実に折れていた足が治っていることに気付いた。


 そうして、彼女は命からがら迷宮から生還することが出来たのである。


「……それらしい話は無し……」


 不思議な気持ちで家へと帰った少女は、スマホに写った検索履歴を見ながら深いため息を吐いた。


「あんなに強いし、『ランカー』の人かと思ったのに」


 だが、いくら調べても黒ローブに機械仕掛けの頭をした__いや、おそらくは装備だとは思うが……あんな亡霊のような『ランカー』なんて見つからなかった上、それらしい人物を見かけた、なんて言う掲示板も見当たらなかった。


「……見られるか分からないけど、掲示板でお礼だけでも言っておこう」


 彼女が書き込んだのは、短いお礼の文章と『黒ローブの亡霊さんへ』というタイトルだけだった。


『黒ローブの『亡霊』ってなんだよw』


『変な魔法植物でも踏んだんじゃねーの?』


『目立ちたがり乙』


 何だか、若干荒れてしまったが、彼女は特にソレを気にすることはなかった。もしも、見られていたのなら、彼女の感謝の気持ちが伝わればそれでいい。


 彼女が掲示板に書き込んだ理由は本当にそれだけだったのだから。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。