雫落とす旅人1
星扉を抜けると、途端に強い風が吹いてくる。風を受けようと背中の右から生えている翼を顔の前に開き、ライツェアの指示を待った。
「九時の方向、守る対象の子供二人です。少し瞼触らせてもらいますね」
というと、彼は私の瞼に手を重ねて何か唱える。直後シルエットが光を纏い、おぼろげに暗い視界に現れた。おそらく彼が施した魔術の一つなのだろう。小さな白い光が二つ、赤い光が本当に大勢。赤は魔物なのだと考えるのが妥当か。
とても役に立つ魔術だ。
「全く、本当にどうして子供がこんな所までいらしたんでしょうか……」
参ったな、とでも言うかのように呆れた声音でライツェアがこぼす。私は左手にしっかりと剣を握り、駆け出す。彼も続いて、憎悪の気配を増大させていくのを感じた。
後ろを振り返れば、紫の光がある。これがライツェアだ。
ひとまず色は覚えられた。この状態で光の色は視認できることが驚きだが、今はそこに突っかかっている場合ではない。
これも子供達に課された運命だと言うならば、私がそれを許さないのだから。
身体のシルエットを表すように光ってくれているお陰で、きちんと攻撃を避けながら切り伏せることができている。
頭を下げて振りかぶられた爪の合間を通り抜け、首元を狙って剣先を舞わせた。思い通り首が落ち、今度はその首を持って投げ飛ばす。それは周りの魔物を巻き込んで木々に衝突した。音からして、木にぶつかって他の魔物の衝撃も受けた奴は潰れている。
確認している暇も無く、大きな鉈がこちらに伸びて来た。
と、紫色の光がそれを大きな翼の一つで薙ぎ払った。一度交代して全貌を確認すると────確かに化物ではある。
翼の先には爪がついていて、左右三つずつ生えている。牡羊の角もシルエットで見受けられ、髪が短くなったのか彼の首元から花の形をしたものが伸びているのも見えた。それと、モーニングスターのような武器を持っているのも。
頭に巻いていた包帯が伸び、翻っている。と、魔物に飛びかかっていく。私もと踵を返し、その場で回転しながら剣を振り滑り込んで魔物を薙ぎ払った。
※ ※ ※
暫くそうして戦っていたものの、キリが無く、私は突然衝撃を受けて木に背をぶつける。後ろから小さな悲鳴が聞こえたので首を回せば白い光が二つ揃ってこちらをのぞき込んでいるのが見えた。
剣を突き刺し、支えにして立ち上がる。瞬間────、
「────っ、眩し……?」
直後、目が眩む程に多彩な世界が目の前に広がった。
「……お姉ちゃん、大丈夫?」
震えた声で聞いてくる子供らに振り返る。
「大丈夫。それより、目を瞑っていなさい。貴方たちには残酷すぎるもの」
「…………」
言われた通り、素直に頷いて後ろを向き目を手で覆う。それを見てから、私は踵を返してライツェアを見た。
こちらを、ライツェアも見つめていた。翼を広げ、鮮血に染まった羽が翻り、首から頸動脈を食いちぎるように花が出ている。暗い双眸がある筈の顔には黒い液体が垂れ、かろうじて右目がこちらを映しているのは見える。
「────」
彼が指を鳴らすと、魔物の影が濃くなり、鎖が突き出した。それらは丁度心臓部と首を狙って貫いていき、魔物の悲鳴があたりに広がる。
息を飲み、しかし私はまた走り出す。まだ魔物はやってきていて、これはもう、この世界の設定がどんなであろうとありえない、不可思議な現象なのではないかとさえ思った。
「ライツェア!」
叫ぶが、彼が気付く様子は無い。それはそれで少し寂しいのだが、自分で自制がきかないと言っていたのだから、考えられる可能性の一つだと再認識する。だから、私は剣を振るって再参戦するのだ。
鎖が霧散し、苦しみながらまだ生きながらえている魔物の首を落とす。静かに、無駄の無い動きで連鎖させなければ、私が絡めとられる原因が時間以外にも増えてしまうことになる。
何より、これの次にライツェアの首も落とさなければならない、という決定的事実が迫っていることが気を散らしてくる。
ああも律儀に、何も含まず「殺せ」と言ってくる人物は初めてだった。




