78話 お稲荷様と調味料2 その1
名古屋市の由来は、今川義元の父親が名古屋市一帯を支配していて那古野さんと言う人を派遣していたのが由来です。後に織田家がそこに入るのですがすでに地名が定着していたのでそのまま使用しました。
熊野歴4月中旬
桑名で一泊し船で岐阜に向かう、乗って来た鹿車は狩猟協会に預けて置こう。出来れば鹿車ごと船で移動したい所だけど川を遡る船はそこまで大きくない。今のところ船は板を松ヤニで張り合わせた物に、表面を漆で塗り固めた物を使用している。
船は現代の大型のボートしては問題ないが、熊野さんが近代化された昭和の漁師だったため川用の舟底の浅い船の制作に戸惑って居る。確か昔の船は平船と呼ばれる船底の浅いものだった気がする。この辺りも戦国時代を生きた近衛さん達の意見を取り入れて、物流の効率化を取り入れたい所だな。
船に乗り半日程で岐阜に到着し、領主の耕一さんの邸宅に向かう事にした。岐阜の町は濃尾平野の開拓により潤って来てはいるが、農業で利益を上げるのには時間がかかりそうだ。有り体に言えばコスパが悪い。田畑を作ってしまえば収穫が見込めるが、その田畑を作るのに時間がかかる。
一昨年までは収穫量が少なく口減らしが必要だったが、俺が醤油や酒で儲けた資金を投入し名護屋方面から人を派遣して共同で開拓する事で徐々に収穫量が増えて来た。領民に腹いっぱい飯を食わせたいと言うのは耕一さんの生涯の課題だそうだ。
「こんにちわ耕一さん、開拓の調子はどう?」
「仁様じゃないですか、お陰様で収穫は増えてますね。せっかくなので泊まって行って下さいよ色々と積もる話もありますし、所でくくりは……」
「すまない耕一さん、くくりは伊勢神宮でお仕事だ」
トヨウケと何か料理を作って居るのは伏せておこう。
「そうですか、それじゃあ仕方ありませんね」
めっちゃ耕一さん落ち込んでる、何もしていないのに罪悪感が半端ないな。
「まあ、耕一さん今度伊勢に来てよ、くくりも元気にしてるからさ」
「便りがないのは元気な証拠ともいいますからね」
便りか…… 手紙とかは行商のついでに取り扱っても良いが、緊急の場合情報の伝達の遅さの問題が出て来るな。折角奈良と同盟関係に有るんだ有事の際には協力しあえる体制を作りたい所だな。伝書鳩でも作って見ようかと空を眺めると、トンビが悠々と飛んで居た。
戦国時代の話でも伝書鳩とか聞かないな、大概が飛脚とかの人力で運んで居る感じがする。これは下手に手を出すと火傷する案件か? 日本には猛禽類が多いとかの問題が有りそうだ。何かいい手はないだろうか?
「なんじゃ、ワシの顔をジロジロ見おって顔に何か付いておるのか?」
「いや、手紙を配達してくれる良い人材は居ないかと思ってな」
「ワシはやらんぞ、そんなものは犬山におる犬たちにやらせればよかろう」
そうだな日本だと江戸時代に犬や豚に賽銭を持たせて、お伊勢参りさせるのが流行った位だから犬でもいいのか、しかも犬山に住むのは獣人だ言葉も通じるし名案だな。犬山は今回の通り道だし問題ないか。
「じゃあに犬山に立ち寄って、獣人達にお願いしてみるか」
「犬の獣人? ですか?」
「タマ見たいなのがここから東南に有る犬山に住んでるんだ」
「へえ、私は犬山と山を隔てて反対側の土岐の生まれですが初耳ですね」
「そう言えば、耕一さん土岐の生まれですね。名物料理はなんですか?」
「山ごぼうの味噌漬けですね」
「アレ巻き寿司にすると旨いよね」
「巻き寿司ですか?」
巻き寿司は去年の年末に伊勢で試作品が出来たばかりだったな。板海苔の生産も始まった事だし、巻き寿司がこの地で流行れば酢や味醂を生産して居る俺も儲かるし悪い話ではないな。
「今度、伊勢に来る時にその山ごぼうの味噌漬けを持って来てよ、日本酒に合うから売れるかもよ」
「確かに漬物は日本酒に合いますが売れるでしょうか」
俺の実家ではシメに山ごぼうの細巻きを注文する客が多かったので売れる見込みは高い、余り売れない赤みそを使うのもアリだな。
「ワシの前で食い物の話ばかりするでない。腹が減ってきたわ」
「ここれは失礼しました。それでは夕食を用意しましょう」
そうして暫く待った後に出て来たのは10cmに満たないエイリアンの様な物体だった。熱田神宮の縁日で見た事は有るがコレ食えるのか?
「なんじゃコレは」
「スズメの丸焼きだな、意外と旨いらしいぞ」
「たしかに旨いが、食いでが無いのが痛い所じゃな。主様よ何かないのか?」
「岐阜の名物には鮎が有るじゃないか」
「いやじゃ~ 肉がいいのじゃ」
長良川の鮎は皇室に献上される最高級品なんだぞ。それが嫌とは贅沢な奴め。食いでが有るのはツキノワグマだけど、雑食の動物の身は臭いから万人ウケしないだろうな。岐阜の郷土料理と言えば豆腐の味噌漬けか朴葉味噌焼きだよな、厳密に言うと朴葉味噌焼きは高山の料理だからこの辺りで朴の葉は取れないか、そういえば岐阜でも鶏を飼育していたな。
「耕一さん鶏の内臓はどうしていますか?」
「内臓は茹でて食べていますがどうしましたか」
「少し味噌で炒めて出してくれないか? 行者ニンニクとかが有ればそれも入れると旨くなるな」
「それでは早速作らせましょう」
俺が作っても良いが、領主の料理人の調理場にズカズカと上がり込むのも気が引ける。何より自分で作ると微妙な塩分濃度とかが気になって美味しく食べられない。やはり料理は他人に作ってもらうのが一番だな。
出て来た料理は岐阜の山菜をふんだんに使った。鳥モツの味噌炒めだ、レバーや砂肝も入って食感と味の複雑さを演出しているのか、耕一さんの抱える料理人の腕はよさそうだ。
「これは旨いのじゃ、主様も食べてみるとよい」
「確かに旨いな、おっ竹の子も入ってる」
竹の子のシャキシャキした食感が小気味いいな。しかしこの時期だから出来る訳で、通年で出来る様にするのが課題となるが、この時代にそれを望むのは贅沢だろうか? せめて缶詰ができれば良いが、アルミ缶の材料のボーキサイトが簡単に手に入れば日本は戦争してないよな。やはり無理か?
「仁様、この料理の名前は何なんですか?」
「鶏チャン焼きと言う、鉄板で焼く時にチャンチャンと音が鳴るのが由来だな」
北海道のシャケのチャンチャン焼きのパクリとも言な。
「それではココの名物料理にしましょう」
「もう少ししたら胡麻油が出来るから、送らせてもらうよ混ぜると必ず旨くなる」
「それは有難いです。それで話は変わりますが、行商の便の本数を増やしていただけると助かるのですがどうでしょう」
「え~ 奇兵隊は、野盗とかを撃退出来る位の戦闘力が居るよ。そうそう増員は出来ないな。奈良の物部連はすべて軍人だし、耕一さん良い人材居る?」
「私の地元の土岐周辺は、狩猟を主体とした生活をしているのですが、そこの若者なら即戦力になると思いますよ。里長に一筆書いときますよ」
「土岐と言えば、恵那の南の集落ですよね。水晶言う六角形をした透明な石を見た事無いですか?」
「ああ、それなら土岐の北に住む部族が時々物々交換しにきてましたね」
よし、耕一さんの実家の有る場所まで行けば最悪水晶は手に入るな。それと恵那に住む部族と言うのも気になる所だな、元々そこまで行く予定だったから土岐で水晶が手に入っても足を延ばしてその部族と有ってみますかね。
補足説明
漆で塗られた食器等は、函館市の9000年前の遺跡から発掘されており。すくなくとも弥生時代には木の板を作る技術が有りました。作ろうと思えば当時でも板張りの船は作れますが、何故か出土しない逆オーパーツです。そして土偶とか漆器とか工芸品の製作に血道を上げる縄文人、ほかにやることあっただろう。
伝書バトに使われる鳩は飛鳥時代に伝来しましたが、使われ始めたのは江戸時代からですね。戦国物を書いて居る人は伝書バトで無双できますよ。
江戸時代にお伊勢参りが流行った時には、行きたくても行けない人が犬の背中に賽銭をくくりつけてお伊勢参りをさせました。(豚の例も有り)道中心優しい人たちにエサを貰いながら伊勢までたどり着いたそうです。今では伊勢市のゆるキャラになっています。なぜうずめちゃんはいないのか? 日本酒の名前にはなっているのに…… うずめちゃんは高千穂市のゆるキャラだって? しらんがなそんな事、縁は伊勢の方が深いだろう定住しているわけだし。
山ごぼうの細巻き寿司は回転寿司でも有る所には有るので、味の気になる方はご賞味ください。ただ作中の山ごぼうの巻きずしは八丁味噌に近い物で仕込むので若干味がことなります。コッチは名古屋でも置いている店は少ないですね。




