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女の子

 「お嬢さん、僕は怪しいものじゃありません。 幼女好きでも、もちろんないのです」


 んー、幼女好きは言わなくても良かったな。

 大人の女性が、好きだと言っておくべきだったか。


 「…… 」


 女の子は立ち止まったまま、じっと無言をつらぬいている。


 こんな森の中で、知らない人に出会ったら、それは警戒するよな。

 僕だから警戒しているとは、思いたくない。


 「そうだ。 あめを食べる。 すごく甘いよ」


 〈すごく甘いよ〉という言い方が、自分ながらかなり怪しいヤツだな。

 幼児専門の犯罪者が言いそうなことだよ。


 「くれるの」


 おぉー、反応してくれたぞ。


 この飴は、隣のちょっとボケ始めたお婆ちゃんが、毎朝、待ち構えたように僕へ押し付けてくれるんだけど。

 僕は正直〈嫌だな〉と思っていたんだが、今となっては感謝しかない。

 ありがとう、〈れいこ〉お婆ちゃん。


 「もちろん、あげるよ。 三個あるんだ」


 女の子はトコトコって感じで近づいてきて、僕の手の平から飴をそっと一粒摘まんだ。

 三個全部取らないのが、何ともいじらしいな。


 「本当に食べて良い」


 もう手に持っているのに、〈今さら聞くなよ〉とは言わない。

 この子と仲良くなって、この後の展開を有利に進める必要があるんだ。


 ゲームでもそうだろう。


 それに言葉が通じるんだな。


 嘘みたいだけど、お手軽すぎて、何ともバカみたいじゃん。


 「うん、食べて良いよ」


 「うわぁ、あまーい」


 女の子は目を見開いて、甘さに吃驚しているようだ。

 この世界は、砂糖とか甘い物があまり流通していない想定なんだな。


 それにしても近くで見ると、この子は吃驚するくらい可愛いな。

 こんな可愛い子が、一人切りでいるなんて、危なすぎるぞ。


 僕だから良かったものの、変質者と出会ったらどうするつもりなんだ、育児放棄している親の顔が見て見たいよ。


 「お嬢ちゃん、お兄ちゃんは迷子まいごになったんだ。 町へ案内してくれるかな」


 「ふふっ、大きいのに迷子なんだ。 情けないな。 良いよ、〈サト〉が案内してあげる」


 飴と僕をめている女の子と、並んでテクテク歩いていたら、どうやら村みたいなものが見えてきた。


 僕の勘は大したものだけど、町じゃなくて村だったんだな。

 ポツポツと平屋の家が建っているだけで、少しテンションが下がってくるな。

 畑ばっかりで、簡単な木のさくに囲まれた、かなり貧しそうな村だ。

 失礼な事を考えてしまったけど、始まりの村ってことで重要な場所の可能性もある。


 女の子は、畑で作業していたおばさんに声をかけたぞ。


 このおばさんも、かなり大きいお尻をお持ちだけど、きっとこの子のお母さんなんだろう。


 「〈サト〉、悪い子ね。 家から出たらいけないと、あれほど言ったでしょう」


 お母さんは一人で外へ行ったから、カンカンに怒っているけど、幼い女の子なんだから怒られるのは当たり前だ。


 「お母さん、ごめんなさい。 でも、ずっと家の中にいるのは嫌だったの」


 「嫌でもダメなものは、ダメよ。 〈サト〉も分かっているでしょう」


 女の子は結構強情だな。

 不満そうにお母さんへ反論しているぞ。

 幼くても女の子は、口が立つからな。


 僕の妹も同じだ。

 僕の事を明らかにバカにした口調で、舐め切った反応をされるから、お兄ちゃんとしては悲しくて嫌になっちゃうよ。


 「あなたは誰ですか」


 お母さんが明らかに警戒した口調で、僕へ問いかけてきた。

 それはそうだろうし、僕も望むところではあるけど、どう言ったもんだろう。


 「お兄ちゃんは、〈サト〉に飴をくれたんだよ」


 僕が悩んでいるうちに、女の子が良いアシストを決めてくれて、大変ありがたい。


 「まあ、そうですの。 ありがとうございます」


 話しやすくなったから、本当に良い子だよ。


 「いえいえ、大した物じゃありません。 僕は〈唯人ゆいと〉と言います。 それと、ここはどこだが教えてください」


 現在地の把握は重要だよな。


 「ここは〈ジョンガ村〉です。 タリメ教皇国きょうこうこくの西の外れにあります」


 全く現在地の把握は出来なかった。

 全くこの世界の地理を知らないのに、僕の考えが根底からバカでした。


 「タリメ教皇国、〈ジョンガ村〉? 」


 「〈ゆいと〉さん、あなたは〈神隠し〉にあったのですか」


 〈神隠し〉ってあれか、村とかで人が忽然こつぜんと消えてしまうってヤツか。

 人智じんちを超えた現象だから、神が関与かんよしていると昔の人が考えたってヤツか。


 「そうです。 お母さんの言う通りです。 僕は大変困っているのです」


 「やっぱり。 〈ゆいと〉さんの着ている服は、とても上等の物ですから、きっとどこかの国の貴族様か、大商人のお子様なんでしょうね」


 「えぇっと、父は東京都国立で果物くだものを売っております」


 「まあ、私は学がないので分からないのですが、お父様は〈トキョト国〉でお商売をされているのですね。」


 かなり違うのだけど、父親は小さな青果商の単なるサラリーマンで、毎日こき使われてヒィヒィ言っているだけだ。


 「えぇ、七千人分もの果物を、毎月売り買いしていると言っていました」


 「うわぁ、月に七千人ですか。 信じられない人数です。 それで、上等の服が着られるのですね」


 この世界の人口は、文明の発達がそれほどでもないので、人口がかなり少ないんだな。


 「お母さん、まだ。 〈サト〉はちょっと疲れたよ」


 「あっ、ごめん。 直ぐ家に帰りましょう。 汚いから申し分け無いのですが、〈ゆいと〉さんもお困りでしょうから、一緒に来られますか」


 「えぇ、よろしくお願いします」

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