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第6話 お茶会

 やっと緊張から解放されたと気を抜いていたエステルは、まさかオージェから声を掛けられるとは思っておらず、その場で固まってしまった。


「お前に話がある」


 硬い声にとりあえずコクンと頷くと、オージェは微妙な距離を空けて足を止めた。


「お前、どういうつもりでここに来たんだ」

「どういう、とは?」


 質問の意味が分からず聞き返すと、オージェはまたいらいらと顔を歪める。


「皇后になるつもりなのか」

「なるつもりって……、私は皇太后様に呼ばれて来ただけです。勅書をお出しになったのは皇太后様ですよ」


 思わず非難するような口調になってしまうと、オージェが睨み付けてきた。


「お前が皇后になれると思っているのか」

「思っていませんよ」


 はっきりと否定したエステルに、オージェが表情を変えた。少し驚いた顔をした後、黙ってしまう。

 エステルは浅く溜め息をつくと、この際言ってしまおうと口を開いた。


「私は皇后になれるなんて思っていません。ぜひ家に追い返して下さい」

「お前……」

「陛下もお嫌でしょう、私なんて。皇太后様のお気持ちやお考えは分からなくもありませんが、私よりも相応しい人はいるはずです」

「そうだ……。お前よりもよほど相応しい人がいる……」


 オージェは呟くようにそう言うと、突然踵を返し足早に廊下を去って行ってしまう。

 取り残されたエステルは、ポカンとしたまま誰もいなくなった廊下を見つめる。


(もしかして……、陛下には好きな人がいるのかも……)


 それは本当に単なるひらめきではあったが、何となく正解なんじゃないかとエステルは思った。



◇◇◇



 それから数日は勉強の日々が続いた。皇太后やオージェに会うこともなく、少し宮殿で過ごすことにも慣れ、気持ちも落ち着いた頃、オリヴィエからお茶会の招待状が届いた。


「来たわね」

「どう致しますか?」

「どうって、断るなんてできないでしょ。当日病気にでもなれば休めるけど」

「楽しいお茶会でないのは明白ですけれど」

「まぁ、そうね」


 エステルは美しい文字で書かれた招待状をテーブルに置いて溜め息をつく。


「とりあえず波風は立てないように頑張るわ」


 無理に笑ってみせたエステルに、マリーは心配げな顔をして頷いた。

 次の日の午後、エステルは宮殿の中庭に向かった。今日はお妃教育は休みなのだが、そんなこともオリヴィエには筒抜けなのだろう。

 中庭に到着すると、美しく着飾った女性が10名ほどいた。皆エステルの顔を見ると、なんとも微妙な笑顔を向け会釈をする。だがそれだけで、近付いてくる者はいなかった。

 しばらく何もすることがなく手持ち無沙汰で待っていると、オリヴィエがメイドたちを引き連れて優雅に現れた。


「ごきげんよう、皆さん。全員集まっているかしら?」

「オリヴィエ様、本日はお招きいただきありがとうございます」


 待っていた者たちの中で、一番豪華なドレスを着た女性が代表のように挨拶を口にする。他の者たちはそれに倣って深く腰を下げるので、エステルも同じように挨拶をした。


「今日はお天気もいいし、仲の良い皆さんとお茶をしたかったの。とっておきのケーキもあるから、みんな楽しんで」

「ありがとうございます」


 オリヴィエが目配せすると、メイドたちが一斉に動き出し、各テーブルにケーキと紅茶を置いていく。


「ああ、でも、お茶会を始める前に、新しいお友達を紹介するわ。エステルさん、前へ」

「はい……」


 にこやかな笑顔でそう言われ、エステルは仕方なくオリヴィエの隣に立つと女性たちに顔を向けた。

 女性たちは先ほどとは打って変わって、笑顔でエステルを見つめている。


「エステル・オーベリンさんよ。お兄様が子爵なのよね?」

「はい、そうです。皆様、はじめまして。エステルと申します。この度は、このような席に呼んでいただき、大変嬉しく思っております」


 まったくそんなことは思っていないが、とりあえず当たり障りのないことを言っておこうと頭を下げる。


「エステルさん。このお茶会ではね、新しく入った方は、自己紹介を兼ねて何か得意なことを披露してもらうことになっているの」

「得意なこと?」


 オリヴィエはそう言うと、ゆっくりとイスに座る。


「なんでもいいのよ。簡単な魔法とか。ねぇ、アンナは何をしたかしら?」

「私は水の魔法で小さな虹を作りましたわ」

「ああ、そうそう。あれは綺麗だったわ。イリーナは確か、風の魔法で花吹雪を見せてくれたのよね?」

「まぁ、覚えていて下さったのですね。あの頃はちょうど花の盛りでしたから、それが一番美しいかと思いましたの」


 女性たちは思い思いにイスに座ると、朗らかに会話を始める。けれどその空気は決して穏やかなものじゃなかった。


(私に恥をかかせる気ね……)


 顔見知りでなくても、エステルが魔法を使えないことを知っている者は多い。

 オリヴィエの指図か、それとも全員がエステルに悪意があるのかは分からないが、とにかく耐えるしかないと顔を上げた。


「申し訳ありませんが、私は魔法が使えません」

「あら、そうなの!?」


 わざとらしくオリヴィエが声を上げる。


「私ったら知らずにごめんなさいね」

「いえ……」

「魔法が使えない人がまさか宮殿にいるなんて思わなくて。ここでは下働きでさえ魔法が使えないと働けないのに、ねぇ?」


 オリヴィエの言葉に、女性たちが笑いながら頷く。

 舞踏会でよく言われた悪口だが、面と向かって言われるのは久しぶりで、エステルは溜め息をつかないように口元を引き結んだ。

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