始発
まだ夜も明けきらない暗闇の中。
俺は1人、電車のホームにいた。
誰もいないホームは、いつもの喧騒とは無縁で、ただただ、黒い空間が広がっているに過ぎない。
ぽんぽんと、切り替わっていく電光表示板だけが、俺が今、まさにここにいるという証明をしてくれていた。
電車が来るという放送がかかると、遠くのカーブから次第に速度を緩めていく電車が入る。
ヘッドライトは、将来を見据えている。
ただ、2本の轍を走り続ける人生ではあるが、決して悲観はしていない。
それどころか、何か誇らしさも感じる。
目の前に止まると、誰もいない電車のドアが開いた。
6両編成で、ずっとみていても乗っているのは、乗務員以外ではでいぜい2、3人といったところか。
そのロングシート席に座り、窓から外を眺める。
ドアが閉まり、ゆっくりと動き出す世界で、俺はしばし眠りについた。