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16.絶景かな

「結構いろいろなものがあるんだな」

 

 昨日の相談結果通り、北へ向かったら、木の密度が増してきてさ。

 そのおかげか緑色のひょうたんみたいな果実や同じく鮮やかな緑色のレモンを一回り大きくしたような実を発見したんだ。

 それだけじゃなく、朝に畑の整備を行っていたら紫色のたまねぎがゴロッと出て来てね。

 今日だけで三種の食材を確保することができたってわけなのだ。

 たまねぎはともかく、二種類の実は食べられるのかはまだ不明。

 しかし、フェンリル(仮)がどちらもむしゃむしゃと食べていたので大丈夫なんじゃないかと思っている。

 実があることが確認できたのだが、採集できないものもあった。

 初日から発見していたのだけど、なんともできないんだよねえ。

 それは、俺がこの辺りは熱帯かそれに近い気候なんじゃないかと判断した木になる果実である。

 何かって? ヤシの木だよ。ヤシの実も成っていたのだが、高い位置にあってとれなくてね。

 ヤシの木を登ろうとはしたのだけど、あんなの素人じゃ無理だってば。

 わざわざヤシの木に登らずとも地面に落ちてそうだと思うよね。俺だっていくらでも地面に転がっていると思ってた。

 ヤシの実は落ちてたんだけど、どれも割れていて中身は漏れ出してそこにアリやらの虫がたかり、食べれる状態じゃなかったんだよね。


『色々あるんだねえー。おいらは食べられなさそうだよお』

「パックは海鳥だものな。山のものは余り食べないのかな?」

『食べられるものもあるよお』

「食べられるものがあったら食べてくれよ。俺としては北に向かって正解だったよ」


 ザックに果実を詰め込み、一旦家まで戻って荷物を置き、再び北へと繰り出す。

 この辺り、フェンリル(仮)の乗せてもらっているので僅かな時間で元の場所まで戻ってくることができるから助かる。


「パック、どこか見晴らしの良い場所ってあるかなあ?」

『山の上?』

「山って……トカゲとやらがいるところだよな」

『そうだよお』

「それ以外で高台とか無いかな?」

『うーん、見てきていい?』


 返事をする前にパックが空へと飛び立ってしまった。

 あ、どうしよう。

 俺が移動したらパックが俺たちを見つけることができないかも? 俺がパックの立場ならまず発見不可能だな。

 ショッピングモールの中でも一度見失ったら発見するのが大変だというのに、木々の生い茂る大自然の中なんて推して知るべしだよ。

 んじゃ待つとするかあ。

 フェンリル(仮)から降り、ふうと体を伸ばす。


『あ、兄ちゃん、すぐ戻って来るから移動していてもいいよお』


 飛び上がったばかりのパックが戻ってきて一言告げ、返事も待たずに行ってしまった……。

 移動してもいいと言われてもなあ、すぐ戻ってくるなら移動し始めなくても良くないか?

 待ってても進んでも余り変わらないし。


「フェンリル、乗せてもらっていいかな?」


 待つにしても中途半端な選択をする俺であった。

 待つけど、すぐに移動できるようにしようってね。

 お願いするとフェンリルは前脚折り、頭を下げる。


「ずっと乗せてもらってありがとうな」

「がおー」

『兄ちゃん、あっちあっち』


 もう戻って来たのか。フェンリル(仮)の黒い耳の間の白いふさふさなところにとまったパックが首だけをこちらに向ける。

 そして「行くよお」とばかりに翼を上にあげた。


「よおし、フェンリル、パックの示す方向んい進んでくれー」

『あっちあっちー』

「がおー」


 何のかんのでここでの生活も少し楽しくなってきたよ!

 これもパックとフェンリル(仮)がいてこそだよな。

 

 急斜面もなんのその。フェンリルなら楽々である。

 問題は俺が落ちずに済むかどうかだけ。斜面が60度くらいになると絶対に無理だ。

 紙に書くと大したことのない角度に見えるけど、実際に体験したらヤバさが分かると思う。

 スキー場で何この急斜面と思っても、実はたいしたことのない角度だったって経験はないだろうか?

 とまあ、俺の想いはともかくとしてフェンリル(仮)にとっては邪魔な木々が無いのでむしろ動きやすそうであった。

 

『こんどはあっちだよお』

「うお!」


 高いところと思っていたから不意を突かれたよ。

 今度は急激に落ちる。そして、また登る!

 急な動きに俺の胃が悲鳴をあげる。ぐ、ぐうおお。


「き、気持ち悪くなってきた……」

『着いたよお』

「お? おおおお!」


 気持ち悪さが全て吹き飛んだ。

 辿り着いた場所は高台の上だった。

 前方に見えるは緑に包まれた山脈。左手はなだらかに傾斜しており、湖らしきものが見える。左手は切り立った崖からの海かな。

 俺の転移した場所は小さな島かなと思ってたんだが、思ったより広い。

 

「パック、湖側から山脈を避けて北へ進むことってできないのかな?」

『湖を北に行くと、ここからじゃ見えないんだけど深い谷があるんだよお。そこも空からじゃないとしんどいよお』

「山より危なそうだな……」

『こう、突然大地が裂けているんだよ。飛べばへっちゃらさ』

「パックは北側に行く時、谷を越えて行くの?」

『おいらは行かないよ。海から行くんだ。仲間に海から行くように言われてるから谷を遠目に見るだけで引き返したんだよ』

「何かあるんだろうなあ、谷にも」

『あるかもしれないよお』


 通過するルートがあれば、誰かしら通ってきているか。

 ……と思ったがそうでもないのかも。何もない場所にわざわざ苦労して来ようなんて思わないか。

 空を飛べるパックの仲間が谷を避けた方がいいと言っているのなら上空でも危険があるかもってことかもしれない。

 谷から有毒ガスが噴出していたりして?

 

「んー。難しいことはいいや。もう少し景色を楽しもう」


 フェンリル(仮)のふさふさの頭を撫で、改めて景色を眺める。

 お、そうだ。この場所も写真に収めておくとしよう。

 スマートフォンを取り出し、パシャリと撮影をする。

 びゅううう。吹き付ける風に目を細めた。

 見晴らしのいい高台は風が強いらしい。高い場所は暑い時の避暑地としていいかもなあ。

 しかし、ここに休憩所を作るのは俺一人じゃ無理そうだよ。

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