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ルカの剣  ‐剣士の国‐

作者: quo

「剣士の国」の書き足りなかったお話し。

男の顔を雨が打つ。


静まり返った森の中。開けた草原に男は座り込み天を仰ぎ、降ってくる雨水を深く激しい呼吸で受け止めた。

彼の傍らに有る男は地に伏し、首から今なお多くの血が流れでて緑を赤く染めている。


「次は死ぬ。」


彼は大地に大の字に寝そべると、曇天につぶやいた。


彼が国の剣士を狩る”剣士”に、任じられて三年が経つ。

剣士達の密かに囁かれる噂。剣士の中の剣士。剣士の国を守る、(まこと)の剣士。心ひそかに憧れていた。ひたむきに任務をこなし、ある日、黒い背広に身を固めた男から声をかけられた。


「真実の世界で生きたいか。」


それが男の言葉だった。彼は無言で差し伸べられた手をとった。白い手袋をしていても伝わる冷たさが忘れられない。

それから、死の淵を歩むかのような訓練を経たのちに送り込まれたのは、遠く東の国だった。遠くなるほどに、狩るべき剣士は強くなる。地に有る男は序列をもった剣士を、二人斬って国から逃れた男。”監査役”に命じられて追い、ここで斬り合う事になった。


その男からぶつけられた闘気に当てられ、隙を作られ裂かれた深い傷が、かろうじて彼自身が生きている証拠となっている。


必死だった。「死にたくない」の一心で振り抜いた剣は、「剣に呑まれた」者の一閃より早く、その男の首に達し血管を引き裂いた。一瞬、目が合った。血しぶきをあげてもなお、狂気に支配された男の目。背ける事無く、軸足から回転し空気を引き裂きながら放った剣が、男の首を高く高く空へ斬り上げた。


勝利の祝福とは縁遠い曇天を見つめていると、ひょいと女の顔が現れた。切れ長の黒い瞳の目。少し焼けた肌は艶やかな白を残し、漆黒の髪から、雨の雫が夜露のように彼の顔に落ちる。


吸い込まれるような漆黒の瞳に、”死”の深淵を重ねた彼は飛び起き、剣を取ると彼女の眼前に突き出した。

彼女は動揺することなく、身を起こすと、地面に転がる男の首に目地に落とす。そして、ゆっくりと自身の頬を指で撫でた。そこには一閃の傷がある。絵筆で引いたような、ほんのりと赤い線のような傷。


「彼は苦しんだ?」


女は彼に尋ねた。彼には答えることが出来なかった。彼女の言葉から、慈愛を感じた彼は剣を下ろした。彼女は彼のブーツを見ると、鞘の先をブーツに突き立てた。


「やっぱり。足に合ってない。だから踏み込みの時に軸がぶれる。」

「首の真芯を捕らえて、一撃で終わったはず。」


彼女はそう言うと、官給品に頼らず、靴屋に行って自分が納得するまで、ぴたりと合う靴を仕立てろと言った。


説教する彼女。

この場に剣士を追い込んだ日、狩るべき剣士がもう一人いる事が分かった。一人で追ったところを、二人で彼を斬る算段だと考えられた。急遽、監査役が応援として呼んだのが彼女だった。森の入り口で対面させられた彼女は、彼と同じ位の年齢だと思われた。彼女は彼を頭のてっぺんから、つま先にかけて値踏みするように見ると、興味が失せたのか監査役に説明を求めた。監査役は彼女に、二人斬っても構わないとだけ言った。それだけだった。彼女は彼に振り向くと言った。


「出会って”死”を感じたら逃げろ。」

「この仕事。命を掛けるほどのものじゃない。」


それだけ言うと、先に森に入っていった。その彼女は「雨の日は嫌いだ」と呟きながら、指で摩っている。


ふと見ると、監査役の配下の者達が、縄を打たれ頭に布を被された男を連れて来た。その男を膝まずかせると、男の一人が首を落とした。男達は手早く骸を死体袋に入れると消え去った。


「斬れと言ったはずだ。生かしておいても、輸送に手間がかかるだけだ。」

「”不殺(ふさつ)の人”の二つ名が気に入ったか。」


監査役が、彼女にあれこれと説教をするが、無視するかのように黒髪を指先に絡めて遊んでいる。監査役の説教が終わると、「終わった?」と監査役に言い放った。彼女は監査役の顔が怒りで見る間に赤くなるのを確認すると、森に消えていった。


”不殺の人”?聞いたことがある。


彼は立ち上がり、彼女を追おうとしたが、監査役が肩を鷲掴みにして制止した。


「追うな小僧。彼女(あいつ)には、”剣に呑まれた”剣士達を引き寄せる”何か”がある。」

「追えば無駄に命を捨てる事になる。」


彼は監査役の言葉に、息を呑んだ。そして思い出した。彼女の瞳。死の淵、暗闇の深淵のような黒をしていた。

監査役の言葉に頷くと、彼女の言葉を思い出し、監査役に尋ねた。


「良い道具屋。革職人が居る町を知らないでしょうか。」


監査役は「管轄外」とだけ言って、その場を立ち去った。

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