1話 4
アスのおっちゃんとの修練と平行して行われているのが座学だ。
そう、あの白髭爺さん拷問座学会だ。
毎回同じセリフの繰り返しで、辟易しているあの拷問のような座学会である。
ただ、最近はちょっと楽しくなってきた。それはなぜかと言うと
「では、昨日の続きからですな。火に関する魔法の論理から」
そう、魔法だ。
今までは魔王や魔族がいかに悪であるかを説いてきたのだが、ここにきてようやくファンタジーの王道『魔法』の登場なのだ。
胸アツな展開だ。
こうでなくてはな。
白髭爺さんの話は長いのでまとめると、
魔法とは限られた人間しか扱えない崇高なものである。
魔力という限られた人間しか宿されていないため、扱える人間が限られている。
魔力から捻出した力を媒体に思い描く現象を引き起こす。
魔法こそが人間が用いる最高の武器である。
ということらしい。
だいぶ思想が傾倒してるのは気のせいではないだろう。
選民思想、エリートこそがという思いが言葉の端々から窺える。
それを抜きにすれば、だいたい小説や漫画、映画などと同じような設定だ。
慣れ親しんでいる分、すぐに理解できる。
そして、ここでも勇者の経験がフル活用されることとなる。
一言で片付けると、魔法書に触れるだけで魔法が扱えるのだ。
ん?
となるのは、よくわかる。実際、自分もなった。
そんなご都合主義あるのか。
ごもっともだ。
白髭爺さんの言を借りるならば、すでに様々な異世界でその下地を作り、出来上がっているからだと言う。
召還して帰還させているのは、そうした側面もあるかららしい。
嘘くさい上にこじつけだろうと思うが、現代社会には確かに異世界召還物の小説や漫画が存在している。
これは否定できない。
まぁ、白髭爺さんの言っていることは悪魔の証明と一緒だ。
言ったもん勝ちである。
そんなわけで、論理をすっ飛ばして魔法を扱える。
白髭爺さんも勇者なら当たり前であると説いてた。
その上で論理は魔法の質の向上には欠かせないということで、仕方なく座学している。
ただ、やはりと言うべきだろう。曖昧で抽象的な表現が多く、よく分からない単語も飛び交うし、理解させる気がまるでねぇ。
難しく教えて誰得なのか。
あぁ、白髭爺さんの知識を披露したいだけなのかも。
だとしたら、とんだ茶番である。
そんなわけで論理はまるで分からないまま、魔法は使えるという白髭爺さんからすれば歪な存在の完成だ。
そんなことを言われれば、反論の一つもしたくなるのが人の性。
魔法の質の向上が望めないのなら、この座学をやる意味があるのか、と問う。
「勇者殿が魔法を使うのは主に自分自身に対してです。魔法戦は我が魔法騎士団から選出した優秀な者が行います」
白髭爺さん、口角を上げながら続ける。
「勇者殿は得意な分野を伸ばしていただければよい。魔法は魔法騎士団にお任せを」
そのようなことを宣う。
つまり、お前は魔法覚えるよりも剣を振り回しておけ、ということだ。
アタマにくるな、この野郎。
これは最近知ったことだが、なんとこの白髭爺さん、魔法騎士団団長だったのだ。
聞き逃していたから全くわからなかった。
名前は確か…ヘテカ? だった気がする。
確信ないからやはり白髭爺さんで。本人の了承はとっていない。どうせあーだこーだ言われて終いだろう。
こうなったらその魔法騎士団とやらより魔法を上手く扱ってやる。見てろよ、白髭爺さん。
見下したことを後悔させてやる。
白髭爺さんの口上はとまらない。今のうちにたくさん喋るがいい。絶句させてやるからな!