第1章 召喚されました
器用貧乏、それはそれは器用であるために一通りのことはできてしまうが、一芸に秀でることがなく、大成することがない者の総称である。
「ようこそ異世界人。我が名はウーノス・タイン、呼ぶときはウーノスで構わん」
本や薬品がひしめく薄暗い部屋の中、ウーノス・タインは漆黒のマントを翻し、仰々しく名乗りをあげた。
「異世界人、君の名前を教えてもらおうか」
「…どこだ…ここ」
この状況に俺は全くついていけずそれしか言葉を発することができなかった。
「ふむ、いきなり召喚されて混乱しているのか、無理もないな。よし、お茶でもしながらゆっくり話そう」
ウーノスはそう言うとカツカツと部屋の外へ出ていってしまう。
「え、ちょっとまって」
俺はあわててウーノスを追いかけて部屋を出る。ここは地下室のようで部屋を出ると登り階段があった。ウーノスに続き階段を昇る。階段の終わりにも扉があり、そこを開けるとさっきまでいた埃っぽく薄暗い部屋とは打って変わって日光が差し込み、花や植物がひしめく庭園だった。
「まあ座りたまえ」
庭園の中央には机と椅子あり、ウーノスがカップにお茶を注ぎながら座ることを促してくれる。
「ありがとう、えっとウーノスちゃん?何で俺はここにいるんだ?さっき召喚されてとか言ってたよね?あと、ここはどこなんだ?」
「うむ、私が呼び出した。ここはアルボルという村の外れにある私の家だ。いや、この場合は異世界と答えた方がいいかな?あとウーノスちゃんは止めてくれ。不老の魔法がかかっているから若く見えるだろうがこれでも200歳をこえているんだ」
「に、200歳?全然見えないな15歳くらいに見える」
「無理もないだろう、私が不老になったのがそれくらいだ」
そう言いながら微笑むウーノスの顔には微かに苦労の色が見えた。そりゃそうか、どんな経緯で不老なんてものになったかは知らないが決して楽な道ではなかっただろう。
「やさしいな、私が不老だとわかるとほとんどの者は奇異の目で見てくるが君の目には私を気遣ってる色が見える」
「いや、仕事柄他人のことを考えることが多いだけだよ」
そう、俺は介護職員として働いていた。こっちにくる前もこの間入居した前田さんの入浴介…護…を…
「あああー‼️前田さんが死んじゃう‼️ウーノス、すぐに俺を帰してくれ‼️このままだと前田さんが死んじまう‼️」
俺はあわててウーノスの肩を掴み揺さぶる。
「お、お、落ち着け、その前田さんとやらは大丈夫だ」
「何が大丈夫何だよ!」
「これは召喚魔法に関することなんだがな、生物を召喚する際には何か媒体…生け贄が必要なんだが君を召喚する際に使用したのはホムンクルス…要は人造人間を使ったんだ。そのホムンクルスは次元の狭間で君と入れ替わるとき君の見た目や性格、能力をコピーするようにしてある。向こうの人間からしたら何ら変わらない日常だろうさ」
「す、すごいな魔法ってのは」
どうやら前田さんの命は助かったようだ。だがまだ分からないことがある。俺を召喚した目的だ。200年の時を生き、魔法使いとしてもおそらく優秀なウーノスがなぜ俺を召喚したのか。全く分からない。
「ウーノス、俺は何のために召喚されたんだ?俺に何をさせるつもりだ?」
率直に聞いてみるとウーノスは目を瞬かせキョトンしている。
「あ、あぁ、すまない。特に考えてなかったから面食らったよ」
「考えてなかったってどういうことだよ」
「それはな、さっきの召喚魔法の説明でも言ったが君の召喚にはホムンクルスを使ったんだ。これは始めてのことでね、大抵は召喚する生物と同等かそれ以上の生物を媒体にするんだ。つまり今回の召喚は実験だったんだよ」
マジか、よくある勇者召喚や転生ものみたいなのじゃなく、ただのウーノスの気まぐれで呼び出されたのか。
「ウーノス、それなら俺を早く帰してくれないか?実験は終わったんだろ?」
「まぁね、君がそれでいいならそうしよう。だが、最後に聞いておきたいことがある」
「何だ?」
「君の名前を教えてくれないか?せっかくであったのに名乗りもせずに帰る気かい?」
そう言われて俺は、まだウーノスに名乗ってなかったことを思い出す。
「ごめん、気づかなかった。俺は川崎幸人だ。ウーノス、帰るまでよろしくな」
「よろしく、じゃあ早速帰還の準備をしようか。地下室に行くよ」
地下室に入るとウーノスは床に描かれた魔法陣に何かを描き足し始めた。
「ウーノス、それは何をやってるんだ?」
「これは召喚する者を指定するための魔法陣を描き足してるのさ、今回はユキトの時みたいに誰でもいい訳じゃないからね。…よし、できた。ユキト、魔法陣の真ん中に立って」
俺は言われた通り魔法陣の中心に立つ。
「ーーーーー」
ウーノスが何かを呟き手を動かすと床に描かれた魔法陣が輝きだした。
「ユキト、もう会うことはないと思うが達者でな」
「ああ、ウーノスも元気で」
ウーノスと最後の言葉を交わした後、魔法陣の輝きが強くなる。あまりの眩しさに目を閉じてしまう。再び目を開けるとそこにはいつも通りの日常が待っているだろう。そんなことを思いながら目を開けるとそこには…ウーノスが立っていた。
「あ」
「あって何?何か不安になるんですけど。これまだ召喚魔法が終わってないってことなんだよね?」
「あのさ、ユキト。召喚魔法は召喚する生物と同等かそれ以上の生物を媒体にする必要があるっていっただろ?」
うん、確かにそんなことを言っていたな。
「ホムンクルスなんだけどさ、召喚魔法に使うためにメタモルフォーゼや能力転写魔法とか色々つけたんだ。それで思ってたより価値が大きくなっちゃったみたいでさ」
「つまり?」
「帰れなくなっちゃった。ごめん」
「マジですか」
「マジです」
こうして俺の異世界生活が始まったのだった。
初の投稿なのでおかしな点があったら教えてください。よろしくお願いします!