光るヒモ
朝起きてご飯を食べてから、僕は畑で土を掘り返している。
いや、耕している方が正確だな。
あ母さんに頼まれたからやっているんだけど、かなり深く掘るように言われたのは、この畑には土の中で育つイモなんかを植えるのだろう。
汗をかいて一息入れている時に、ふと考えてみると、僕は足を悪くしたお父さんの代りをやらされているんだと思う。
困っていた時に、ちょうど良いタイミングで僕が現れたから、頼られているんだ。
僕にも〈サト〉ちゃん一家にも、これは幸福なことだったんだろう。
それは良いとして、僕の体力は貧弱だったはずだから、こんなに力がいる仕事は半日も続かないはずなのに、お母さんが驚くほど耕すことが出来たらしい。
平均的な農夫の仕事量なんて知らないけど、どうも僕の今の身体はかなり力があって、耐久力も豊富にあるようだ。
どうしてこうなったかは、分からないけど、これは一種のチートじゃないのか。
勇者でも剣聖でも賢者でもないから、目立ったものじゃないけれど、僕がずっと憧れていたものだ。
〈お前はダメなやつだ〉と言われ続けていた僕が、すごいって驚かれて頼られてのいるのは、夢のようなことなんだよ。
だからお母さんのリクエストに応えて、もっと畑を耕そう。
何か月後にはイモが食卓に乗るのを期待しよう。
昼食を食べた後に、畑を耕しながら、あることに気がついた。
〈サト〉ちゃんのお家は、集落から一軒だけ離れて、ポツンと建っている。
僕の悲しい経験から紐解くと、〈サト〉ちゃん一家は、この村の人から仲間外れにされているらしい。
何が原因か分からないけど、他の村人との交流がまるでないぞ。
近くを通りがかった村人に、僕が会釈をしても、完全に無視されてしまう。
その間お母さんは、ずっと俯いて畑の土を見ていたと思う。
村って言うのは人が少なくて、そのため必要以上に濃密な関係を求められガチじゃないか。
僕が優しい人が多そうな田舎へ行きたいと、ネットを検索した時にそう書いてあって、「わぁ、都会よりコミュニケーション能力が必要なんだ」と驚いたことがあったぞ。
それが挨拶程度のコミュニケーションも無いんだ、異常なことだと思う。
「えーん、いやだ。 いやだ。 お友達と遊びたいよ」
僕が井戸から汲んだ水で身体を拭いていると、〈サト〉ちゃんが玄関でお母さんに抱き着いてぐずっていた。
大きなお尻に手を回して、お母さんを玄関から外へ押し出そうとしていたんだろう。
〈サト〉ちゃんの友達と遊びたいって言う叫びは、いつも僕が思っていたものだ。
お母さんは、〈サト〉ちゃんの頭をなぜているけど、お母さんの顔も泣いているように僕には見えた。
可哀そうに身体が弱いから、友達と遊べないんだな。
そうだ。
飴がまだあったから、これを〈サト〉ちゃんにあげよう。
甘いものを食べたら、少しは楽しい気持ちになるかもしれない。
僕が〈サト〉ちゃんの部屋に入ると、泣き疲れたのか、〈サト〉ちゃんはベッドの上にあお向けの状態で寝ていた。
カーテンが閉じられていたため、部屋の中は薄暗かったのだが、〈サト〉ちゃんのお腹がぼんやりと光っている。
はぁー、どうしてお腹が光っているんだ。
ここは異世界だから、〈サト〉ちゃんは蛍の獣人だったのか。
いやいや、そんなバカな、蛍は獣じゃない昆虫だよ。
〈サト〉ちゃんに近づいてみると、〈サト〉ちゃんのお腹の中に、蝶々結びで結ばれた光るヒモが存在している。
すごく不思議な事であります。
お腹の中に光るヒモがあって、僕がなぜそれを見ることが出来るのだろう。
変な夢を見ているんじゃないのか、それとも僕がロリコンへと転落してしまい、少女のお腹を触る奇怪な理由を作ってしまったのだろうか。
うーん、お腹に光るヒモがありましたので、お腹をフニフニと触りましたでは、誰も納得しないし、犯罪者へ一直線だな。
でもだ。
あのお腹の中の蝶々結びを、どうしても解きたい。
解けば、すごくスッキリしそうなんだよ、心の奥がムズムズしてしまう。
言っておくけど、股間じゃないぞ。
ちょっとだけなら良いだろう。
ちょっとだけなら、犯罪じゃないはずだ。
三秒だけなら、触っていないのと何の代わりも、あるはずがあるもんか。
僕は〈サト〉ちゃんのお腹の中に手を突っ込んで、光っている蝶々結びをグィッと引っ張った。
お腹の中に手を突っ込めるはずがないから、たぶんそう見えただけだと思う。
「あっ、いやっ。うぅーん。あぁん、らぁめ、もうやめてー」
〈サト〉ちゃんが少女らしからぬ色っぽい声を出して、目覚めたようだ。
真っ赤に染まった顔で、僕をジトッと見詰めている。
やべぇ、僕が触ったのがバレている感じだ。
「あははっ、〈サト〉ちゃん、飴食べる」
僕は慌ててポケットの中の飴を、〈サト〉ちゃんへ差し出した。
頼みます、これで誤魔化されてください。
「〈ゆいと〉お兄ちゃん、〈サト〉にエッチなことをしたでしょう」
わあぁぁぁ、酷いよ、〈サト〉ちゃん。
エッチなことじゃなくて、お腹の中のヒモを解いただけだよ。
「えっ、そんなこと絶対にしていないよ」
「ふぅーん、そう言うことにしておいてあげる。 すごく気持ちが良かったし、身体がすごく楽になったから、誰にも言わないであげるね。 ふふっ」
〈サト〉ちゃんが、悪女の様に薄く笑っているけど、約束を破らないことをお兄ちゃんは信じているからね。
きっとだよ。
お兄ちゃんは、異世界の牢屋は経験したくないんだ、たぶん衛生環境が劣悪だと思うんだ。