2 クラスメイトと始業式
普段、複数の女子から一斉に見つめられることなんて、変な行動をとってしまった時くらいなものだ。
いや、今のセリフも彼女らにとってはその変な行動に当たるのかもしれないが。
「なーんか様子がおかしいとは思ったけど、なに?揶揄ってるつもり?巫山戯てるの?」
ポニテの子が言う。
「い、いや……巫山戯てるんじゃなくて、本気で聞いてるんだけど……」
「つまり、結人は、自分が記憶喪失だって言いたいの?」
少し間を置いて、
俺の発言に、セミロングの子が反応する。
記憶喪失、その可能性も否定できない。
仮に記憶を失っているとしたら、彼女らは俺の妹、ということになるのだろうか。
記憶喪失にしても、あまりに現実味がない。
「少なくとも……君たちのことは知らない……」
今はっきりしていることを口にする。
場に再び、沈黙が流れる。
「ね、ねぇ!お兄、学校早いんだから、とりあえず朝ごはん食べようよ!」
ゆかが、この雰囲気に耐えきれないとでも言いたげな様子で言った。
「そうだねっ、これで遅刻したら大変だよ」
ショートカットの子が同意を示す。
話を聞いておきたかったが、家を出る時間が迫っていた。
早々と朝食をとり、家を出た。
妹(?)たち曰く、彼女らは新1年生らしい。
なので、午後にある入学式に間に合えばいいようだ。
登校中、今しがた自宅で遭遇した美少女達について考えていた。
去年と同じ登校のルート。何も気にせずに、考えることができた。
今日は、午後の入学式の前に、組み分け、そして始業式が行われる。
俺は文系なので、1、2組に振り分けられるだろう。
そして、組み分け表は、昇降口に張り出される。
人集りを掻き分け、
自分の名前が表の最左列にあることを確認して、靴を履き替え、教室へ向かった。
自分のであろう席に座り、今朝の精神的疲労を癒そうと目を瞑る。すると、左肩を誰かに叩かれた。
「よぉ高藤、今年も同じクラスみたいだな」
聞き慣れた声、去年からよく聞くようになった声だ。
「そうか、それは良かったな、富永」
昨年度のクラスメイト、富永宗一に顔を向ける。
こいつとは去年、アニメという共通の趣味から意気投合した、親友までとは行かずとも、仲の良い友人でと言える存在である。
そしていつもはにこやかに済ますその顔は、まるで得体の知れないものに出会ったかのようだった。
「高藤、ど、どうしちまったんだ?お前……春休み中におかしくなっちまったか?」
「は?何いってんだよ」
訳が分からない。おかしくなった?そんなつもりは無い。
「いや、だってよ……お前、去年までのお前なら、『ああ、そうだな。今年もよろしく』って返すだろう?!」
いや、さっきの俺の返しとは確かに違うけど、おかしくなったと思われるほど違うか?
という言葉は喉に引っかかって出てくることは無かった。
「まぁ、いいか。とにかく始業式行こうぜ」
「りょーかい」
始業式が行われるのは体育館なので、クラスメイトたちの流れに乗って、俺たちも移動を始めた。
富永が言うには、俺は以前とは変わっているようだ。ゆかたちの言うように、部分的に記憶を失っているとして、それが原因で性格が変わる、とすると、有り得る話ではある……当の本人である自分には、確認の仕様がないことではあるが。
そんなことを考えているうちに、体育館に着いた。2年の1、2組の教室の位置は、体育館にかなり近い位置にあるからだ。
自分の割り当てられた位置に座る。出席番号で高藤と富永の間には誰も居ないので、ひとつ後ろは富永である。
いやまぁ、どうでもいいんだけど。
『───年度、始業式を──』
開式の言葉であろう言葉が聞こえてくる。いつになっても、始業式、というか体育館行事は眠くなってしまう。話が長いからね、仕方ないよね。
なーがい話だった。なんの話があったか全く覚えてない。多分寝てたな、うん。
その後教室に戻り、毎年の同じようなホームルームの時間が過ぎ去り、放課後になった。
「なぁ高藤、この後どうするよ」
すっごいあきりたりだなぁ、おい。
「うーん、特に用事もないけど……」
「なら、昼どっか食いにいかね?他の奴らと」
「別に、いいけど」
断る理由もない。朝のドタバタでというか、昼飯は母が作ってくれていたはずだが、今朝は姿が見えなかった。どうすればいいかわからなかったから、ちょうどいい。
靴を履き替え、外に出る。
富永と、同じクラスになった麻倉と宮本の4人で、正門を出て、バス停へと向かう。
と、不意に自分の軸が左に傾いた。
高藤結です。
連続投稿は、今だけの特権です。
受験勉強でまた間が空いてしまいそうです。