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 予想した通り、目的地に着いたのは夕方になってからだった。

 周囲を山に囲まれた場所にポツンと小さなペンションが建っている。

 その夕日を浴びて、小さなペンションの白い壁が薄汚れているのが目だって見える。

「何の話かわからないな」

 篠崎光太郎はムッとしたような顔をした。

 30歳をこえたばかりだと聞いていたが、ずいぶん老けて見える。寝起きのように見えるボサボサ頭に無精髭がそう見せているのかも知れない。ペンションの玄関の前に立ち、響たちのことは一歩たりとも入れないという雰囲気が出ている。

 その姿を見て、思わず響は梢と顔を見合わせた。

「あら? 妹さんから聞いてなかった?」

 文乃は相変わらず軽い口調で訊いた。

「聞いてはいるが断ったはずだ」

「どうして?」

「くだらない話だからだ。妖かし? そんなくだらないことに付き合っていられるか」

 光太郎は吐き捨てるように言った。

「おやおや、信じていないの?」

「信じるはずがないだろう」

「どうして? 妹さんに相談したんじゃないの? 夜な夜な変な声がするって。殺されるんじゃないかって」

「そ……そんなことは言っていない」

「でもねぇーー」

「いいから帰ってくれ!」

 文乃の言葉を遮るように、光太郎は強く言った。

「どうするんです?」

 響は文乃の背後からそっと声をかけた。既に陽は落ちかけている。自分たちは良いとしても、梢を野宿させるわけにはいかないだろう。そんなことになったら、それこそ兄である七尾流の怒りをかいかねない。

「とりあえず今夜は部屋を貸してもらえません? 空いてるんでしょ?」

 文乃は光太郎の怒りなどまったく気にしていないように言った。

「どうしてそうなるんだ?」

「空いてないってことはないでしょ? こんな時間だっていうのに全然人の気配がしないじゃないの。営業してないの?」

「営業はしている。部屋が空いていたとしても、あんたたちを泊める理由にはならない」

「だって私達はあなたの妹さんに招待されたんだよ。追い返されちゃうと困っちゃうじゃないの」

「それは君たちの問題だろう。私には何の関係もない」

 まったく取り付く島もない。

「ふうん、それじゃ仕方ない。帰ろうか」

 文乃が響に振り返って言った。

「今からですか?」

「うん、残念だけど美奈子さんには私のほうから連絡しておくことにしよう」

 文乃はわざとらしく少し声を大きくした。

「え?」

 それがいったい誰のことなのかわからず、響は聞き返そうとした。だが、それよりも早く反応したのは光太郎だった。

「美奈子だって? どうして君たちが美奈子を知っているんだ?」

「おっと、何でもありません。気にしないでください」

「君たちは美奈子と知り合いなのか? あいつがどこにいるのか知っているのか?」

「まあね」

「教えてくれ。あいつと話をしたいんだ」

 さっきとはまるで態度が変わっている。

「どうしようかなぁ。とりあえず私たちは今夜、泊まるところがほしいんだよね」

「わ、わかった。泊まっていいから教えてくれ」

 渋々といった様子で光太郎は頷いた。

「そんなこと言って教えた途端にサヨウナラなんて言われたら困るんですけど」

「そんなこと言うわけないだろ」

 だが、文乃はニヤニヤ笑いながらーー

「そんな保証ありますぅ? 明日の朝に教えますよ」

「……わかりましたよ。ただし、明日には帰ってください」

 仕方なく光太郎は答えた。


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