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短編集

私はもう恋なんてしない

作者: 泣面道化

騒々しい場所でも特定の声を聞けるのはカクテルパーティー効果って言うらしいです。

にわか知識なので誰かに披露する場合は調べてからにしてください。


「俺、好きな人いっから」


 騒々しい教室で僅かに聞こえてきた声。

 心臓がドキリと跳ねた。

 ふと、声が聞こえた方に顔を向ける。

 友達と楽しそうに話す横顔が、その笑い声が、私の鼓動を早くするのを感じた。

 慌てて顔を逸らして窓の外を見る。


ーーあぁ、私の好きな人が私の事を好きだったら良いのになぁ


 誰だとか、教えろ、なんて言葉が途切れ途切れに聞こえてくる中で流れる雲を見ながらそんな事を思っていた。


「好きです。付き合ってください」


 掃除当番のゴミ捨ての帰り道。

 騒がしい教室でも、私の耳によく届く声が聞こえた。

 いつも早くなる心臓の音が嫌にうるさい。

 涙が零れないように上を向く。

 歪んだ空に、沁みるような青に、頬が濡れた。


ーー私はもう恋なんてしない


 奇跡なんだと思う、好きな人の好きな人が自分なんて。


「帰り道ってどっち」


 夕暮れのいつもの帰り道。

 前を歩くカップルからそんな声が聞こえてきた。

 心臓の音は落ち着いてくれなくて、苦しい。

 夕焼けは違う2つの影を溶け合わせて1つにして伸ばしていた。

 別れ道、影は右に私は左に歩いていく。


ーー私はもう恋なんてしない。だってあなたが隣に居るから


 こんなに苦しいのも、幸せなのもあなただけで充分だから。

 繋いだ手の暖かさを感じながら、そんな事を思っていた。


 夕焼けは伸ばしていく、2つの違う影を1つに溶け合わせて。

 どこまでもどこまでも。


読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく綺麗な文体で、物語よりも先に、そちら方へと引きこまれてしまいました [一言] 短い物語でも、このような表現の仕方があるんだなって少し隣の芝が青く思えました。勉強になります
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