第24話 秋の小道
あれから時間が空くと、庭に出てオージェに魔力の制御を教えた。何度も会ううちにエステルも慣れてきて、緊張することもなく笑顔で話せるようになった。
オージェもまたリラックスしているように見えて、エステルはそれも嬉しかった。
「これで5回目になりますが、そろそろ感覚が分かってきましたか?」
「ああ、朝起きた感覚と今の状態がどれほど違うか、だいぶ掴めてきた」
「身体の調子はいかがですか?」
「エステルに魔力を吸収してもらうと身体が軽くなるから、苛つくことが減った」
「それは良かったです」
オージェの返事に、エステルは笑顔で頷く。
「もう少し明確に魔力の増減が分かるようになったら、次の段階に移れます」
「次は何をするんだ?」
「次は魔力を魔力のまま放出するやり方をお教えいたします」
「難しそうだな」
エステルはオージェの言葉にクスッと笑うと、首を振る。
「陛下ならすぐにできるようになります。魔力の感覚をこんなに早く分かるようになったのですから、きっと大丈夫です」
「そうかな……」
「はい」
エステルが頷くと、オージェがゆっくりと歩きだす。その少し後ろについて歩くと、紅葉が進む美しい木々を見上げた。
「クロトの仕事はどうだ?」
「私なりに頑張っております」
「クロトに振り回されているんじゃないか?」
ちらりとこちらを見たオージェの心配そうな顔を見返して、エステルは肩を竦める。
「そうですね。でも、クロト様はそれほど無茶な方ではありませんから」
「そうか?」
疑わしい目をして首を捻るオージェに、エステルは笑って頷く。
「陛下とクロト様は幼馴染だと伺いました」
「ああ、オリヴィエと三人、幼い頃からずっと一緒だった」
「私にはそういう友人がいないので、羨ましいです」
エステルはそう言うと、足元に落ちる枯れ葉に視線を落とした。足を止めその場にしゃがむと黄色く色付いた葉を一枚拾う。
「もうすっかり秋ですね」
「ああ、いつの間にか木々も色付いたな」
「……小さな頃、秋になるとよくからかわれました」
「からかわれた?」
赤や黄色の美しい葉の中に、ただ枯れてしまった葉があって、それを拾い上げたエステルは、オージェに差し出す。
「私の髪は褪せた金色で、癖があるでしょう? 枯れ草みたいだと、よくからかわれたんです。ほら、そっくりでしょう?」
少し自虐的に乾いた笑いを漏らしてそう言うと、オージェは驚いた顔をして黙ってしまった。
エステルは皇帝に話すようなことではないかと、視線を戻すと地面に落ちたどんぐりを見つけた。
「あ、どんぐりが落ちていますよ。……懐かしい」
子供の頃のことを思い出してどんぐりを拾っていると、オージェが手を差し伸べた。
その手に気付きオージェの顔を見上げると、真っ直ぐに見つめる視線とぶつかって胸がドキッと跳ねる。
(なんで胸がドキドキするのよ……)
なんだか突然緊張してきてしまいエステルは唇を引き結ぶと、おずおずとその手に自分の手を重ね立ち上がった。
エステルが手を引こうとすると、その手をなぜかギュッと握られてしまう。
「陛下……?」
真っ直ぐこちらを見つめたまま何も話さないオージェに、エステルが戸惑いながら呼び掛ける。
「エステル、君は――」
「オージェ様ー!」
オージェが話し掛けようとした時、遠くから高い声が聞こえてきた。二人でそちらに顔を向けると、オリヴィエが手を振って近付いてくる。
エステルはオリヴィエの姿を見た瞬間、ハッとして手を引いた。
「オ、オリヴィエ様がお迎えに来たようですね。では私はこれで失礼致します」
口早にそう言うと、頭を下げてその場を走り去る。
木立の中を振り返ることなく走ったエステルは、宮殿のそばまで来るとやっと足を止めた。
肩で呼吸をしながらゆっくり振り返ると、もう遠くなった木立を見つめて立ち尽くす。
(まだ胸がドキドキしてる……)
いつまでもドキドキしている胸に手を添えようとして、握り締めたままだったどんぐりに気付いた。
「私……、陛下に何であんなこと言っちゃったんだろう……」
艶のある綺麗などんぐりを見つめ、ポツリと呟く。
オージェに対して、特別な感情はないと思っていた。この講習は自分がやらなくてはいけないこと、義務なのだと自分に言い聞かせて平静を保っていた。けれど何度も二人で会う内に、その気持ちが揺らいできてしまっているように感じる。
(気を引き締めなくちゃ……)
エステルはギュッとどんぐりを握り締めると、気持ちを振り切るように大股で歩きだした。




