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第17話 真意

「君ほど面白い女性に会ったことはない。ぜひ僕の妻になってほしい」

「お、おい! クロト!!」


 言い募るクロトに口を挟んだのはオージェだった。


「お前、突然なにを!?」

「陛下には関係ないことなので、口を出さないで下さい」

「関係ないって……」

「エステルはもう皇后候補じゃない。陛下が首にしたのだから。それともエステルに求婚するのに、陛下の許可がいるのですか?」

「そ、それは……」


 クロトに言い負かされて、オージェが口ごもると、クロトはエステルに輝くような目を向けてきた。


「エステル、どうかな?」

「お断りします」


 しーんと静まり返った広間に、エステルのはっきりとした声が響いた。

 エステルは最初こそ驚いたが、二人のやり取りを見ているうちに、すっかり冷静さを取り戻していた。

 握られていた手をすっと引き、頭を下げる。


「申し訳ありませんが、私はクロト様と結婚する気はありません」


 もう一度はっきりと言うと、クロトが突然笑いだした。


「クロト?」

「クロト様?」

「そうか、分かった」


 クロトは笑いながらそう言うと、立ち上がり踵を返して他の貴族のところへ行ってしまった。


「なんだったんだ……?」

「さぁ……」


 エステルとオージェは目を合わせて首を傾げる。周囲は何かの余興とでも思ったのか、すぐにざわめきは収まり、また音楽が奏でられ始めると、何事もなかったのかのように男女が踊り始めた。

 それからオージェは他の貴族に囲まれてしまい、エステルは舞踏会が終わるまで、一人で過ごした。

 やっと終わりの時間になり、舞踏会がお開きになると、エステルはそそくさと広間を出た。


(なんだか色々ありすぎて、疲れちゃったわ……)


 本当は最後にオージェに一言挨拶をしたかったが、自分から声を掛けられるはずもなく、諦めて廊下を歩きだすと、背後から声を掛けられた。


「エステル!」


 今度はすぐにオージェと分かり、慌てて振り返ると、オージェが小走りに近付いてくる。


「陛下」

「少し、話せるか?」

「は、はい……」


 エステルはどぎまぎしながら頷くと、廊下の端に寄る。帰宅する貴族たちがじろじろと見つめてくるが、気にせずオージェの顔を見た。


「その……、さっきのクロトのことだが……」

「さっきの……」

「そなたとクロトは、その……、そういう仲だったのか?」

「違います! 3ヶ月前にお会いしたのが初めてで、その後も何もありませんでした」

「ならどうして、求婚なんて……」

「私にお聞きになられても……」


 聞く相手が違うだろうと思ったが、エステルは少し考えてから答えた。


「あれは、冗談だと思いますよ」

「冗談?」

「そうとしか思えません」

「あんな、衆目の中で? 冗談で求婚したのか?」


 まったく意味が分からないという表情のオージェに、苦笑しながらエステルは頷く。


「クロト様の顔は、どう見ても本気じゃありませんでしたから。私をからかったのでしょう」

「そう、か……?」


 オージェは納得がいかないのか、顔を顰めて首を捻る。

 その顔を見つめながら、エステルは本当にもう二度と、これほど近くで話すことはないのだろうなと思った。

 そうしてそれが、とても寂しいような気がしてならなかった。


「……陛下は、しばらくこちらにご滞在ですか?」

「いや……、クロトと話ができたら、すぐに他の仕事が入っている」

「そうですか……。ではここでご挨拶しておきます。今日はお話ができて良かったです。道中お気を付けて。息災をお祈りしております」


 名残惜しく思いながらそう言うと、頭を下げる。


「そうか……。私も、話ができて良かった」


 オージェの言葉に、エステルは笑みを浮かべると、最後に二人は微笑み合って別れた。



◇◇◇



 次の日の朝――。

 エステルはすっかり静かになった城の中を歩きダイニングに向かうと、そこにはすでにクロトがいて朝食を食べていた。


「おはようございます、クロト様」

「おはよう、エステル。オージェなら、もう発ったよ」

「……私は何も言っていませんよ」


 エステルは何食わぬ顔でそう答えると、皿に料理を乗せていく。

 そうして料理を取り終わると、クロトの正面に座った。


「オージェは君の兄がいるリナックに顔を出しに行ったよ。その後は他の砦を回るらしい。少しは休めばいいのにねぇ」


(さっきからなんで陛下のことばかり言ってくるのかしら……)


 エステルは無言で料理を食べながら、ちらりとクロトを見る。

 すると視線がばっちり合って、エステルは溜め息をついた。


「昨日は、随分驚かされました」

「その割にはっきり断ったね」

「あれ以上、何を言うことがあるんです?」

「僕はあの後、すごく落ち込んだんだよ」

「ご冗談を。断られるのは分かっていたでしょうに」


 ポンポンと言葉を返していると、クロトは一度手を止めて肩を竦めた。


「万にひとつ、もしかしたら頷いてくれるかもと思ったんだけどね」


 呆れた視線を送ったエステルに、クロトはにこりと笑みを向ける。


「結婚相手を探しているようだから、僕でもいいかなと思ったんだけど。僕以上の男を探しているのかな?」

「何でそのことを……」

「君は魔法が使えないから、結婚相手もなかなか見つからないようだね」


 クロトが自分のことを調べていることに驚いたエステルは、フォークを置いてクロトを見つめる。


「……そうです。ですからクロト様との結婚なんて、万にひとつもありません」

「うーん、それもそうか。なら、本題に入ろうか」

「本題?」


 クロトは紅茶を一口飲むと頷く。


「君はこの頃、結婚相手よりも就職先を探しているようだが、どうだい? いいところはあったかい?」


 クロトの質問にエステルは眉を顰める。


(全部分かっているくせに……)


「……生憎、私が働けそうなところはまだ見つかっていません」

「そうだろうね。この帝国内で魔法が使えないというのは、だいぶ肩身が狭いからね。結婚どころか働くことも難しい」

「まだ探し始めたばかりです……。きっとそのうち……」

「そのうち? そう簡単には見つからないことくらい、分かっているだろう?」

「何が言いたいんです? 私をここに呼びつけたのはなぜです? 私に何をさせたいんですか!?」


 今までどうにか冷静さを保ってクロトに対処してきたエステルだったが、さすがにイライラして声を尖らせた。

 エステルが睨みつけると、クロトはまっすぐにエステルを見つめ言ってきた。


「君に仕事を斡旋しようと思ってね」

「仕事?」

「そう。エステル、君、僕の護衛にならないかい?」

「は!?」


 クロトの言葉に、エステルは昨日とまったく同じ驚きの声を上げ、クロトを見つめ返した。

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