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村の決まり事

 んー、村の約束事か、何かあれば村人総出で、困難に立ち向かうのだろうな。

 そうしないと、こんな辺鄙へんぴな場所にある小さな村は、存続が出来ないと思う。


 それに僕が断れば、ようやく元の状態へ戻った〈サト〉ちゃん一家が、また差別される恐れもあるし、無理をしてお父さんが代わりに討伐に参加して、また怪我をう可能性もあるぞ。


 だけど、〈魔物〉で〈小鬼〉なんだろう、小さくても鬼は鬼じゃんか。

 怖い物は怖いとしか言いようが無いな。


 「えぇっと、〈小鬼〉ってどれほど強いのですか」


 「うーん、〈小鬼〉って言うぐらいだから、背はうんと低いんだ。 そうだから力も弱いし頭もそれほど良くないんだよ。 それに、エサでおびき寄せて一匹ずつ始末しまつするから、大きな怪我はまずしないと断言出来るよ」


 「後ろで震えていても良いのですか」


 「ははっ、それでも構わないよ。 ちょっぴりからかわれるとは思うけど、初陣ういじんは皆そんなもんさ。 村の約束事は、役に立った方が良いに決まっているが、参加してその場に居ることが、何倍も大事なことなんだよ」


 ふーん、能力の差があるため結果をあまりわないが、村の決まり事、村の調和をみだす人物は徹底的に排除するってことなんだな。

 閉鎖的で息苦しい気もするけど、村人全員が助け合って暮らしを守っているってことか。


 「分かりました。 震えていて良いなら、参加してみます」


 「おっ、〈ゆいと〉君、よく決心してくれたね。 ありがとう。 早速明日から訓練が始まるんだ。 お昼を食べたら集会所の前に行ってくれよ」


 〈小鬼〉っていうヤツの討伐が、僕に出来るとは思わないけど、この村で暮らして行くには、討伐に参加するのは避けられないことだと思う。

 後ろでガタガタ震えているぐらいなら、何とか出来るだろう。


 僕がこの村で暮らせなくなれば、それは即、死に繋がってしまう。

 この村から出て行くのは、一人ぼっちで〈小鬼〉にぶち当たってしまうことと、いちじるしく近いと思う。

 村の柵の外には、〈小鬼〉っていうヤツが何匹もいるんだから、討伐が必要なんだろう。

 〈小鬼〉にどうせぶつかるのなら、村の討伐隊と一緒の方が、何十倍もマシなのは間違がない。

 誰が考えてもそう思うし、僕もそう思う。



 集会所の前の広場に、僕はオドオドしながらやってきた。

 〈サト〉ちゃんに、手を引かれているのが、かなりカッコ悪いぞ。


 僕は人と話すのが苦手で、知らない人の中に入っていくのも、もちろんすごく嫌なんだ。

 討伐の鍛錬に行く前になって、まざまざとその問題にぶち当たって、暗い顔をして固まっていたんだ。


 僕はこの世界へ来てから、褒められることが多くて、調子に乗っていたらしい。

 〈小鬼〉の怖さが先に立ち、知らない人への恐怖を昨日まで忘れていたらしい。

 僕は人との距離が上手くとれないことを、ようやく思い出して、足を動かすことが出来ない。

 少しこの世界に慣れたため、最初の必死さが無くなり、元の僕の性分が表に出てきてしまったんだろう。


 〈サト〉ちゃん一家は、僕と同類の仲間外れだったので、すんなりと馴染めたのだと思う。


 「〈ゆいと〉お兄ちゃん、〈サト〉が手を引っ張ってあげるね」


 「えっ、〈サト〉ちゃん、僕一人で行けるよ」


 「うん、そうだと思うけど、〈サト〉は〈ゆいと〉お兄ちゃんと、手を繋ぎたい気分なんだよ。 うふふっ」


 「へっ、そうなの。 〈サト〉ちゃん、ありがとう」



 「はぁー、鍛錬に女連れで来たのか」


 「おぅ、見せつけてくれるな。 お似合いの恋人のお出ましだぞ」


 「あははっ、いよー、ご両人。 熱々で焼けちゃうー」


 広場に集まっていた数人の男達のうち、何人かの若い男が僕達をニヤニヤ笑いながら、からかってきた。

 からかいはしないけど、他の人達も皆笑っているぞ。


 僕は顔がカッーと羞恥しゅうちで熱くなり、いたたまれなくって、この場から逃げたくなったけど、〈サト〉ちゃんの手を振り払う勇気も持っていない。


 「あれ、〈サト〉はモテモテなんだね。 でもごめんなさい。 〈サト〉はもう〈ゆいと〉お兄ちゃんのお嫁さんになるって決めているの。 うふふっ」


 えぇー、お嫁さんってどういうこと。

 僕は吃驚してしまい、いたたまれなさを忘れて、〈サト〉ちゃんの横顔を唖然あぜんと見詰めるしかない。


 〈サト〉ちゃんは、堂々と小さな胸を張って、広場の男達をにらんでいる感じだ。

 鼻とか唇とかの顔のパーツは小さいのだけど、僕よりも、よっぽど大人の顔をしている。


 女の子の方が男の子より、成長が早いとは言うけど、精神年齢は僕の方が年下かも知れないな。


 「ははっ、それは残念だな。 息子の嫁にと思っていたんだが、先約があったんだな」


 「〈ラチ〉ちゃんも良い子なんですが、ごめんなさい。 うちの〈ゆいと〉をよろしくお願いします」


 〈サト〉ちゃんは、男達へ頭を深く下げて、僕にニコッと笑いかけた後、家の方へ帰っていった。


 どう見ても、小学校の高学年くらいだよな。

 この世界は学校もないし、子供は重要な働き手で、貧しい生活のため寿命も短そうではあるけど、しっかりし過ぎだよ。

 僕はまるで、ぐずってお母さんに学校まで連れてきてもらった、小学校の低学年生だ。

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