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おまけ その後のはなし

 世間のお正月ムードも終わり、日常が戻ってきた日曜の午後、奈美子はソファーに座り、暖かいコーヒーを飲みながら寛いでいた。

「はぁ、あたたまるー」


「……ん? 何ゴソゴソしてるんですか?」

 ガサガサと物音がするので、陽介のいるキッチンの方を見ると、棚の中の整理をしているようだった。

「ちょっと、中の片付けを……って奈美子さん、何か、カップ麺前より増えてませんか?」

 ジロリと怪しい視線を送られ、奈美子は思わず目をそらす。


「え、えぇ? ……気のせいじゃないかな?」

「もー、俺がいない間、こんなのばかり食べてたんでしょ」

 陽介の説教が始まりそうで、奈美子は耳を塞ぎ、キッチンに背を向けて座り直す。


「だって……めんどくさいから」

「めんどくさがってばかりじゃダメです。20代でも、健康に気を付けないと、体調崩しちゃいますよ」

「へ? 20代?」

 陽介の言葉に、奈美子は不思議そうに聞き返した。


「え? 奈美子さん、歳、俺と同じくらいでしょ?」

「……に」

「?」

「……さ、32歳、ですけど」


「えぇ!?」

 陽介は驚いて持っていたカップ麺を床に落っことした。


「べ、別に隠してた訳じゃないですから! その、聞かれなかったし……」

 奈美子はばつが悪そうに、モジモジしながら答える。

「い、いやぁ、すみません、急な事で驚き過ぎました。それにしても、全く見えませんね……」

 陽介は片付けをやめて、奈美子の顔を興味津々に観察し、時々「へぇー」「ほぉー」と驚きの声を上げている。


「ちょっと、人を珍しい動物みたいに見ないでください」

「あはは、すみません。でも、そっか、年上だったんですねぇ」

 嬉しそうに笑いながら話す陽介を、奈美子は不思議そうに見つめる。


「イヤじゃないんですか? その、年上」

「何でです?」

 奈美子の問いかけに、陽介はキョトンとした顔で聞き返す。

「いや、ほとんど10も上だし、気にならないのかなって」

「そんなの、関係ないですよー。俺は今の奈美子さんが大好きですから!」

 陽介はなぜか自信満々に、胸を張って言いきった。


「あなたって、時々すごく大胆なこと言いますね……」

 陽介のあまりにも堂々とした様子に、奈美子は少し困惑しながら答えた。

「え? ……もしかして、奈美子さんは違うんですか?」

 さっきと打って変わって、急に動揺する陽介の態度が面白くて、奈美子は笑いを堪えていた。

「ねぇ、笑ってないで、何とか言ってくださよー」

 笑い続ける奈美子の体を、陽介は大袈裟に揺さぶる。


 ピロン


 ちょうどその時、スマホの通知が鳴り、奈美子はサッとスマホを取りに行く。その拍子に、陽介はソファーに顔から倒れ込んでしまった。

「あっ」

「……どうしたんです?」

 陽介はムスっとしながら、奈美子のスマホを覗き込む。

「今から歩実が来るみたい。何か、帰省のお土産くれるって」

「あ、奈美子さんの同僚さんですね。お土産何だろー、楽しみだなー」

 呑気にお土産の内容を予想している陽介とは対照的に、奈美子は難しい顔をしていた。

「どうしたんです? 難しい顔して」

「何か、ちょっと嫌な予感が……」


 ピンポーン


「はやっ、もう来たの!?」

「はいはーい」

 陽介はパタパタと玄関を開けに行くと、歩実はそれを待たずに、バーンと勢い良くドアを開けた。


「やっほー! 奈美子、川崎くん! あけおめー」


「あ、あけおめ」

「明けましておめでとうございます!」


 だいぶ遅めの新年の挨拶を済ませると、歩実は遠慮なくソファーに腰かける。

「ごめんね! 急に押し掛けてー。職場で渡そうかと思ったんだけど、思ったより賞味期限がギリでさー」

「ほい、フルーツ大福だよ! うちの地元で結構有名なんだ。めっちゃ美味しいんだよー」

 歩実の持ってきた大きな紙袋を、じっと見ていた陽介は、ぱぁっと嬉しそうな表情で受け取った。

「ありがとうございます! お茶いれてきますね」


 手際よくお茶の用意をする陽介を、歩実は感心しながら眺める。

「ほんとに、良くできたお嫁さんよねー。誰かさんと大違い」

「ちょっと、変に比べないでよ。私に家事スキルがある訳ないんだから」

 ジトっとした目で歩実を見て、諦めたように奈美子は呟く。


「奈美子さん、開き直っちゃだめですよ」

 陽介はお茶と大福を乗せたお盆をテーブルに置いて、奈美子をなだめるように声をかけた。

「お、お茶ありがとう、川崎くん」

 歩実は真っ先にお茶を受け取り、遠慮なく飲み始める。

 奈美子はそれを横目に見ながら、自分も大福をパクリと頬張った。


「んー! ……これ美味しい」

「でしょ、ちょっと良い値段なんだけど、たまにご褒美で食べたくなるんだー」

「あ、これ柿が入ってる。甘すぎなくて美味しいです!」

「……ん? 奈美子さん」

 陽介はふと、奈美子の口元にクリームが付いているのを見つけ、ずいっと身を乗り出す。親指でクリームを拭き取ると、自然にそれをペロッと舐めた。


「はぁーあ、いいなぁ。お二人は仲がよろしくて……」

 その様子を見ていた歩実が、わざとらしく羨ましげに二人をからかう。

「わ、すすすみません! つい……」

「ちち違うわよ、別に、いつもこんなんじゃ……」

 二人して慌てふためき否定するが、歩実はじーっと怪しげに見つめていた。


「はぁ、別にいいじゃん、付き合ってるんだし。……ところで奈美子さん? 優しい歩実さんが相談に乗ってあげた事、覚えてるよね?」

 歩実はパチッとウインクをし、まるで奈美子に何か催促をするように訴える。

「うっ……それは」

「私もさぁ、そろそろ良い歳だし? なかなか出会いもないわけよー。どこかの優しい人が、いい人紹介してくれないかなー、なんて」


 二人の様子を、ポケっとした顔で聞いていた陽介は、急に何かを閃いて、大きな声をあげた。

「ああぁ!」

「うわ! なに、ビックリしたー」

「歩実さん! いい人、いるかもしれないですよ」

「マジ!?」



「……と、言うことがありましてね」

 陽介は仕事の休憩時間、田村に昨日の出来事を簡単に説明した。

 田村は落ち着いて、静かに話を聞いていたが、説明が終わると、ふと重い口を開いた。


「……陽介くん、その女性というのは、奈美子さんの同僚でいいんだよね?」

「え、ええ」

 いつもと違う、田村の真剣な様子に、陽介はごくりと息を飲む。

「と、言うことは、その人も、看護師さんでいいのかな?」

「はい、そうですけど……」

 そう言うと、田村は静かに微笑み、だんだんと怪しい笑い声に変わっていく。


「よっしゃ! 出会いゲット! しかも、年上看護師さんとは……俺、実は看護師さんに憧れあるんだよねぇー」

「そ、そうですか……それは、良かったです」

 陽介は田村の変貌ぶりに多少引きつつも、とりあえず喜んでもらえて良かったと思っていた。

「あ、そうだ。どうせなら、陽介くんや奈美子さんと4人で食事会ってのはどう? 噂の奈美子さんに、俺も会ってみたい」

「うーん、俺は構いませんけど、奈美子さんに聞いてみますね」

「よろしくー。あぁ、楽しみだなぁー」

 田村は軽くスキップをしながら、その場を去っていった。


 1ヶ月後、奈美子たちは、田村が予約したおすすめの居酒屋で、食事会をすることになった。

 歩実と奈美子が先に着いて待っていると、少し遅れて陽介たちがやってきた。

「すみません、遅れちゃって」

 申し訳なさそうに謝る陽介に続いて、田村が軽く挨拶をする。

「ほんと、すみません! あ、俺、陽介くんの先輩やってる田村(まこと)です」

「いえ、そんなに待ってないですよ。私、黒沼奈美子です。こっちは同僚の歩実で」

佐崎歩実(さざきあゆみ)でーす! よろしくね!」

 奈美子の紹介を待ちきれず、歩実は元気に名乗り出た。


「なかなか予定が合わなくて、すみません。どんどん先延ばしになっちゃって」

「いえいえ、そんなの、気にしませんよー。それより、美人のお二人に会えて嬉しいです!」

「やだー! 田村さんって見る目ありますねー」

「ちょ、痛いって」

 田村が調子良く答えると、歩実は喜んで、奈美子の肩をバシバシ叩く。陽介はそんな田村を全く気にせず、嬉しそうにメニューを眺めていた。

「皆さん、何飲みます?」

 陽介の質問に、全員が気持ち良く「生ビール」と答えた。


「陽介くん、今日は潰れちゃだめだよ。日本酒飲むならゆっくりね」

 美味しそうにビールを飲む陽介を、田村は面白がってからかう。

「ちょ、今日は大丈夫ですって」

「何々? 川崎くん、前は酔い潰れちゃったの?」

 歩実が興味津々に食いつくと、田村は得意気に語りだした。


「いやぁ、去年の忘年会でさ、陽介くん途中で泣き出しちゃうし、飲みすぎちゃうしで、俺も介抱したんだけど、ほんと大変だったんだよ。ちょうど奈美子さんと何かあった時だったから、もうボロボロのボロ雑巾みたいだったよー」

「……うぅ!」

「あはは! ウケるー。大変と言えば、奈美子もだったよねぇー」

 密かにダメージを受ける奈美子と違い、歩実は当時を思い出し、自分も笑い話に興じる。


「……さい」

「え?」

「奈美子しゃんて呼ばないでください!」

 急によくわからないことで怒りだし、歩実と田村はギョっとして陽介の方を見る。陽介はすでに酔っているようで、頬は赤く据わった目をしている。

「やっぱり酔ってんじゃん!」

「いや、酔うの早っ」


「奈美子さんを、奈美子さんて呼ぶのは、僕だけなんでしゅよ。お二人は、黒沼さんって、呼ばないとぉ」

「ダルっ、なんか川崎さん、ウザくなってない? ちょっと奈美子、何とかしなさいよ!」

「陽介くん、ちょっとピッチ早いんじゃない? ほら、もう水にしときなよー」

 普段からは想像のつかない、陽介の酔っぱらい姿に困惑し、歩実は思わず奈美子に助けを求める。


「……あなた、田村さん、でしたっけ?」

「は、はい? なんで、しょうか」

 これまで一言も喋らなかった奈美子が、不意に田村に話しかける。その冷静な声に、田村は冷や汗がタラリと流れた。

「あなた、普段から、陽介って呼ばれてるんですか?」

(なになに? なんかめっちゃ嫌な予感するけど……)

「は、はぁ。入社した時から……」


 田村の答えを聞くと、奈美子はだんだんと目を潤ませ、泣き出しそうな顔になる。

「う、うぅー、ズルいよぉ。私だって、最近やっと名前で呼び始めたとこなのにぃぃ……うぅ」

「ちょ、ちょっと、なみ、じゃない黒沼さん? 落ち着きましょうよー。歩実さんも何か言って」

「わたし知らなーい。あ、生搾りレモンサワーくださーい!」

 オロオロする田村をよそに、歩実はしれっと、自分の酒だけ注文する。


「あぁ! 奈美子しゃん、何泣いてるんですか?」

 奈美子の泣き声を聞き付け、事態を更にややこしくすべく、陽介が会話に入り込む。

「うぅ……田村さんがぁ、ズルいんだよぉー」

「田村さん、奈美子しゃんを泣かせるなんて、いくら先輩でも許せましぇんよー」


 悪質な酔っぱらい二人に絡まれて、田村はもうやけくそになっていた。

「ちょっと二人とも!? 何で酔うとそんなバカになるんだよー」

「もう知らん! 歩実さん、俺のハイボールも頼んで」

「あぁ、俺も、八海山!」

「うぅ……白ワインも……」

「陽介くんは日本酒禁止!」

「ふふ、こりゃ、荒れるわよー」


 時刻は深夜になろうとする頃、二人の酒乱により、荒れていた飲み会はようやく幕を閉じる。歩実と田村は、協力して奈美子たちをアパートに連れ帰り、ふぅっと一息ついた。


「はぁ、これで良し」

「奈美子の酒乱は知ってたけど、川崎くんもなかなかねー」

 歩実はなぜか感心しながら呟く。田村はふっとスマホを見て、何か思い付いたように歩実に声をかける。

「ね、歩実さん、明日休みだよね? よかったら、2軒目、どうですか?」

「いいね! その誘い、乗りましょう。あのアホコンビのお世話で疲れたことだし、飲み直しね!」

 保護者のような役割だった二人は、再び夜の繁華街へ消えていくのだった。



 厳しい冬の寒さにも終わりが近づき、あたりは春の暖かい空気が流れ出す。以前より広いアパートに引っ越した奈美子と陽介は、沢山の段ボールに荷物に囲まれ、荷物の整理をしていた。

「陽介さん、寝室の荷物の片付け終わりました?」

「えぇ、こっちは大体。それにしても、引っ越しってやっぱり結構大変ですね」

 陽介は疲れた様子で、首をポキポキ鳴らしている。

「ちょっと休憩しましょうか。すぐに終わらせなくても大丈夫ですし」

 奈美子が提案すると、不意に部屋のインターホンが鳴った。

「誰だろ?」

 奈美子がインターホンの画面を見ると、見慣れた二人が玄関の外に立っていた。

「あ!」

 玄関を開けると、歩実と田村が遠慮なく入ってくる。


「やっほー、奈美子!」

「引っ越しお疲れさま、陽介くん!」


 新居のベランダからは、春の日差しが差し込み、まるでそれぞれの新しい生活を応援しているようだった。






これまで読んでくださり、ありがとうございました。おまけの話をもちまして、完結にさせて頂きたいと思います。

話の流れを考えるにあたり、全然出てこない時もあったのですが、楽しめて書けたと、自分では思っています。このおまけの話も、台詞を考えるのが楽しくなりすぎて、想像よりも長くなってしまいました。

また機会があれば、何か物語を考えたいと思っていますが、文章の勉強のためにも、しばらくは本を読んだり、このサイトで他の方々の作品を読ませて頂こうかと思っています。

最後まで見ていただき、ありがとうございました。気軽に感想など頂けるとうれしく思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後に4人のハッピーエンドが見れて、見てきた読者は悔いなく完結を迎えられますね。やっぱり歩実のキャラはが個人的にはポジティブ感とお姉さん感があって好きです。 [一言] 筆者側の楽しさも伝わ…
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