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第11話 クロトとの腕試し

「なぜクロト様が……?」


 まったく意味が分からず訊ねると、クロトは笑いながら近付いてくる。


「君と話したいことがあってね」

「話なら宮殿でもできたでしょう?」

「宮殿じゃ色々堅苦しいだろう? ここなら誰の邪魔も入らない」


 微妙な距離を置いて足を止めたクロトに、エステルは警戒を強める。


「拉致のようなことをせずとも、家に来ていただければいくらでも話して差し上げますよ」

「うーん。それだと君の兄君がうるさそうだ」


 見た限りクロトはいつものように笑顔で話している。


(表情から感情が読み取れない相手は面倒ね……)


 オージェの方がストレートに感情を出してくれてよほど分かりやすい。クロトのように笑顔の裏で何を考えているか分からない人物の方が、エステルは苦手だった。


「君にとても興味があってね。君は普通と違うだろう?」

「私の力のことを言っているのですか? この力はただ魔力を吸収するだけで、それほどすごい力ではありません。私は魔法の使えない、ただの娘です」


 エステルが言葉を選んで慎重に答えると、クロトは楽しげに笑いだした。


「普通の娘が、スカートの中に武器を隠し持ってはいないだろう?」


 クロトの言葉にエステルはギクッとした。


(なんでそのことを……)


「女性はそんな歩き方はしないよ」


 にこやかにクロトはそう言うと、ゆっくりと腰にあった剣を引き抜く。

 エステルは唾を飲み込むと、じりっと後退した。


「……話では、ないのですか?」

「話もしたいけれど、その前にちょっと腕試しをさせてもらおう」

「なんのために?」

「なに、興味本位さ」


 クロトは笑みを崩すことなく突っ込んでくる。エステルは冷静に隠していた剣を引き抜くと、正面から切り掛かる刃を受け止めた。


「お嬢様!!」

「魔法剣! ますます興味が湧くね!」


 青光りする刀身を見たクロトの目が輝く。それまでの飄々とした雰囲気ががらりと変わり、好戦的な表情になると、左手を差し向けて魔法を放った。


「くっ!」


 エステルは奥歯を噛みしめながら、咄嗟に魔法を吸収する。手に熱さを感じ眉を顰めながらも、間合いを取るために大きく後ろへステップする。


「お嬢様!!」


 背後からマリーが魔法を放つが、クロトはあっさりとそれを避けて今度はマリーへ魔法を放った。その威力にエステルは慌てて間に入ると、また魔法を受け止め吸収する。


「マリーは下がっていて!」

「ですが!」

「うん。その方がいいよ。君が怪我をしてしまうからね」


 クロトが付け加えると、マリーはクロトを睨み付ける。けれど前に出ることはせず、その場に留まった。


「正しい判断だ。君はエステルの護衛だろうが、戦闘はどうやら主人の方が上だね。魔法を使うための侍女ということかな」

「マリーを侮辱しないで。彼女は一流よ」

「それは失礼。でも、僕の踏み込みを受けられる女性なんて、そうそういないからね」


 エステルはマリーの戦闘能力が自分よりも劣っているとは思っていない。けれどさきほどの魔法で、クロトがマリーには手加減しないと分かった。それならば手を出させず、一対一で戦った方が集中できると判断しただけだ。

 クロトが今度は先に魔法を放ってくる。大きな風の魔法で、全体を吸収できないと判断すると、横へと逃げる。そこへ切り掛かられた。


「せっかくの魔法剣なのに、魔法を使えない君が持っていたら何の意味もないよ」


 二度三度と剣を切り結びながら、クロトは息も乱さず言ってくる。

 エステルはすでに返事をする余裕もなく、ただ剣を受けることに必死だった。


「君は『魔力』を吸収するだけだと言っていたが、魔法自体を吸収できるんだね」


 強く剣を押されて、後ろにたたらを踏む。

 肩で息をしながら、エステルは履いていたヒールを脱いで後ろへ蹴り飛ばした。


「昨日、オージェの雷撃を吸収しただろう? あそこにいた者たちは気が付かなかったようだけど、驚いたよ」

「だから……、なんです……?」


 呼吸を整えるための時間稼ぎに返事をすると、クロトは剣を一度引いて笑った。


「魔力を吸収できるのもすごいけれど、放たれた魔法を吸収できるというのは、信じられない能力だよ」

「……そうですか?」


 あの時、咄嗟だったからつい人前で魔法を吸収してしまった。雷撃を避けたように見せたつもりだったが、クロトの目は欺けなかったということだ。


「そんな素晴らしい力を隠しているなんて、もったいないよ」


 クロトはそう言うと、また剣を構え切り掛かってくる。

 魔法と剣で巧みに攻められて、一度も切り込む隙を与えてくれない。エステルが魔法を使えない以上、剣技のみでクロトを上回らなくてはならないが、どうにもそれができそうにない。


(貴族のお坊ちゃんだと思っていたのに、これほど鍛錬してるなんて……)


 高位貴族の息子など最初から指揮官クラスで、前線で戦うことなどない。彼等の腰にある剣はお飾りと言っていいだろう。クロトもその類だと思っていたが、この実力は騎士隊長を上回っているように感じる。


「それにしても体幹が強いね。これだけ剣を受けてもぐらつかない。誰に剣技を教わったのかな?」


 楽しげに言ったクロトの言葉に、ふと引っ掛かった。

 自分に剣を教えたのは兄のアランだ。魔法が使えない自分に、身を守るためだと剣を持たせたのだ。


(この剣筋……、お兄様に似てる……?)


 剣と魔法を巧みに使いながら戦うやり方も、独特な足運びも、どこか似ている気がする。


「こらこら、他のことを考えている余裕はないよ?」


 氷の魔法を放たれて、ハッとしたエステルは慌てて魔法を吸収する。


「うーん、その能力、なかなかずるいねぇ」

「お嬢様!」


 苦笑してクロトが言うと、マリーが突然叫んだ。

 何事かと視線を後ろへとやると、森の暗がりから数十人の男たちがわらわらと出てくる。


「え!? なに!?」

「おいおい。男がいるなんて聞いてないぞ」


 薄汚れた服を着た男たちは、3人を見てにやにやと笑う。その手には錆びた剣や斧が握られていて、エステルはすぐにマリーに目配せした。

 マリーはそばに走り寄ると、エステルをかばうように立つ。


「君たちはなんだい?」

「俺たちはそこの女に用があるんだよ。てめぇは引っ込んでろ」

「そういうわけにはいかないよ。僕が先約だ。君たちはちょっと待っていなさい」


 クロトが柔らかい声でそう言うと、男たちはきょとんとした後、げらげらと笑いだした。


「先約だってよ! 貴族のボンボンが何言ってんだ!」

「お頭、この男どうします?」

「先に殺しちまえ。女はその後でゆっくり、な?」


 お頭と呼ばれた大柄な男がうすら笑いを浮かべながら言うと、全員が気色の悪い笑い声を上げる。

 そうして男たちはゆっくりと近付いてくると、3人を取り囲んだ。

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