表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/9

〈白の聖霊〉の加護

 「〈サズ〉、〈ハア〉さん、本当に良かったな。これで元通りになるな」


 お父さんと近い年恰好のおじさんが、バンバンとお父さんの背中を叩きまくっている。

 叩かれたお父さんは、少しも怒らず逆にとても嬉しそうにしている。


 「ははっ、本当に〈聖女様〉のおかげだよ。 俺の足も歩けるぐらいには、良くなったしな。 またよろしく頼むよ」


 「〈ハア〉ちゃん、〈サト〉ちゃんのこと良かったわね。 旦那さんの足も良くなったみたいだし、あなたの頑張りがむくわれたのよ」


 「うぅ、〈ヒイ〉ちゃん、ありがとう。 うっ、…… 」


 お母さんは涙で言葉を詰まらせてしまったけど、友達の奥さんに、労わるように背中をさすられている。


 「へへっ、〈サト〉ちゃん、明日からまた遊ぼうね」


 「うん、〈ヒヨ〉ちゃん。 〈サト〉は〈ヒヨ〉ちゃんとまた遊べるんだね。 嬉しいな」


 〈サト〉ちゃんは、お友達の手を握ってその手をブンブンと振っている。

 お友達も振っているから、二人の手がもげそうで怖いほどだ。


 まだ順番を待っている村の人に、手を振って僕達は帰ることにした。

 お父さんはまだ足を引きずっているけど、帰り道は一人で歩けるまで回復している。


 〈回復の祈り〉と言うのは、強力なものなんだな。

 〈聖女様〉って、皆に言われる訳だ。



 家に帰った後も、〈サト〉ちゃんも、お母さんも、お父さんも、すごくご機嫌だ。

 気持ちが悪いほど笑い合っているのだが、今日から元通りの生活が戻り、差別されることが無くなるんだからしょうがないと思う。


 「〈ゆいと〉君は、〈白の聖霊〉の加護を持っているのかい」


 はぁ、加護ってなんですか。

 ステータスを見られないのに、どうやって調べるものですか。


 「えっ、加護ですか。持ってないと思いますよ」


 「ほぉー、そうなのか。 〈聖女様〉がおっしゃっていた〈白の聖霊〉の加護は、てっきり〈ゆいと〉君だと思っていたんだけどな」


 「はっ、お父さん。 〈ゆいと〉お兄ちゃんは、分かっていないだけじゃないかな。 〈ゆいと〉お兄ちゃんを見つけたのは、〈千年様〉の近くだよ」


 えぇー、見つけたのは〈サト〉ちゃんなの。

 僕が〈サト〉ちゃんを見つけたんじゃないんだ。


 「あぁ、〈神隠し〉で現れたのが〈千年様〉の所なら、加護があっても不思議じゃないですね」


 「あの、その、〈千年様〉って何ですか」


 「あぁ、それは。 白い花を咲かせる大きな木なんだ。 千年以上生きていると言われている御神木なんだよ。 〈ゆいと〉君も見ただろう」


 「あぁ、あの木ですね。 確かに神々しい木ですね」


 〈サト〉ちゃんも、お母さんも、お父さんも、僕を無視して「うん」「うん」と頷いて、僕を放置したまま勝手に納得してしまっている。


 人間って困ったものだよ。

 理解不能な現象を、自分が納得出来るストーリに書き換えて、己の精神の均衡を保とうとするんだな。

 

 実害はないのだから、どうでも良いや。



 「〈ゆいと〉お兄ちゃん、〈サト〉も馬小屋で寝たらダメかな」


 えぇー、何てことを言い出すんだ、〈サト〉ちゃんは。

 僕も初めてだし、心の準備はまだ出来ていないんだ。

 んー、そうじゃなくて、〈サト〉ちゃんにはまだ早い、んー、でもないよな。


 「〈サト〉ちゃん、そんなことダメだよ」


 「うー、やっぱりダメか。 ここんところ夜になると、お母さんとお父さんの声が大きいから、〈サト〉困っちゃうんだ。 ふぅー」


 わぉー、お母さんとお父さんは何をやっているんだ。


 二人とも、足が治ったから今までの御無沙汰ごぶさたを、取り戻そうとしているんだな。

 家は広く無いんだから、声を出すのを我慢しろよ。

 〈サト〉ちゃんの教育に、はなはだしく悪い影響を与えているだろう。


 「あっ、お父さんだ」


 「おっ、今日は〈ヒヨ〉ちゃんの家じゃないんだな」


 「うん、今日は〈ヒヨ〉ちゃんが、こっちにくるんだよ。 それとね。お父さん、私は弟が良いな」


 「げっ、げほ、えぇっと、それはお母さんに言いなさい」


 「うん、分かった」


 〈サト〉ちゃんはタタッと小走りで、家の中に入っていった。


 お母さんとお父さんは、今日の夜にどんな話をするのだろう。

 興味深いな。

 お母さんの機嫌が悪くなり、今日は弟が受精するような行為こういは、たぶんしないだろうな。


 「うっ、うほん、〈ゆいと〉君に頼みと言うか、相談があるんだが、今時間はいいかな」


 「えぇ、良いですよ」


 「実はな。 〈ゆいと〉君に、〈魔物〉の討伐に参加してほしいんだよ。 〈魔物〉と言っても一番弱い〈小鬼こおに〉だから、それほど危険ではないんだ」


 おぉー、〈魔物〉って魔獣と同じようなもんだろう、いよいよテンプレっぽくなってきたな。


 だけどな。


 武道の経験も、武器を持ったこともないのに、僕にはとても出来そうにないぞ。

 とりあえず、怖いって言うのが本音だ。


 「えぇっと、僕は〈魔物〉を見たことも、武器を持ったこともないんです」


 「そんな人も多いんだ。 そのことで心配は不要だよ。 新人には訓練を受けてもらうからな。 それとこれは言いにくいことなんだが、〈ゆいと〉君のことは〈神隠し〉にあったと村に説明しているのだが、村の約束事で若い男は〈魔物〉の討伐に参加しなくていけないんだ。 そうしないと、村に居づらくなってしまうんだよ。俺の足が前みたいに動いたら、代わってあげるんだけどな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ