第26話 揺れる気持ち
3日後――。
今日もオージェと共に庭に出た。少し風が強く、葉擦れの音が波のように聞こえる。エステルは髪を押さえて風に舞い散る枯れ葉を見た。
「この風で随分葉っぱが落ちてしまいましたね」
「そうだな。……エステル」
「はい」
名前を呼ばれて振り返ると、オージェが足を止めている。エステルはオージェに向き合うと、穏やかな笑みを向けた。
「その……、忙しいのに毎回呼び出してすまない」
突然オージェが謝ってきて驚いたエステルは、慌てて手を振る。
「そんな! 私はまったく気にしていません! 私の方こそ、私の言うことを信じて下さっている陛下に感謝しております」
「エステル、クロトの護衛を辞める気はないか?」
「護衛を? なぜですか?」
「やはり女性で護衛というのは大変だろうし、そなたがよければ宮殿で正式に雇用するということもできると思う」
オージェの申し出にエステルは一瞬笑顔になったが、すぐに視線を落とした。
「ありがたいお申し出ですが、それは遠慮しておきます」
「だが……」
「魔法が使えない者は元々宮殿では働けませんし、私だけが特別扱いを受ける訳にはいきません」
オージェがなぜこんなことを言いだしたのかは分からなかったが、エステルはその言葉だけで嬉しく感じ、笑顔で頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下。そう言っていただけるだけで私は嬉しいです」
「そうか……。だが無理を言って私に付き合わせているのは本当だ。何か望みはないか?」
「望みなんていりません。陛下のお役に立てるならそれで……」
「望みもいらず、なぜそこまで親身になってくれるのだ?」
「それは……」
エステルはすぐに答えられず、口を噤んだ。皇帝に頼まれれば誰だって断れないだろう。だがそんな気持ちで自分はここにいない。
オージェをただ助けたいのだと言ってしまいそうになって、エステルは唇を引き結ぶ。
「……陛下がお健やかであることが万民の願いですから」
当たり障りのない言葉を選んで答えると、エステルはにっこり笑ってオージェを見た。
「さぁ、時間もありませんし、そろそろ始めましょうか」
エステルの言葉にオージェは何かを言いたそうな顔をしたが、口を開くことはなかった。
オージェがゆっくり手を差し出すので、その手に両手を重ねる。
「目を閉じて、集中して下さい」
オージェが素直に目を閉じて集中する。その綺麗な顔を見つめていると、胸がざわついてしまい上手く魔力を吸収できない。
(ちゃんとやらなきゃ……)
触れ合う手の温もりを、今日はやけに意識してしまう。ゆっくりと魔力を吸収しなくてはオージェのためにならないのに、そのコントロールが上手くいかない。
エステルはこのままではいけないと、目を閉じると集中した。それでもなかなか力が安定せず、5分ほどして焦って目を開けると、オージェと目が合った。
真っ直ぐに見つめられていて、胸がドキドキと早鐘を打つ。
「も、申し訳ありません。私が集中できず……」
動揺を悟られたくなくて手を離そうとすると、その手をオージェが握り締めた。指を絡めて両手を握られてしまい、エステルは一瞬で顔が真っ赤になってしまう。
「へ、陛下……」
「エステル、そなた……」
「手を……、お離し下さい……」
オージェはまるで恋人のように手を繋ぎ、顔を近づけてくる。
エステルは手を振り解くこともできず、ただオージェの氷のような瞳を見つめる。
言葉もなく見つめ合った状態で、エステルは酷く混乱した。
「エステル……」
「オージェ様!」
優しいオージェの声に甲高い声が重なると、強い風が吹いた。エステルが目を細めて横を見ると、オリヴィエが走ってくる。そうしてエステルを突き飛ばすと、驚いたことにオージェの腕を掴んだ。
「オリヴィエ!?」
オージェが驚いた声を上げると、慌てて腕を振り解こうとする。だがそれをオリヴィエがギュッと掴んで阻止した。
(まだ魔力を吸収してないのに……)
オリヴィエは痛みを我慢しているようには見えない。エステルがどういうことだろうと、困惑した表情でオリヴィエを見ると、オリヴィエはぎろりとエステルを睨んだあと、オージェに輝くような笑顔を向けた。
「喜んで下さい、オージェ様! 私、もうオージェ様に触れても大丈夫になったのですよ!」
「え!?」
オリヴィエの言葉にエステルは思わず声を上げる。それを見てオリヴィエは勝ち誇ったような笑みをエステルに向けた。




