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追放って、こりゃ夢か?

新連載です!



   ◇◇◇◇◇



 ――王都「冒険者ギルド」



「戦闘中にうるさいんだよ」


 同郷の幼馴染で結成されている、Sランクパーティー"先見の明(センケンノメイ)"のリーダーを務める"ネロ"の言葉に、俺はピクピクと顔を引き攣らせ、


 ……な、何言ってくれちゃってんの? コイツ。これまで、俺がどれだけ我慢してると思ってんだよ、マジ、


 などと心の中で悪態を吐いていたが、


「だからさぁ……"アルマ"……お前、クビな?」


 ネロは口角を吊り上げて言葉を続けた。


「……ふぇ?」


 思考をぶった斬られた俺は情けない声を出し、ネロの一言にジワァと涙を浮かべる。


「ガハハ!! おい、ネロ! アルマのヤツ、泣いてるぜ! ガハハハッ!」

「ははっ! そりゃ、Sランクになったのに捨てられたら、僕だって泣いちゃうよ!」

「ふふふっ、本っ当、ダサすぎるんだけどっ!」

「…………」


 盾役のゴードン、魔導師のカリム、僧侶のクレハは涙を浮かべた俺を笑い、女剣士のリーシャは少し眉間に皺を寄せて首を傾げる。


「ククッ……相変わらず、情けないやろうだ……。弱いくせに生意気で……イカれたみたいに"音遊び"に夢中になって、その果てが追放……。お似合いだぜ、アルマ」


 ネロは何やら勝ち誇った笑い声を上げるが、俺の頬には堪らず涙が駆けていく。


「ほ、本当にいいのか……?」


「……"本当にいいのか?"だと? この後におよんでまだ、」


「いっ、」 


「んぁっ?」


「今まで……"いばばで"、ありがとな!」


 俺の涙ながらの言葉に5人はポカンとする。


「……ぞっか(そっか)……。ゔん(うん)。おで(俺)は、このパーティーからづいぼゔ(追放)ざれだ(された)んだな……。今まで本当に、本当に……うぅ……うぐっ、えっぐ……」


「な、何なんだよ! 昔っから……。気持ち悪いヤツだなっ」


「えっぐ、ゔぐ……うぅっ……、ぼんど、あびがどゔなぁ!!」※本当、ありがとな!


 俺の号泣……いや、歓喜の雄叫びに、ネロは眉間に皺を寄せ、リーシャはグッと唇を噛み締める。


 しかし、


「「「ぷっ、アッハハハハッ!」」」


 残りのメンバーと、その場に居合わせた冒険者たちの大爆笑が冒険者ギルドを包んだ。


 俺が感涙するのも仕方ない。

 俺から辞める事はできなかったんだから。


 ――なぁ、冒険者にならないか?


 誘ったのは俺だ。


 ーー誰もがお前に一目置くまで、俺が支えてやる。


 そう言って手を差し出したのは俺。


 神童だ、なんだと騒いがれてたネロを冒険者の道に引き摺り込んだのは俺なんだ。他のヤツらに関しても、きっかけを作ったのは俺で間違いない。


 巻き込んだからには最後までちゃんと面倒をみてやらないといけないと思ってたんだ。


 2年前くらいから辞めたくて仕方なかったけど、どうしても、コイツらの親の顔がチラつきやがる。


 どんなにムカつくヤツらでも、どれだけ辞めたいと願っても、わずかな良心と「幼馴染」という情を捨てきれず、無責任にパーティーを"見捨てる"事は出来なかった。


 というよりも、握手をしながら『約束』したんだから、責任を果たすべきだって思ってたんだ……。


 だが、どうだ?

 コイツら、「捨ててくれた」ぞ……?

 こんな夢みたいな事があっていいのか?


「うぅ……仕方ないよな。クビなら……。本当……うっう……」


 俺は涙を拭いながら、ネロの肩に手を置いてポンポンッと叩きながら感謝の言葉を繰り返す。


「もしかして、自分が捨てられたってわかってねぇんじゃねぇの?」

「ネロたちのおかげで今の地位があるって自覚がねぇぜ、『演奏家さん』にはよお!」

「そりゃ【ピアノ弾き】なんてクソスキルなら、俺だって頭がおかしくなるぜ!」


 ギルド内の冒険者たちは俺を軽んじる。

 その言葉の数々にムカつく事すらない。


 今は、そのどれもが夢じゃないことを教えてくれるものだからだ。


「ガッハハ! やっぱコイツ、イかれてるぜ!」

「はははっ、本当、頭おかしいよ!!」

「ふふふっ、そんなに泣いちゃってさぁ! キモすぎて、本っ当、生理的に無理なんだけどぉ!」


 ゴードンたちの爆笑にまた涙がちょちょぎれる。


 なんておめでたいヤツらなんだ。

 お前たちが本物のバカで、俺は本当に感謝してる!


 もう感謝しか湧き上がってこない。

 こんな憎まれ口すら愛おしくなってしまうほどの大バカやろう共だ。




 正直……、俺は「補助」に関しては最強だ。




 俺の右に出る者なんて1人もいない。


 誰しもが7歳になると女神から授かる恩恵スキル。俺が与えられた【ピアノ弾き】は常軌を逸している。


 音を聞かせる事で、《バフ》と《デバフ》を自在に操るんだぞ? 明らかにぶっ壊れている。


 俺にしか見えない88の鍵盤が、その一つ一つの音が、組み合わせが、弾き方の技術が、その全てが無限の可能性を与えてくれるんだ。


 このスキルとピアニストとしての俺の腕。つまり……補助に関して、俺より優れている者などいないと断言できる。


 初めから俺がいたから、コイツらは自分のスキルの一部だと信じて疑っていないようだが、コイツらに『聞かせてる』、《バフ》は多岐にわたる。


 魔物たちへと《デバフ》も当然の事。

 コイツらは"本物の魔物"と対峙したこともない。ゴブリンにすらも《デバフ》を聞かせてやってたんだ。


 ここ数年はロクに音を聞かないので、演奏家のプライドを捨て、不協和音をかき鳴らし、不快感で無理矢理に聞かせていた。


 本当に苦悩に満ちた我慢の日々だった。


 それなのに、コイツらは……、まったく……。なんて愛らしいバカ共なんだ。もう、本当……、感謝しかない!


 ……って、いや、違う違う!!

 長居は無用だ! 面倒なことになる前に、速攻消える!

 

 ここはさっさと退散するに限る。


「……じゃ、じゃあ、頑張れよ。応援してる! またどっかで会えれば、酒でも飲もうぜ」


 おそらく、込み上がる歓喜と焦燥の狭間で、俺の顔はめちゃくちゃの変顔になっていることだろう。


 あの約束は果たせたのか?

 いや、それはもういいんだろう。


 仕方ないさ。

 もう、俺はクビになったんだ。

 コイツらが……、ネロが自分で俺を捨てたんだ。


「ガッハハッ! これから先、お前と会うわけねぇだろ! 俺たちなしで冒険者やれると思ってんのか?」

「はははっ、もう僕、お腹痛い!」


 ゴードンは笑いすぎて涙を浮かべ、カリムも腹を抱えて、今にも床に転げそうだ。俺はその光景に笑いそうになってしまい、慌てて手で口を覆う。


「じゃ、じゃあ、俺はこれで、」


「おい……」


 さっさとギルドを後にしようとする俺の耳にネロの声が届く。


 ……ふ、ふざっけんな!

 もう無理だぞ? 一度はクビにしたんだ!!


 その気にさせて「やっぱり」なんて、使っていいのは、飲み屋のお姉さんだけって相場は決まってんだよ!


 俺の全身から汗が噴き出る。

 引き留められても断固たる決意で突き放すんだ。


 もう、ギリギリ繋ぎ止めてた良心は、



「ククッ……装備と有金も置いて行けよ。そりゃ、俺たちのおこぼれだろ?」



 ネロの言葉に深く深く安堵する。


 よかった。本当によかった。

 なんやかんや、泣きつかれでもされたら「仕方ねぇな」なんてカッコつけちゃう可能性を持っているのが俺だ。


 装備? 有金?

 置いてく、置いてく!!


 我慢のない日々を買えるなら、安いもんだ。3億Bベルくらいなら余裕で払う! まあ、そんな金はないがな!


 これからのコイツらの末路を考えると、同情しかない。俺が抜けて、コイツらがまともにSランククエストをこなせるとも思えない。


 有金は5000Bベル


 【演奏家】である俺の大切な両手を守ってきた「黒竜の革手袋[A]」は、売れば30万Bベルくらいにはなるだろう。


 決別、いや、餞別の品として30万5千Bベル


 これからの冒険者ライフに「絶望」して、村に帰る資金としては充分すぎるはず……。


「おい、聞いてんのか? アルマ」


「ん? あぁ。わかった、わかった」


 言い返す事も、これまでの自分の我慢を説くような事はしない。



 俺はそんなに優しくない。



 そそくさと装備を外し、サイフを取り出した。


 ネロ、ゴードン、カリム、クレハからは「情けないヤツだ」と笑われ、周囲の冒険者たちには「アイツの運の良さもここまでだ」なんてバカにされる。


 だが、んなこたぁ、どうでもいい!!

 俺はやっと自由になれたんだ!!


 

 ジャラッ……



 ネロの足元に手袋とサイフを投げる。


「ククッ……さっさと消えろ、無能が」


「ふっ、じゃあな、ネロ、お前ら。これからも頑張れよ」


 俺はグルリとメンバーを見渡す。

 "3バカ"は馬鹿みたいに爆笑し、ネロは静かに口角を吊り上げて見下してくる。


 そして、俺を見つめたまま、無表情で首を傾げているリーシャ……。



 パチッ……



 おそらく、最後に目が合う。

 涙を浮かべている俺には、リーシャの透き通る真紅の瞳が眩しく見える。


 ……心残りがないとは言わない。

 ずっと無表情で黙りこくっている"リーシャ・レスティン"。


 コイツは立派な強者ソリストだ。

 同じ孤児院で育ち、一緒に冒険者になり、ここまでずっと一緒に過ごして来た。


 来る日も来る日も俺の横で剣を振り、その努力をいかんなく発揮している。


 ……1つ年下の妹みたいにも思ってる。


 まぁ根暗すぎて、俺とは似ても似つかないし、俺とは比べるまでもない美女に成長しちゃったが。


 俺の「旅の目的」のためには、リーシャが居てくれればありがたいのは確かだが、


 ――いつか絶対……、果たす。


 まだ6つの時のリーシャの誓い。

 誰よりもその努力を見てきた。

 俺に負けず劣らずの……その努力を……。


 両親の無念を果たすためには、Sランクパーティーという称号は手放せないものだろう。


 コイツにはコイツの旅の目的があるのもわかってるつもりだ。わがままは言わない。大丈夫だ、誘ったりはしないさ。


 頑張れよ、お前も……。


 リーシャの瞳を見つめながら心の中で呟き、ふぅ~っと長く息を吐く。

 


「じゃあな! 頑張れよ!」


 

 俺は涙混じりの満面の笑顔で手を上げ、冒険者ギルドの出口、いや、自由への扉へと駆け出したが……、


「ぁあ、それからなぁ……。お前も追放だ、クソ女」


 信じられないネロの声が耳に届く。



 すでに扉に手をかけていたが、俺はピタッと手を止めてしまう。


 聞き間違いかと、バッと振り返るが、


 ……ネロ。お前、最高すぎかよッ!


 そこにはネロが鋭い紫色の瞳で、感情の読めない無表情のリーシャを睨んでいた。


「ハハハッ……、いいねぇ」


 俺はそれをニヤァと笑い、入口近くの椅子に腰掛けた。






1話を読んで下さってありがとうございます!


少しでも「面白そう」と思って下さった読者の皆様。

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