仮面魔闘会―予選―
大会に向けて精神を研ぎ澄ませる時間を取るためか、参加者は指定時間になると個別の控え室に案内されます。
わたしは口元を隠すマフラー、目を覆うゴーグル、髪色を誤魔化す赤毛のカツラに、学園指定の制服を身に付けたとても変な格好で一人静かに控え室で出番を待ちます。
誰にもわたしだとバレない反面、距離を取られること間違いなしな地味に悲しい現実を、鏡で確認することにもなりました。
これだけの代償を払ったのですから、何か持ち帰らなくては……もともと高かった士気は増す一方です。
この仮面魔闘会は、あくまで伝統的な催しです。
予選を含むこの大会自体が実技演習も兼ねていて成績にも反映されるので、こんな風に集中できるスペースを用意してくれたりもしています。
本当は仮面なんて着けなくて良く、むしろ顔を隠せば成績になんてなりません。
それでも毎年何人も仮装を楽しむ人が居て、参加・見学の両面で人気になっています。
うん、こんな格好のわたしでも目立たずにすむかもしれませんね。
「それにしても……本当に参加することになるとは思っていませんでしたね」
そんなことを無意識に呟いてしまいました。
口元が隠れるマフラーを巻いているので外からはモゴモゴ動くくらいで分からなくて良かった。
こんなことをヴェルターにバレたら「嘘だと思っていたのかい?」なんてすぐ傍に現れそうですからね。
……近くに居ないから気付くはずがありませ……ありませんよね?
思わずきょろきょろ周囲を見渡してしまいました。
――青ゲート、アイルゥ=ヤト!
対戦者の名前が呼ばれています。
では遂に始まってしまうのですか……。
気後れする心を奮起させて控え室を出て、たった数十秒しか立てないリングに向かいます。
光が差し込む四角い通路を抜けると、既に舞台に上がった相手もわたしと似たような格好……であるはずもなく、普通に素顔と動きやすい私服での参加でした。
むぅ……元々わたしに不利なのに、ヴェルターは厳しすぎませんか?
チラリと視線を向ければ手を振ってくれました。
わたしの気も知らないで……。
ですが見守られることなんて無かったので、心がゆっくり温かくなるのを感じます。
ただ、同じように「ダメージを受ければ一発で負けるので気をつけてください」とも言われています。
準備や秘策もありますが『これで勝てるのか?』とやはり不安になってしまいます。
これまで運動はしても、わたしは一度も『魔法士戦闘』なんてしたことが無いんですけど……。
――赤ゲート、金獅子!
……え、もしかしてわたしです?
金は髪の色だとしても、わたしが獅子のはずがありませんよ?
あの賢者は何て名前で登録しているんですか!
昨日、気楽に「手続きは私がやりますから、ティアナは休養していてくださいね」なんて言っていたのを鵜呑みにしたのが間違いでした!
しょぼんと頭を俯かせ、ヤトと呼ばれた対戦相手と仮面魔闘会運営に任命された審判が待つ舞台に上がります。
「すごい格好だね」
対戦相手が声を掛けてきましたが、まだ術式が降りていない舞台に立つわたしにはそんなに余裕はありません。
開始の合図と共に仮想戦場が発動しますが、いつどのタイミングでか分からない中で、集中なんて切らせません。
時間制限ありで衆人環視の中、負けられない戦いを異界の賢者に強いられるわたしのプレッシャーが分かりますか?
舞台に上がるだけで息を切らすわたしの……ま、分かりませんよね。
だってこの学園に在籍する先生や生徒は、魔法という特別な技術を扱える人たちばかりですからね。
「無視、か」
本性を隠している状態では声を出すわけにもいかず無言になるのは許してください。
視界を閉じ、耳を研ぎ澄ませ、肌で感じ、俯いたまま開始の合図を待ちます。
そう、わたしはこれから勝てないはずの相手に勝たないといけないんですよ。
けれどヴェルターが『わたしにならやれる』と言いました。
そしてわたしは異界の賢者を信じると決めています。
彼ができると言うのなら、できるはずなのです。
「二人とも、準備は良いかな?」
「相手は知らないけどこっちは構いません」
わたしは静かに息を吸い、しっかりと頷きました。
余裕なのか、対戦相手のヤトから「やっぱりダンマリか……つれないね」なんて聞こえてきます。
視線をついっとヤトに向けると、その奥の観客席にいつの間にかヴェルターが移動していました。
え……特等席?
――はじめっ!!
ぽかんとするわたしを置き去りに、ヴェルターが仮想戦場と呼んだ術式が起動し、舞台が蒼い輝きに包まれました。
お読みくださりありがとうございます。
魔力を伴った攻撃しか認められない中で、魔法の使えないティアナの魔法戦が始まります。
いったいこの矛盾した問題をどのように攻略するのでしょうか(笑




