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【幕間】:王子の気苦労(ジュリアン視点)

※王子側の事情や諸々であり、気苦労(自称)です。

 俺の両親はとても仲が良かった。良すぎた……と言っても良いのかもしれないが、ふと手が触れあっただけで照れてモジモジするというのはどういう事なのだろう?


 とはいえ国王夫妻が愛し合っているという事は良い事だし、基本的に善良な人間の多いラークジェアリーでは苦笑いをされても強く糾弾する者がおらず……そんな調子なのでなかなかコトに及べず、周囲から圧力をかけられてようやく生まれたのが俺……ジュリアン・デルブレル・ド・ラークジェアリーだった。


 一人っ子という事もあって溺愛されるのもほとほと嫌気がさしたし、後継者が1人だけというのはラークジェアリーの大きさを考えると色々と問題があるのだが、気軽に治癒の奇跡に頼る事が出来る我が国の場合はよほどの事が無ければ大丈夫だろうという事になり……問題があるとすればそんな両親のイチャイチャぶりを四六時中見せつけられる事になる息子の心労が計り知れなかった事と、あまりにも善良すぎる2人が誰かに騙されないかという事だけが心配だった。


 とにかくそういう風に色々と気苦労の多い出自を持つ俺なのだが、善良すぎる父上が教会から提案されたという婚姻に関する話も頭の痛い問題で……。


「聖女…ですか?」

 10歳の誕生日を大々的におこなった次の日、そろそろ婚約者を決めようという事になったのだが……そこで名前が挙がったのはレティシア・スフィールという平民生まれの聖女だった。


「そうだ、ロッシ大司教(教会のトップ)が言うにはなかなか有望な聖女のようでな、お前と年も近いようだし…どうだろう?」


「それは…はい、わかりました」

 当時の俺はまだまだ子供で、何をやっても王子として見られる事の無力感やもどかしさを感じると共に、偉大な父上の背中から離れる事への恐怖心を抱いていたりする捻くれたマセガキで……なので内心シャリテア(教会)のゴリ押しを跳ねのけられなかっただけなのだろうと斜に構えていたのだが、忌々しい事に父上に反論する理由が思いつかなくて……俺は教会から押し付けられた婚約者を受け入れる事しかできなかった。


 というのも我がラークジェアリーは顕現なされた神々から『門』の浄化を託されたという400年前から続く法螺話(建国神話)が存在しており、優秀な聖女を王家が受け入れるという慣例があるからなのだが……本当に神などという存在が居るのだろうか?


 居るのならこの俺のモヤモヤとした疑念を晴らして欲しいものだが……どうやらそのような疑問を抱いているのは俺だけではないようで、貴族以外の聖女(恋愛結婚の決まり文句)を受け入れるのは100年ぶりであるというのがその証左なのかもしれない。


 なので俺は教会の権威付けの為だけに将来の伴侶が決められたと反発する事になるのだが……この婚約は俺が16歳になった時に大きく揺らぐ事になった。


「は?レティシアが大聖女になる?って、彼女はまだ13歳なのだろう?」

 この時感じた「大丈夫なのだろうか?」という心配は13歳の少女に『門』の浄化をさせるという教会の在り方に対する疑念や自分の婚約者が大聖女に就任するという……つまり務めと休養でかなりの期間使いものにならなくなるという事への不安だった。

 

「はい、『門』は日に日に大きさを増しており…他に適任者がおらず」

 その事を俺に伝えて来た教会側の最上位、ロッシ大司教が言うには大聖女の就任期間は概1年程度、休養期間中に妃教育を受ける事を考えれば丁度良い年齢になるのだそうで……この辺りは両親の出産が遅かった事もあり、ボチボチの年齢で子供を作っていただければみたいな空気が漂っていたのが関係しているのかもしれない。


「おらず…って、いや、そうだな…大聖女の件については父上や枢機卿のお歴々と相談した上で決めてくれ…そもそも大聖女の就任に関しては教会の上層部と陛下の権限だ、なのになぜそれを王子である俺に言う?」

 ここで下手に口を挟めば「また王子がしゃしゃり出て」と陰口を言われるだけだった事もあり、ややトゲトゲしい言い方になってしまったのだが……もしかしてこいつもそういう揚げ足取りで俺の事を嘲笑いに来たのかという邪推をしてしまったのだが、ロッシ大司教は本心から申し訳ないというように頭を下げてみせた。


「王子の婚約者の話でもありますので」

 ただ本当に悪いと思っているのならいたいけな少女に『門』の浄化という激務を押し付けないだろうし、日に日に大きくなっているという割には何がどうなっているのかはロッシ大司教もよくわかっていないようで……俺が国を継いだ暁にはこんなくだらない権威付けの為の茶番なんていうものを取り壊してやろうと思う。


「わかったわかった、俺の事より国の為になると思える決定を下してくれ」

 こうして婚約者がいるけどいないという曖昧な立場になってしまった訳なんだが、レティシアの大聖女就任は色々とややこしい事態を引き起こす事になって……。


「あれ~?王子?こんな所で何をしているんです?ほ~ら~パーターソン伯爵家のナンシーちゃんが王子の事を呼んでいるっていう話でしたよね?今頃良い思いをしているんだろうな~って思っていたんですけど」

 そんなある日、年々積もり積もって行く不条理にモヤモヤしながら勉学に励んでいると、側近の1人であるマイク・ド・ブラン(同年代の伯爵家令息)がやけに砕けた口調で話しかけて来て……あまりにも軽すぎる口調や砕けすぎた態度はラークジェアリーの王子たる俺の側近としてはどうかと思うところがあるのだが、ああしろこうしろと口うるさく言うだけの連中とは違い、色々と気を利かせてくれるところが気に入っていた。


「ぐっ…それは、まあ…俺には婚約者がいるからな」

 レティシアが大聖女になって数年、ロッシ大司教が熱烈に推し続けている事もあって俺には有名無実化している婚約者が居る事になっていて……。


「それは辛いっすねー…絶対にあれは王子に惚れていたと思いますが…いや~惜しい事をしましたね~」

 因みにマイクの言うナンシーというのはなかなかスタイルの良い伯爵令嬢で、ブルンブルンと揺れるたわわな胸元が魅力的な女性で……彼女の事を考えると何とも言えない気持ちになるのだが、その辺りはいくら親友たるマイクの前でも口にするのは駄目なのだろう。


「王子って真面目だよね~…娼館通いもしないし」


「当たり前だ!娼館に行ったなどという事が父上達に知られたらどうなる事か!?」

 ただ我慢に我慢を重ねて押さえつけられている行き場のないモノが徐々に溢れてきているようで……その辺りの辛さを理解してくれるのも馬鹿話をできるのもマイクくらいのもので、こいつだけが唯一俺の事を王子ではなくジュリアンとして見てくれているような気がしていた。


「まあ王子が言うのだったらそれで良いけど…ただ気が変わったら言ってくださいね、王子がお忍びで行けるようなお店を幾つか知っていますし、ナンシーちゃんとの間も取り持ちますので」

 言いながらニヤリと笑うマイクは本当に駄目な奴だと思うのだが、こうして気軽に話し合える友というのはなかなか貴重で……せめてレティシアという婚約者がいなければ新しい婚約者を見繕う事も出来るのだが、ペテン師(ロッシ大司教)の事を信じ切っている父上が「善きに計らえ」と放置しているので一向に話が進まず……そういう悶々とした日々を送っている俺に救いの手を差し伸べてくれたのがドミニク司教(当時は司教)だった。


「それは、お可哀そうに…王子の気持ちを理解する事が出来ない無能達に囲まれているというのはなんとお辛い事でしょう」

 そして何処か胡散臭い笑みを浮かべながら同情してみせた後、何故王子ほど利発な人間が押さえつけられているのかという事に対して熱弁を振るっていて……。


「市井を知るのも為政者としては大切な事だと思います、その事を国王陛下もご理解なされている筈ですが…王子が見分を広げてしまわれると軽くご自分達を越えて行かれてしまわれるのを恐れているのだと愚考しますが」

 この時の俺はようやくマイク以外の理解者を得たような気がしたのだが、流石に父上を批判するような言い方は不敬にあたるのだろう。


「口を慎め、やや優柔不断なところはあるが父上は立派に聖王を務めあげておられる…お前のその言いようは不敬ではないのか?」

 あまり本気で問い詰めなかったのは常々押さえつけられていた反動があったからなのだが、ドミニク司教は「滅相もない」と大げさな身振り手振りで申し訳なさを示しながら言葉を続け……。


「私めは事実を述べているだけでして…王子の欠点はご自分の事を過小評価されておられる事でございます、現にこうして(わたくし)めの意見を聞いてくださる度量の広さを示しておられるではありませんか、そのような王子には是非窮屈な王宮からお出になられて欲しいと願うばかりなのですが…勿論私めの力などしれておりますので王子の力添えが必要ではあるのですが」

 マイクの時はただの冗談という感じではあったのだが、この男はどうやら本気で外の世界に連れ出そうとしているようで……その事に驚きをもって見返すと、ドミニク司教は恭し気に頭を下げてみせた。


「もちろん陛下の御心には背くつもりもありません、王子が気に入らなければどのような処置を下しても構いませんので」


「そ、れは…いや、そうだな…だが何かあったらお前の立場はないと思え?俺は父上程甘くはないぞ?」

 俺達も色々と多感な時期で、娼館通いを始めたマイクから「店一番の美人とやった」とか「誰々と一夜を共にした」とかいう話を聞くだけだった俺はモヤモヤとした寝苦しい夜を過ごしていて……別に羨ましいという訳ではないのだが、司教という立場の人間が無体な事をする筈もないだろうという事で、俺はドミニク司教の話に乗る事にした。


「是非もありません、しかし本当に…このような私めの意見まで聞いていただけるとは…王子は偉大なる聖王になられる事でしょう」

 などと煽てられ、ドミニクの言うとおりに人の配置を変えてみると面倒くさい手続きやら慣習やらを侍従達が代わりにやってくれるようになり、お忍びで城下町に出かける時には門番達が手引きをしてくれるようになって……あれほど息苦しかった生活が改善されていき、やっとの事で付き合いが良くなってきた俺に対してマイクも手を叩いて喜んでくれたりと良いことづくめだった。


 なぜ早くからこうしておかなかったのだろうと思うほど雁字搦めの生活が一変し、何度目かのお忍びの後に気心の知れたマイクに連れられ人体の神秘を確かめに行く事になったのだが……これはなかなか得難い体験だったし、ドミニクが言うには俺が配置を変えた連中も懸命に働いているとの事で……。


「どうやら俺には人事の才があるようだ」

 賢王として名高い父上なのだが、為政者としての資質は守勢に近く……伝統や格式を重んじるばかりでやや決断力に欠けていたのかもしれない。


「我々としてはようやくその事に気付いていただけたのかと思うばかりではあります」

 ドミニクはそんな事を言いながら尽くしてくれて……そうしてマイクやドミニク達を重用しすぎていると口うるさい連中が口を挟んでくるのだが、こいつらは偉そうに講釈をたれるだけで何もしてくれる事は無かった。


「あれらは王子の改革によって席職を追われた者達ばかり、口だけは達者ですがその実役に立たぬ者達であります…現に王子に文句を言うだけで何をしてくれているというのです?」

 ドミニクに言われて調べさせると出るは出るは、確かに文句ばかりで仕事をおざなりにしている連中だったので適当な理由をつけて追い払うとより過ごしやすくなって……俺の見事な采配のおかげで不平不満も落ち着いてきたと思ったら、父上が倒れてしまわれた。


「何?それは…本当か?」

 50近いとはいえ、昨日まで矍鑠(かくしゃく)としていた父上が倒れたとは信じられずに聞き返すと、ドミニクも「訳が分からない」と言いたげな様子で頭を下げるばかりで……。


「すぐさま聖女を呼び寄せ治癒を祈願させておりますが…最近は修行をさぼり気味な連中も多く、なかなか快癒が難しいとの事で」


「馬鹿な!?何のための聖女だと思っているのだ!?」


「そう、言われましても…巷では大聖女がどうとか聖女達の堕落も著しく」


「くそっ…またレティシア(大聖女)か!」

 どれだけ俺達が頑張ろうとラークジェアリーの平和は大聖女であるレティシアの祈りによって支えられているのだと国民達が嘯いており……そろそろ愚民共にどちらが国の主であるかを知らしめなければならないのかもしれない。


「とにかく全力を尽くしてくれ…それで、母上はどうなされている?」


「えーっと、それは…陛下に付きっ切りで」


「つまり…そういう事だな?」

 幼少の頃より付き従ってくれているマイクが母上の様子を報告してくれて……そりゃあ父上の事が大好きすぎる母上なら父上の元に駆けつけるだろうし、2人が政治の舵取りを行える状態ではなくなったとなれば誰が政治を執り行うかとなると……。


「はい、ようやく王子の辣腕ぶりを知らしめる事が出来る状況になったのだと」

 つい先ほどまで嘆いていたドミニク司教はニヤリと笑い、喜びが隠し切れていないというネットリとした笑みに俺は頷き返した。


「よし、ではかねてより考えてあった改革案を推し進める事にしよう…勿論ついて来れない連中も出て来るとは思うが、優柔不断な父上とは違うのだという事を知らしめてやる!」

 この頃になるとドミニク大司教が推薦してきた有能な文官も揃っていたし、マイク……は流石に年齢と実績が乏しかった事もあり、マイクの祖父であるユーゴ・ド・ブランを宰相に据えて国政の手伝いをさせる事にしよう。


「流石の即断即決です、このドミニクも微力ながら力添えをいたしますので…これからもどうか良しなに」

 そしてかねてより構想していた魔物が居ないとかで遊び惚けている騎士団の縮小、大聖女及び聖女に対する費用の撤廃などを行う事にして……浮いた財源で農業改革や通商網の整備などの費用にあてるように指示を出した。


 こうして俺達がラークジェアリーという大国を動かしていく事になるのだが、唯一最後まで反対意見を出していたロッシ大司教もドミニクが不正の証拠を見つけ出して来てくれたおかげで解任する事が出来て……それは今まで押さえつけられていたものからの解放という途轍もない充実した日々であり……ドヌビスが助けを求めてきた(帝国との戦争)時は「これこそ神命だ!」と思い参戦したものの、派遣した近衛騎士団の団長が意外と使えない人物だったようで……「ベテラン騎士は聖女派が多く、縮小の煽りを受けて若手は実戦不足で」とかなんだかんだとごねるばかりで参戦には消極的で、あまつさえ大量に持って行かせたポーションや引き連れて行かせた聖女の多くが討ち取られるという散々な結果を出す事になった。


(何故アインザルフ如きに負けるのだ!くそっ、生きて帰って来たらただでは済まさんぞ!)

 俺は不甲斐ない騎士団長に怒り狂ったのだが、友邦(ドヌビス)がさっさと降伏してしまった以上隣国を挟んでアインザルフと戦うのはいかにも無謀で……こうして敗戦の責任を取らせる形で近衛騎士団の団長を解任し、後任は時折俺の護衛をしてくれていた近衛騎士……たしかジャックとかいう名前だったような気がするのだが、アレは俺の改革案にも賛成の立場を示していたので昇進させておく事にしよう。


(よし、後は…)

 敗戦処理の為にアインザルフの連中が来るというだけでも腹立たしいというのに、傲慢にも聖女を差し出すように言って来ているようで……。


「差し出せと言っているのでしたら差し出したら良いのではないですか?()()にはちょうどいい手駒がいるではありませんか…そう『門』の浄化とか言うペテンを行っているロッシの忘れ形見が」


「手駒?ああ、アレの事か」

 ドミニクが言っているのは『門』の浄化をおこなっているというレティシアの事で……さっさと婚約者という立場から追いやりたいのだが、忌々しいロッシ(前)大司教との約束を律儀に守っている父上のせいでなかなか破棄する事ができないでいた。


(そうか、奴らの言う通りに差し出せばラークジェアリーからいなくなるのか)

 レティシアが婚約者に居座って16年、憎々しい女の……これは単純な歳月以上に俺の青春という二度と返る事のない大事な時期を丸々潰した女に対する怒りがあったのだが、寛大な俺様はそれを許す事にして……建前とは言え大聖女なんていう大それた役職を得ているのだから、最後くらいはラークジェアリーの為に役に立ってもらう事にしよう。


 アインザルフが求めていたのだという事を強調すれば父上も反対はしないだろうし、晴れて自由の身になる俺は選り取り見取りのお相手を見つけ直す事が出来て……。


「そうだな、そうするか…っと、それと俺はまだ陛下じゃない、譲位される前に陛下と呼ぶのは不敬であるぞ?」

 そうドミニクを諫めたのだが、ラークジェアリーを回しているのは間違いなく俺達であり、陛下と呼ばれるのはなかなか悪い気はしなかった。


「申し訳ありません、つい先走り過ぎたようで」

 ドミニクは恭しく頭を下げるのだが……ラークジェアリーという国が俺の双肩にかかっている以上言葉遊びに興じているような暇はなく、敗戦処理や日々の業務を忙し気にこなしているとアインザルフからの先触れがやって来る事になった。


 そして最後に一目くらい見ておくかと思って『門』の間に籠っているレティシアを呼び出し、この時初めて自分の婚約者の顔を見る事になるのだが……。


(こんな…奴だったのか)

 白いボサボサの髪は所々黒く染まり、右半身は水晶化しているという幽鬼のような雰囲気を漂わせた化け物で……マイク達と通っている最高級の娼館に居る連中とはあまりにも違う見た目に眉を顰めてしまったし、聖女というにはあまりにも不格好な()()()()()()()()に呆れる事になったのだが、やはり聖女というのはのうのうと暮らしているのだという事を確信するに至った。


「レティシア・スフィール、お前から大聖女の称号を剥奪する!それに伴いお前との間にあった婚約も破棄、そして『門』の維持などという馬鹿げたペテン行為も終わりだ!あんな茶番の為にどれだけの血税が垂れ流されているのか…お前達はその事がわかっているのか!?」

 こうして長年憎々しく思っていた奴が目の前に現れた訳なのだが、たまりにたまった鬱憤を晴らすように宣言してもどこかぼんやりとした顔で首を傾げてみせるばかりで、噛んで含めるように説明してやったらやったらでレティシアは俺の言葉まで遮り……。


「お言葉ですが、大聖女は瘴気に侵され力が減少しております、すぐに次の任と言われても…それに離れるにしても次の大聖女はどうするおつもりなのですか?」

 こんな奴を配偶者にしなくてよかったと心底思う事になるのだが、ついカッとなってレティシアの頬をおもいっきり叩くと妙に冷静な瞳に見つめ返されてしまい……王子である俺様を憐れむように見て来るだけでも無礼であるというのに、幼少期のありとあらゆる事を否定され続けていた時の惨めさや上手くいかなかったドヌビスへの怒りなどがぶり返してきていた俺は、強い言葉を使ってしまった。


「誰がお前の意見を言えと言った!ジュリアン・デルブレル・ド・ラークジェアリーがわざわざお前のような下賤な詐欺師に時間を割いてやっているのだぞ!分を弁えろ!!」

 積年の恨みが爆発した形になるのだが、レティシアが退出すると流石に頭が冷えて来て……いくらなんでもやり過ぎただろうかと思っていると、ドミニクが「あまりにも勇ましい様子だった」というように手を叩いて喜んでくれた。


「流石未来のラークジェアリーの聖王陛下であらせられる、あのように鼻っ面の高いペテン師の片棒を担いだ聖女に毅然とした態度を…私めには出来ない所業にございます」


「そうか?そうだな…いや、俺としても当然の事をしたまでだ」


「いや~流石王子です、少しだけ勿体ない気はするけど…あれ(水晶化)を抱くのはね~」

 何故かマイクだけが名残惜しそうにレティシアの去って行った方向を見ていたのだが、俺の側近として取り立ててやった連中がしきりに「そうだそうだ」と言うので徐々に気を良くしていき……俺はつい先ほど自分が追い出したレティシアの事など考えるだけ無駄だと捨て置く事にして、有能で気心の知れた連中と共にアインザルフとの会談に向けての準備を始めるのだった。

※後継者についての諸々なのですが、本人(王子)に堂々と言うものではないのでややスルー気味なのですが、親戚筋とか第二後継者みたいな人達は普通にいます。ただ傍流となるのであまりお勧めはしませんみたいな感じです。


※レティシアの婚約関連の話はロッシ大司教とクリスト聖王が決めたもので、レティシア本人はこの事実を知りませんでした。この辺りはドミニク司教の例を見てもわかる通り色々と政治的な妨害が入る事を懸念した結果でありますし、ただでさえ周囲に流されやすい王子に婚約者という立場から色々と要らない事を吹き込まれては困るとドミニク司教達が暗躍した(接触しないように妨害した)結果でもあります。なので王子の方も遠くから見かけた事があるというくらいですし、13歳で大聖女に就任した事やなかなか交代要員が送られてこなかったのもこの辺りのややこしい事情が関係してきたりしています。


※ラークジェアリーの軍制は各地を回る巡回騎士(教会所属)と王家が直轄している近衛騎士に分かれています。そして建前的には「教会<王家(聖王)」なので王家が命令権を持っているのですが、“聖女派”と“国王派”による争いがここにもあるので指揮系統はあってないようなものですし、魔物と戦っている巡回騎士(聖女派)と王都の守りを固めているだけの近衛騎士(国王派)の練度の違いも馬鹿に出来るような状況ではありません。

 この辺りのいざこざや、王家が動かす事が出来るのが平和過ぎて実戦経験の乏しい若手やドミニク大司教のせいで愛国心が著しく低下している近衛騎士だけだったという事もあって、勇猛果敢で知られるアインザルフに敗退する事になりました。


※タルのような体型 = 巨乳が締め付けの少ないブカブカのローブを着ていたのでぱっと見では太って見えました。この辺りは王子の見る目の無さなのですが、「スタイルの良い美人=娼婦のような薄着や体型の出る服を着ている女性」という思い込みや服の下を想像するのははしたないという思い込みもあって、見たままの感想を抱いたみたいな感じです。

 たぶん身支度を整える暇があったらジュリアン王子も目を瞠って「味見するくらいなら」と手を出し絆されたのかもしれませんが、忌々しい相手という思い込みも手伝いファーストコンタクトに失敗しました。


※前半で「奇跡があるから1人っ子でも大丈夫」と言っていて、後半で「聖王が倒れて治療が出来ず」云々と言っているのですが、つまりそういう事です。教会のトップはドミニク大司教であり、建前的には政教分離が行われている(別部署が口を挟みづらい)国ではあります。


※たぶん本編中に語られる事が無いと思うので補足をしておきますが、王子が実現しようとした改革の大半はドミニクとその手下達に中抜きをされるだけの事業となります。ただ「大成功しております」という報告がドミニク達から上がって来るので、なぜこれだけ大成功しているのに反対意見が出て来るのだ?と王子は本気で首を傾げる事になります。

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