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第2話 雷帝の妻

「今なんと……、皇后……?」


 自分は何か聞き間違いをしたのではないかと動揺したまま声を漏らす。皇太后はまっすぐにエステルを見つめ頷く。


「そうです。あなたは皇帝の妻に選ばれたのですよ」

「お、お待ち下さい……。私が皇后? そんなわけ……、魔法も使えない私が皇后になどなれるわけ……」


 皇太后はもしかして冗談でも言っているのではないかというほど、現実味がない。

 お見合いさえ上手くいかない自分が、皇后に選ばれるなんてあり得ない。


「魔法が使えないのは承知しているわ。けれどあなたは魔力を吸収できる特異体質なのでしょう?」

「そ、それは……」


 エステルは皇太后の言葉に俯いた。確かに自分は魔力を吸収できる。だがそれができたところであまり意味はないので、公にしてはいなかった。


「陛下が国民になんと言われているか知っている?」

「はい……、雷帝と……」

「そう。陛下は雷の力がとても強い。けれど強すぎて誰も触れることができないのです」

「触れられない?」


 顔を上げてオージェを見ると、オージェはイライラとした顔を横に向けて頬杖をついている。


「常に身体に雷の魔法が取り巻いて、誰も身体に触れることができないの。同じくらいの魔力があれば触れられるのでしょうが、国中探してもそんな女性は見つからなかったわ」

「では、さきほど私が手に触れたのは……」

「あなたを試したのよ」


 エステルは自分の手を見つめてから、もう一度オージェを見た。ずっと機嫌の悪い様子に、皇帝の噂を思い出した。


(そういえば陛下は、機嫌が悪いと誰かれ構わず雷撃を落とすと社交界で聞いたことがあるわ……)


 でもまさか誰も触ることができないほどの力があるとは思わなかった。


「母のわたくしでさえ触れられないのに、あなたはあっさり陛下に触った」

「で、ですが、私は魔力が吸収できるだけです。魔法が使えないのであれば、皇后など務まるはずがありません!」

「魔力を吸収しているということは、身体に魔力を蓄えているということでしょう? それならば魔法が使える子を産むことができるかもしれません」

「子供?」

「陛下に触れられるのであれば、陛下の子を腹に宿すこともできるでしょう」


(それってただ子供を作る道具になれってこと?)


 皇太后の言葉にエステルは眉を顰める。皇太后はエステルに皇后になれと言っているのではなく、子供を産むためだけの、形だけの皇后になれと言っているのだ。


「……お受けできません」

「なんですって?」

「私は魔法が使えません。私のような者が皇后になるなど、恐れ多いことです。申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」


 エステルがはっきりと告げると、皇太后は怒りに満ちた表情に変わった。


「母上、もうやめましょう。この者が産む子が魔法使いではなかったらどうするおつもりです? そんな博打は打てませんよ」

「いいえ! これは国の未来に関わる重大な問題です! エステル!」

「は、はい!」

「これはわたくしからのお願いなどではなく、命令です! ただちに宮殿に入り、皇后になるための教育を受けなさい!」


 エステルは頷くこともできず俯いた。命令だと言われれば、エステルは断ることができない。皇太后の命令に背けば、家族にも迷惑が掛かるだろう。それだけは絶対に避けなければならない。

 エステルは項垂れたまま深く腰を落とすと、弱い声で「分かりました」と返事をした。

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