ep.6
【守護者:再】
貴方は早足でロゼを追う。
階段を降り、廊下を走って扉を抜け、代筆者用の部屋が並んだ場所へ来る。そのまま扉を勢い良く開けて、ロゼは貴方の手首を掴んで部屋に入れた。
中で座っていたスピカと、話していたらしい蓬が驚いた様子でこちらを見たが、すぐに察してくれる。
「すいません、伝言だけでは内容が殆どわからないというのに、すぐ来てもらって」
貴方は構わないと返すが、蓬は「いえ」と短くこぼして首を振る。
「本当に良いのかしら、蓬?」
「はい。話すより、見てもらった方が理解はしやすいと思います。主観的に語るものよりかは。それに、わたしだけで行って、思い出して……言えないような事態に陥った場合、お客様の期待に添えませんから」
「……真面目ね」
蓬は貴方の方を見て、手を差し伸べてくる。
「貴方はこれから、わたしの視界で見てきたわたしの軌跡を、記憶という形で覗くことになります。もしかすると自分自身でない人物の記憶を見たことにより体調が悪くなる可能性も考えられますが、それでも貴方が記録したいというならば、お手を」
貴方は少し考えて、手を重ねた。蓬は安心したかのように見えたが、その双眸に安堵とは違う緊張のようなものが渦巻いているのも感じられた。
「それじゃあ」
スピカは蓬の命の石に触れ、光の曖昧な線を引き出したかと思うと、それを白紙の厚い本に乗せる。
するとまたたく間に本が発光し、貴方の視界が真っ白になった。
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スピカは不平等を嫌う。故に、貴方の見たものをいくつか省略し、要約したものを記録することにしよう。
雁鳴蓬という名は、ロゼから新たにつけられた名前だった。
彼女の元々の名はゼロ、言葉の意味をとればただの番号だろうが、彼女にとってはそれが自分を表す自分の知識にある“名前”と同じものだった。
ゼロは狛人という希少な種族の人型である。身体能力は鬼の人型と互角になる程で、記憶能力が高く人間では既に衰えた生命本能も鋭い。
故に、人間達は狛人を集め、一つの施設で管理することにした。自分達を守らせるために。
この際集まった狛人は全部で三十一人であったが、最終的にゼロを含み五人しか生存していない。
その理由は、狛人を管理する際に彼らにつけた水晶の魔法具が原因だ。
その魔法具には相棒として訓練されてきた狛人の眷属であった種族の作ったものだったが、これを暴走させた人物が居た。それは──ゼロ達狛人が慕っていた“シスター”と呼ばれるリーダー的存在の管理者だった。
シスターは狛人を開放することが彼女らにとっての善と考え、全員を一度瀕死にさせることで救おうとしていたらしい。ただ、その魔法具には瀕死にするという効果でなく、狛人の元々の姿──人型でない聖獣の本能を呼び覚ますものであった。
結果、狛人達は派遣されて団体行動していた山にて殺し合い、五人にまで減ってしまう。
ゼロはその間、シスターの異変に気付いていたロゼとともに施設へ戻ったものの、シスターの遺体を発見し魔法具の仕組みを知る。急いで山へと行くも、そこは既に同族の死体で溢れかえっていた。
いや、少し違うかもしれない。
殺し合ったのではない。狛人は一つの聖獣を封印できず、代わりに細かく分断させて弱体化させていた故にできた種族だった。
暴走させた魔法具が放った波動に乗せられ、力が呼び覚まされたのは事実であろうが、自我を失ったわけではない。
ゼロが見たのは、こちらを睨みつける大きな犬に似た獣だ。
恐らくは、聖獣の復活。
崖を崩し、獣は逃げる。流れてくる土石流に、ゼロはなすすべも無く飲み込まれた。
長い沈黙、そして暗闇を感じ、次に目を覚ますと、目の前にロゼがいた。
ゼロは周りを見渡す。そして、一人の少女を見つける。
白髪を三つ編みでまとめていて、花のような金属の髪飾りを身に着け、華奢な体におどろおどろしい液体の飛沫を受けている少女を。
獣は首と体が切り離され、首の方は糸で吊るされているのも、その奥に見えた。
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