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1話 2



SIDE アスクレー


長い対魔族戦略会議がようやく終わる。

半日ほどかけてやったことと言えば、各方面の近況報告だ。

紙一枚で事足りるし、そもそも面と向かって話す必要すらない。

他の者がどう思っているのかは知らないが、私はこの形骸化した様式に憤りを感じる。

勝利に粉飾された報告なぞ聞くだけ無駄なのだ。あたかも大合戦のように騙り見事討ち滅ぼした、などとうそぶく。

実際に行われているのは小競り合いだ。

勝利とか言えるレベルではない。両者に死傷者はでているが、微々たるものだ。


こめかみに鈍痛がはしる。

一息入れたいところだが、まだまだ仕事は山積み。それに問題は次々にやってくるものだ。


「アスクレー団長、お知らせしたいことが」

腹心のフィアレスが音もなく近付いていて、そっと告げる。

勇者殿との修練があったのだが、時間を変更してもらう他ないだろう。言伝を部下に頼むと事務室へと赴く。

フィアレスに報告を促す。

「魔族に動きがありました。商業都市コンセンテにて統率のとれた魔族が入都。規模は一個中隊かと」

「そうか、想像していたより早かったな。コンセンテに混乱は?」

「偽装していたこともあり全くありません」


人族の商人が集まり出来た町がそもそもの起源のコンセンテ。自由に商売ができるということもあり人が人を呼び、今では各国の貿易の要としての側面ももつ。

ここに行けば手に入らないものはない、と言われるくらいには栄えている。


当然のようにここを独占しようと各国が争うこととなった。そこでコンセンテの領主がとった行動というのは非常に商人らしいものだ。

別の国々へと救援要請を送ったのだ。

独占されてたまるか、となった救援要請を受けた国々は連合を結成し撃退。

その繰り返しが度々行われていた。争いの絶えない歴史をもつ。


その結果、コンセンテは非武装地帯として決められた。騎士団の駐屯や傭兵を集めることは禁止、入都はできないことになった。発足した当時より現在は多少緩くなってきたものの、大筋はそんなところだ。


だがそれは表向きの話。

人の業というのは取り決めだけで制御できるはずもない。

結局のところ、争いは水面下に移行しただけでやることは変わらなかった。見えない戦争がそこで行われていたのだ。

そんな複雑な状況にあるコンセンテに魔族が入都する。

火に油を注ぐようなものだろう、普通に考えれば。

自由商業を謳う都市であるため、少なからず魔族は存在していた。アンダーグランド的な存在ではあるが。


「領主の反応は?」

「初見で驚いたような反応でしたが、おそらくブラフでしょう」

領主バルディとは面識こそないが、フィアレスにその人となりを教えてもらっている。

計算高く賢い、というのがその印象だ。

そうでなくては務まらないだろう。群雄割拠する戦場で商業都市として栄えさせているのだから。

並みの領主なら暗殺されて終いだ。


「バルディは魔族を選んだか」

どの国、同じ人、ではなく異種族の魔族を選ぶという意味。

様々な勧誘や誘惑、恫喝や恐喝まであったであろう中での判断だ。

バルディが何を知り、何でその判断に到ったのかを知る必要がある。


その中で統率のとれた魔族というのはキーワードだろう。一個中隊というのは決して数としては多くない。二個大隊をぶつければ制圧できる。

今までの魔族ならという前提条件がつくが。


また問題が山積みされた。

一つ一つ片付けなければ、やがて雪崩となり押し潰されるだろう。

フィアレスに引き続き現地での調査を任せる。まずは情報だ。戦場で何も知らないまま戦うというのは恐ろしい。裸で五感を失ったまま戦うようなものだ。

情報だけを集める組織を作りたかったが、首相には理解されないまま却下されてしまった。ならばと優秀な者を数人ピックアップし、育成という名目で留学させ、情報収集の任務につかせている。効率は悪いが今できるのはそんなことぐらいだろう。



一人になると、勇者殿の動向報告書に目を通す。勇者としての素質はあるようで、順調に適応中である。

歴代の勇者たちと遜色ない。

精神の状態は平静である。召還者特有の万能感はない。勇者は今までの経験というストックがあるため何でもできる。

実際はできないのだが、少しやれば人並み以上にできてしまう。それが増長を招いてしまう。

今回の勇者はそうならないように側についていなければならない。

勇者という歪な存在をいつの時代でももて余す。違う理を無理矢理この世界に当てはめようというのだから当然の帰結。

私にできることはその歪を最小限に止めることである。


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