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〈聖女様〉

 「へぇー、〈聖女様〉ってどんな人なんですか」


 「うーん、俺達もまだお目にかかったことはないから、良くは知らないんだけどな、聞いた話では気高くてすごくお綺麗な方だそうだよ」


 「へぇー、お綺麗な方なんですか」 


 僕は何も悪くないのに、テーブルの下で〈サト〉ちゃんに足をコツンと蹴られてしまった。

 急に何だよ。


 〈サト〉ちゃんの顔を見ると、かなり不機嫌そうな表情をしている。

 こんな顔の時は、どうしていいか分からないので、触らぬ神に祟りなしを心がけよう。


 それにしても〈聖女様〉が来ることは、〈サト〉ちゃんにとって、とても良いことなのに。

 どうして機嫌が悪くなるんだ。

 女の子の考えていることは、本当に謎だよ。



 噂どおりに〈聖女様〉が、〈ジョンガ村〉にやってきた。


 〈サト〉ちゃんの家族と僕は、村の住人から距離をとられながらも、村の集会所で〈聖女様〉の祈りの順番を待っている。

 僕は背負って、お父さんをここまで連れてくる役目だ。


 それ以外にも、純然たる野次馬根性がある。

 現実に〈聖女〉がいるんだ、その姿を見ない訳にはいかないだろう。

 〈聖女様〉の胸は多くの書物で、たわわに実っているとされているんだからな。


 先に〈聖女様〉の祈りを受けた村人達は、「ありがたや」「ありがたや」と手を合わせながら、満足した様子で集会所から出てきていた。

 男性同士では、「あんな綺麗な女性は見たことがない」と話し合っているぞ。


 おぉ、期待と何かが、ふくらんでいってしまうじゃないか。


 僕達の順番が来て集会所の奥へ入ると、真っ白な修道女を着た〈聖女様〉がお付きの人を従えて、姿勢よく椅子に座っておられた。

 まだ三十歳には届いていないと思うけど、すごく貫禄かんろくがあるって言うか、とても堂々としたたたずまいだ。


 自信に満ち溢れている印象を強烈に受ける。

 〈聖女様〉だから当然なんだろう、オドオドとした自信がまるで無い人の祈りでは、誰もありがたがらないよな。


 着ている服はかなり余裕があるため、身体の線は一切出ていないし、頭巾もかぶっているから髪の毛も見えない。

 聖職者だから当たり前だけど、性的な要素は何も存在してなかった。


 胸を中心に変な期待をしていた僕は、本物の〈聖女様〉を見て深く反省するしかないな。

 期待外れだとは、頭の中でも思っちゃいけない。


 頭巾から見えている白い顔は、確かに美人だとは思う。

 柔らかな線に縁どられた顔ではあるが、意思がしっかりとした強い目と唇をされているため、可愛いと言うよりは凛々(りり)しい感じだ。


 微笑みをやされてはいないけど、怒らしたらものすごく怖いと、容易に想像出来る雰囲気をまとっている。

 普通の女性じゃないオーラがあるんだ。


 悪い言い方をすれば、すごい自信家で、すごく気の強そうな女性だ。

 僕は見ただけでもうビビッてしまったので、すみっこで大人しくしておこう。

 僕のヒロインになってくださいと言ったら、「ふん、笑わせないでよ」と返される未来しか見えない。


 「〈聖女様〉、この子は〈悪意の呪い〉にかかっていたのですが、解けたと思うのです。 どうでしょう」


 「はて、〈悪意の呪い〉にかかっていたのですか。 今見たところ、全くそのようには認められません。 もしかかっていたのならば、神がこの娘に奇跡を顕在けんざいされたのです。 後程のちほど村のしゅうに、〈呪い〉が消えたことを申し渡しましょう」


 「ははっ、ありがとうございます」


 お父さんとお母さんが、土下座をしてお礼を言っているから、ちょっと遅れてしまったけど〈サト〉ちゃんと僕も慌てて土下座をした。

 はぁ、するならするって、前もって言っておいてくれよ。


 「おっ、足が悪いようですね。 〈回復の祈り〉をとなえてあげましょう」


 お父さんの足に向かって、〈聖女様〉は何かを唱え始めた。

 小さな声で唱えているから、何を言っているのかは分からない。


 〈聖女様〉が唱え終わると、お母さんと〈サト〉ちゃんが、一斉に「お父さんの足が光っている」って騒ぎ出した。

 えっ、僕には光っているようには見えないぞ。


 「〈聖女様〉、誠にありがとうございます。 足がまた動くようになりました」


 お父さんに続いてお母さんも、また土下座をしてお礼を言うから、僕と〈サト〉ちゃんもまた土下座だ。


 「おぉ、良かったですね。 あなた方について〈白の聖霊〉が入って来られましたため、祈りの効力がとても高まったようです。 あなた方には、聖霊のご加護があるのですね。 〈呪い〉が解けたのも、そのご加護のせいかも知れませんね」


 〈聖女様〉が幸福の祈りを短く唱えたら、〈サト〉ちゃん一家の番はこれで終了だ。

 お付きの人にかされて集会所の外へ出ると、お付きの人が、〈サト〉ちゃんの〈呪い〉が消えたことを村の人達へ伝えてくれた。


 「えっ、〈呪い〉が解けたのか」


 「おぉ、奇跡だ」


 うなりのような、悲鳴のような声が、順番を待っている村人からあがり、集会所の前は一種異様な空気に包まれた。


 僕はこの村人の反応で、〈呪い〉が解けるのは滅多めったににないことで、奇跡的であることが改めて良く分かった。

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