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第31話 決着

 オリヴィエの髪が引き剥がされると、オージェがどさりと床に倒れる。


「陛下! ご無事ですか!?」

「エス……テル……」


 苦しげだが返事が来てエステルはホッと息を吐くと、頭を抱えて悶えるオリヴィエに視線を向ける。


「ううっ……痛い……私の髪が……ああ……」

「オリヴィエ様! 指輪を外して下さい!」


 剣を向けたまま呼びかけるが、オリヴィエは聞こえていないのか、床に散らばる髪を見て顔を歪めている。


「オージェ……、私のオージェ……どこにいるの……どこ!?」


 絶叫したオリヴィエの赤い目から血の涙が流れる。


「オリヴィエ様!」

「許さない! 許さない!!」


 咆哮と共に強風が吹き、エステルは慌ててオージェをかばった。だが広範囲の魔法の風は吸収しきれず、二人は後方へと吹き飛ばされた。


「エステル!」


 床に叩きつけられると身構えたエステルだったが、身体に痛みはなくそっと目を開けると、オージェが自分を抱き締めるようにして床に倒れていた。


「陛下!」

「大……丈夫か……?」

「は、はい……」

「良かった……」


 オージェは微笑むと、苦しそうに目を閉じてしまう。エステルは慌てて起き上がりオージェの具合を確認する。すぐにクロトが駆け寄り、オージェのそばに膝をついた。


「エステル! オージェは!?」

「大丈夫です」


 怪我もしておらず魔力も少なからず残っている。それが分かるとエステルは魔法剣を握り直し立ち上がった。


「陛下をお願いします」


 オリヴィエの周囲には壁のように風が渦巻いている。もはや魔法が暴走しているのか、大広間に吹き荒れる風に混じり、炎や雷の魔法がそこここで床や壁を破壊している。

 魔力の吸収はさきほどよりもさらに大きく広範囲になっている。エステル以外の者はかなり魔力を吸収され、もう残り少ないだろう。

 もう時間はない。


「止めなければ……」


 オリヴィエ自身の身体も心配だ。自分の許容量を遥かに超えた魔力を身体に吸収し、さらに強力な魔法を連発している。このままでは命も危ないかもしれない。

 エステルは覚悟を決めると、魔法剣を鞘にしまう。オリヴィエを止めるためには、指輪を抜くしかない。


「エステル……、よせ……」


 ハッとして振り返ると、オージェがどうにか身体を持ち上げようとしている。


「陛下は必ずお守りします」


 エステルは穏やかに笑ってそう言うと、ゆっくりと姿勢を戻す。そうしてもう一度前へ歩きだした。

 両手を前に差し出し、全力で魔法を吸収する。こんなにも大量の魔法と魔力を吸収したことがなかったエステルは、自分もオリヴィエのようになってしまうかもしれないと不安に思っていたのだが、徐々に身体の中が満たされていくような感覚に気付いた。

 手足がポカポカとしてさっきまで重く感じていた身体が軽くなっていく。本当に久しぶりの感覚に目を見開いた。


「もしかして……」


 自分の手を見下ろして呟く。


「オージェ! オージェを返して! 私のものよ! オージェ!」


 足を止めたエステルは、血の涙を流して叫ぶオリヴィエを見据える。

 背後にいるオージェを守るため、魔法の吸収をしながら意識を集中させる。


「光よ。あまねく空を埋め尽くす星の光よ。私に力を――」


 祈るように呟くと、はっきりと自分の身の内にある魔力が魔法を紡ぎだすのが分かる。

 その湧き上がるような高揚する感覚に、エステルは口の端を上げた。


「オリヴィエ! 正気に戻って! 『エスタロス』!!」


 高らかに呪文を唱えた瞬間、エステルの周囲に光り輝く矢が無数に出現する。それがまるで流星のようにオリヴィエへ向かって降り注ぐと、分厚い魔法の障壁を貫いた。そうしてその中の一つが、右手の指輪を打ち抜いた。


「ぎゃああああ!」


 獣のような恐ろしい絶叫を上げてオリヴィエがバタッと倒れると、周囲を取り巻いていた赤い霧のような魔力が霧散し魔力の吸収が止まる。それを確認してエステルはホッと息を吐くと、自分の手を見下ろした。


「魔法が、戻った……」


 これまでどれほど魔力を吸収しても身体の中の空虚な穴を埋めることができなかったけれど、今、その感覚はもうすっかり消え失せている。身体の中に魔力が満ちているのがはっきりと分かる。

 エステルは振り返ると、よろよろとオージェのそばに寄り膝をついた。

 オージェは目を見開いてエステルを見つめている。


「陛下、ご無事でなによりです」

「そなたこそ……」


 オージェはクロトに支えられながら起き上がると、震える手を伸ばしエステルの頬に触れる。


「そなただったんだな、エステル……」


 一瞬何を言っているのか分からなかった。けれど優しく微笑むオージェの顔を見て、エステルは目を見開いた。


「やっと……思い出したのですね……」


 涙が溢れて頬を伝い落ちる。

 

「すまなかった……」

「いいえ……いいえ……」


 エステルは顔を歪め微笑むと、何度も首を振る。そうしてオージェの胸に額を押し当て目を閉じると、それきり気を失った。

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