北の書8 ~思春期最大の悩み 恋のきっかけ~
お茶を一口飲んでから愛理ちゃんは話し始めた。
「同じ学校、同じ学年なので最初はかっこいい人がいるなと思っていただけでした。元気な男子って教室じゃなくて廊下でふざけることが多いじゃないですか、なので休み時間や移動教室のときに見かけていました。」
廊下で騒いで先生から怒られるまでがワンセットよね、懐かしいわ~!愛理ちゃんの話の腰を折らないよう黙って聞くアタシ。
「意識し始めたのは、2年生の2学期です。夏休み明けに習字の授業があったんですが、私そのとき習字セットを家に忘れて登校しちゃったんです。同じ授業を受ける子に借りるわけに行かないし他のクラスの友達に借りようと思って、その子のクラスを訪ねたんです。そうしたらその子、運悪く休みで…。」
「分かるわよ、知らない人ばかりの教室に行くのって勇気がいるわよね。」
「はい。だけど習字セットは誰かに借りないと授業を受けられないし、教室の入口でどうしようかなって心細かったんですけど、そうしていたら小野くんの方から話しかけてくれました。わけを話すとじゃあ俺のを使いなよ!と言って彼の習字セットを貸してくれたんです。今までで一番嬉しい出来事でした。」
なるほど、さっきだから彼は優しいって言っていたのね。確かにそれはキュンと来るわね~青春時代に戻りたいわぁ、などと思うアタシをよそに愛理ちゃんの話は続く。
「その貸し借りのときに少し話しただけだったんですけど、私はしばらくそのことが頭から離れなくて。気づけば小野くんのことを追いかけるようになっていました。例えば保護者向けに配られるプリントに彼の名前がないか、とか体育祭で彼がどの競技に出場するかなどを無意識にチェックしてしまうようになっていました。今まで小説やマンガの恋愛シーンを見て恋ってどんな感じなんだろう、と思ってたんですけどきっとこれが私の恋なんだと思います。」
そこまで一息に話す愛理ちゃんの頬、いや耳まで真っ赤になっている。
「愛理ちゃんにとっての初恋の人ってことね。いいじゃない、それに愛理ちゃんとカップル成立したら美男美女になってアタシ的にはすごくお似合いだと思うわよ?そうそう話を聞いてると思い出すわー、恋ってひょんなことから始まるのよね。」
よほど恥ずかしいのか未だに顔を真っ赤にして下を向いている愛理ちゃん。そういえばこの子、お父さんに似ているわね…子供は異性の親に似る、なんてよく言うけれど。
「愛理ちゃんも彼と同じ陸上部に入っちゃえばもっと仲良くなれたのに。」
アタシが何気なく口にした一言を聞いて愛理ちゃんは難しい顔をする。
「でも好きになったのが中2の秋ですよ?部活動は3年生の春で引退ですから、そんな中途半端な時期に陸上部に入部届なんか出したら間違いなく周りに小野くん狙いだってバレます。」
「いわゆる"好きバレ"ってやつかしら、確かに思春期の子には避けたい問題だわね。でも将来的にお付き合いしたいならちょっとは仲良くなっておきたいわよね~、いきなり愛の告白をされたって向こうも戸惑うだろうし…。」
※"自分の好きな人が周囲の人にバレること" = 好きバレ
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※この話は一部フィクションです。
予約更新できてなかったので慌てて更新。