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追憶のタムナジア  作者: Aster/蝦夷菊
【2】劇場の演目記録
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雫落とす旅人3

 首が転がり、かと思えば影に飲み込まれて消え失せる。翼がしなだれ、植物のように高速で枯れていき、彼の体が空間の裂け目のような、不可思議なものに変わっていく。

 それは人の姿をとり、やがて元のライツェアの姿に戻る。


 包帯を巻いた頭、牡羊の角、暗い双眸、短くなった髪。白いワンピースのような服に、華奢な身体。


 彼はこちらを見ると、安心したように微笑んだ。

 そして、もの一つ言わずに星扉から戻っていった。その行動に違和感を覚えながらも、私は一度子供達の方に寄る。


「二人とも、もう平気だよ」


「あ……お姉さん、ありがとう!」


「ホントに怖かったよぅ。お姉さん、ありがとう……」


「…………」


 息を漏らす。


「お姉さん、行っちゃうの?」


「まあね。でもきっと、また来るよ。二人に会いに。二人は帰れる?」


 子供達は頷く。


 歩き、星扉の前まで来ると、私は子供達に手を振りながら扉を開いた。


 ※ ※ ※


「ライツェア」


「…………」


 ライツェアは何も言わない。

 彼に何があったのか、既に明らかではあった。しかし、彼の視線が、何かを訴えてきているのは分かる。

 お願いだから、何も言わないでくれ。……だなんて。


「……そう。疲れたのはお互い様だよね。貴方はもう部屋に戻ったら? 私は温室に行って来るよ」


 言うと、ライツェアは頷いて星書庫を後にする。


 恐らくだが、────彼は代償変換の相手に自分を選んでいる。自分と私達の間で、直に代償を取り替えている。というよりは、自分からは祝福を、相手からは代償を与えたり取ったりしているのだ。

 故に、あまり顔色が良くなかったのだろう。右腕の欠損を取らなかったのは、私の心情もあるだろうけど……大きいのは、自分のやろうとしていることがバレやすくなるから、か。


「……バカだよ、貴方は」


 責めはしない。でも、肯定もできない。


 扉の連なる部屋から書庫に足を踏み入れると、向こうからスピカが薄ら笑みを浮かべて近付いてくる。


「あら、どこへ行っていたのかしら」


「ううん。ちょっと落とし物…………」


「……? どうしたの、そんな顔して」


「いや、そんな色だったんだと思って。スピカは不思議な色だね、でも……私は好きだな」


 色盲が取られたからか、スピカの赤と青のたらされた白い髪が見える。何かまだらな髪だとは思っていたけれど、配色がわかるとイメージが少し違ってくるかもしれない。


「随分とまた急な話ね。……そういえば、ハナミが呼んでいたわよ」


「ちょうど、温室に向かうところだったんだ。教えてくれてありがとう」


「どういたしまして」


 空っぽな返事。スピカもライツェアも、真意を隠したがるのは何故なのか。




「ハーヴェの代償変換は無事終わった。……全く、ミーに何も言わず、無茶ばかりをするのね…………あの子は」


 足が止まる。振り返れど、スピカは椅子に腰掛けて紅茶を嗜んでいた。何か小さくこぼしたのを、聞き逃した。よく聞いていれば、何か分かったかもしれないのに。

 ……いや、よそう。突っかかっても、今の状態じゃまともにスピカとやりあえない。


 ゴーストライターの戦闘能力は!一応ランキング付けしたことがある。…………カルミアが。


 スピカが一番上、次にライツェア(不明な点も多いけど)と蓬、次に私。その次はイオとカルミア、次はシアとエリオット、そして想華。

 時を止めれる想華が一番下なのは、純粋な戦闘能力を見ているだけで、能力の強さでは無いとのこと。能力の強さというより、どれだけ力を上手く扱えられるか、どんな状況でも柔軟に対応できるか、などの項目がある。らしい。


 カルミアの異常なゴーストライターへの尊敬心は、私も少し首をひねる。


「……って、そんなこと考えてる場合じゃなくて」


 温室の扉に手をかけ、横に開ける。


「ハーヴェさん! 来てくれて嬉しいです」


「何か用があるって聞いた。どうしたの」


「えぇとですね、実は……“朝顔”っていうお花があるじゃないですか」


 頷く。と、ハナミは一つの朝顔を指差して、毒性を確かめられる魔導具をそれに翳す。というか花弁に触れさせる。

 それは少しずつ色を変え、反応した。


「どうやら、お花は世界によって毒性等の特徴が少し変わってくるみたいです」


「新発見だね」


「はい!」


 ────何かあれば、すぐ動けるようにしないとな。

 薄ぼんやり思いながら、私はハナミの頭を撫ぜた。

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