東の書8 夏休み前に。1
7月某日、今日は久しぶりに愛理ちゃんと会う日。アタシはたまに連絡を取り合っていたが、愛理ちゃんは入学したての高校生活に馴染むのに必死だったらしい。しかも彼女は5月に学校からバイトの許可が出てからすぐに洋菓子店へのバイトが決まったらしく、新しい学校生活・新しい友だち・新しいバイト…そんな生活の彼女をアタシのわがままで拘束するわけにもいかず、メッセージだけに留めておいた。愛理ちゃんが学校に馴染んでいきどんどん友達が増えていき、またバイトに慣れシフトが増えるに比例してアタシへ連絡が来る頻度が減っていった。少し寂しい気持ちもあったが、それだけ愛理ちゃんが新しい環境でうまくやっている証拠だ。アタシは見守ることに徹していた。
そうしている内にアタシの事務所にも新人が入ったことで、普段の業務に加え新人の面倒を見るのに忙しくアタシも仕事と日常に追われていた。そんな中、愛理ちゃんからすごく久しぶりにお誘いのメッセージが来たのだ。
『お久しぶりですのり子さん、バタバタしている内に明日から夏休みに入ります!良かったら私のお店に来ませんか?店長に話したらべっぴんさんにはサービスしちゃうよって歓迎の姿勢でした。特に私のバ先ってお菓子ばっかりだから、夜は基本的に空いてるんですよ。』
※バ先…バイト先、の略。
うーん、誘ってもらったのは嬉しい反面、美人だのなんだのと情報を入れられてしまうと相手のハードルが上がるのよねぇ。勝手に期待させて勝手にガッカリされるのってけっこう傷つくものなのよ。まぁいいわ、アタシがその期待に添えるようしっかりメイクして出かければいい話しよね!必ず店を行く旨を返信して就寝した。
私が翌日愛理ちゃんから言われたバイト先へ行くと、クッキーやケーキをメインに売るお店だった。店内に広いとは言えないがイートインスペースがあり、私はその一角に座った。どうやら愛理ちゃんもバイトが終わったようで、従業員割引を使って私の分まで買ってくれた。もちろん代金は私が払ったけどね。
ちなみに恰幅の良い男性の店長さんがサービスしてくれて、新作のクッキーを6枚と飲み物をアタシと愛理ちゃんにそれぞれくれた。中年くらいだろうか、よく笑う豪快な人という印象。
「店長さん、のり子さんのこと気に入ったみたいですね。最初は飲み物しかサービスしないって言ってたんですよ。副店長の奥さんにバレなきゃいいけど。」
「愛理ちゃん、久しぶりに会ったけどバイトも学校も順調みたいで安心したわ。」
「えっ分かります?今は何もかも楽しい時期って感じです!」
「分かるわよ、だって表情が生き生きしてるもの。あらこのクッキー、おいしい。それになんだか表面はカリッと香ばしいのに、中はしっとりしているのね。」
「それアップルティー風味らしいですよ。鼻に抜ける香りがとっても良い匂いしますよね、店長おすすめの自信作なんですって。焼き方にこだわっているみたいで毎日営業終了後にいろいろ試していました。」
「ってそんなこと聞きに来たんじゃないわよ。どうなのよ、例の彼とは。それとも他に好きな子でも見つかった?」
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




