閑話 俺は生き残る事が出来るのか?
熊野暦3月中旬
今までゆうなに日記を読まれるのを黙認していたが今回は少しマズイ事になった。ちょっと冗談で賢者になれると書いてしまったが、まさかそこに食いついて来るとは思って居なかった。男がとある行為をした後に欲求から解放され、悟りを開いたかの様になる現象を比喩して賢者になると言うのだが、これをゆうなにどう説明したら良いのだろうか?
「さあ、私に賢者の成り方を包み隠さず教えるです」
「俺が手取足取り教えても良いのか?」
「何でも良いから早くするです」
えっ、マジで?
いやいや無理だろ、セクハラ所の騒ぎじゃないぞ?
そもそも男と女じゃ満足の仕方が違うだろ、悟りは開けるのか?
ヤバイぞ…… 俺の鼓動は早鐘の様に鳴り響き、早くしろとせがむゆうなを直視出来ない。なんだろうこの感情は、今までゆうなをそう言う対象として見て居なかったが、一度そう言った目で見てしてまうと変に意識してしまうではないか。
このまま黙り続けるのも不自然だ何か話さなくては……
いきなり直球じゃダメだ、第一投は変化玉を投げて食いつくかどうか試そう。
「まあ、アレだ、俺が悟りを開いて居るように見えるか?」
「全く見えないです。でも期間限定で賢者になれるんですよね?」
「いや、それは比喩表現と言うか…… 何と言うか……」
「歯切れが悪いですね、何かやましい事でも有るんですか?」
今日のゆうなは鋭いな、やましい事は有るよ? 有りまくりだよ。
言い逃れは出来そうにないな、どうするべきか?
そもそも悟りを開くとはどう言う状況なんだろうか、菩薩のような表情でもしておけば良いのだろうか? 菩薩や仏の様な表情で真実を打ち明けたらセクハラ認定されないだろうか?
無理無理無理、ろくな未来が見えない。下手したら俺はガチで殺される。
さっきのトヨウケ姫なんか可愛いもんだ、何か俺は詰んでないか?
取りあえず口で説明するのはナシだな。何か言い手はないだろうか?
ふむ、いい手か……
「ゆうな、手を出してくれ」
「ようやく教える気になったですか」
たしか以前ゆうなに魔力を流した時の反応は天音さん達とは違ったハズ、男女で魔力を流すとエロい効果が有るとの仮説が立てられているがコレは一種の賭けだな。
俺は覚悟を決めて差し出されたゆうなの手に魔力を流した、ゆうなはやけに満たされた表情をしているが無反応だ。一体なにが起こって居るのだろうか? そして俺は殺されずに済むのか?
「ゆうなどんな感じだ?」
「まるで水の中に浮いて漂って居る感じがするです。頭がぼーとして細かい事なんてどうでも良く感じるです。でも何か人間がダメになりそうな気がするです」
「じゃあ、この位にしといたいた方が良いな」
「何か満たされた感じはしましたが、あの先に悟りが有るんですかね?」
「人に魔力を流した結果は違うから一概にそうだとは言えないな」
「何か掴めそうな気はするのですが、何をしたら良いのか分からないです」
「俺も完全にマスターしてる訳じゃないから、そこまでは分からないな」
良かった賭けに勝ったぞ、何とか誤魔化せそうだ。
ゆうなにはストレス発散には丁度良いから、たまにやってくれと言われたので了承しておいた。ゆうなに何が起こったのか理解出来ないが、エロい効果が無くて納得するなら別にいいか。
「それで悟りを開くとどうなるのですかね」
「それはお釈迦さま位しか判らないだろう。有名な宗教の教祖様は悟りを開いているかもな。所でゆうなは神に合った事は有るか?」
「有る訳無いです。合っていたらそれこそ悟りを開いて居るんじゃないですか?」
「実は俺こっちに来る時にそれっぽい奴に合ってるんだよね~ 合う前に一度トラックに轢かれて死んでるんだけどね~」
「さらっと爆弾発言をするなです。じゃあ仁の体はどうなって居るのですか」
「さあ? やけに丈夫な感じはするが後は普通だぞ?」
仏教の考えでは現世は魂を磨くための修行の場で死後に、功績に応じて仏となり極楽浄土に行けるらしいな。豊臣秀吉は出世の神で菅原道真は学問の神だったっけ? アレは神社に祀って居るよな? 神道でもこの考え方か?
そうすると一度死なないと悟りは開けないと言う事になる……
一体釈迦はどうやって悟りを開いたのだろうか? まさか転生者か?
そういえばアイツ生まれた時から歩いて喋ったと言う逸話が有よな。可能性は十分に有りうる。そうすると俺も悟りを開く条件は満たしていると言うわけだ。やっぱりファンタジー小説よろしく、俺も何か特典でも貰って置いたが良かったか?
「仁、急に黙り込んでどうしたんですか?」
「いや、釈迦は転生者で前世の記憶が有ったんじゃないかと思ってね」
「それが悟りを開く鍵なんですか?」
「さあ、俺には釈迦が具体的に何をした人が判らないからな」
まあ、悟りを開く事が賢者の条件と言う訳で無いよな。ゆうなにはその方面で納得してもらおう。しかし何故ゆうなは賢者に固執したのだろうか?
「なあゆうな、何で俺が賢者になってると思ってたんだ?」
「年齢の割に知識が豊富過ぎです。何かズルをしてるとしか思えないです」
異世界における知識系のチートは主になろう小説のおかげだな。後は我が家の家訓である「金を払ったら元を取れ」と言う言葉に忠実に国営放送を視聴している位だろうか? 石鹸とか螺鈿細工とかはモロにその知識だな。調理系は家業で跡取りとして教育されたとしか言えないし……
「とあるネット小説の影響が強いのかもしれないな」
「仁がなろう小説の愛読者だってのは知ってるです。私も少しは読みますが石鹸の作り方なんて書いてないです」
「なんだお前も同じ穴のムジナか、まあ女性向けと男性向けでは少し違うし大体の舞台が中世だろ? 既に有る事を前提に書かれているんじゃないか? 俺の知る小説には石鹸の改良方法と大まかな作り方が載っていたな」
こればかりは運の要素が強いだろう、数多有る小説の中からアタリを引けたのは大きいな。ゆうなには御愁傷さまと言うしかない。なんだかんだと問答をしてると、一度夕飯を作りに戻ったトヨウケが戻って来た。多分メシが出来たのだろう。
「そういえば、もう一つ言いたい事が有るです」
「ん? 何だ?」
「女の価値を胸の大きさで語るなです!!」
「そうだ、そうだッス」
コイツ等何か、息が合ってるな。
その後も俺は二人に説教をされて無乳教に改宗を迫られた。ここで乳は無いより有った方が良いと言ったらボコボコにされそうだ。まあ二人の言い分は分かる、日本人で有る以上胸はそこまで大きくならない。生前の記憶でも胸の大きな女性はグラビアアイドルとかの2・5次元でしかお目に掛かった事は無い。故に求めてしまうのだが、男のロマンを女に理解しろとは言うのは酷な話だろう。おとなしく洗脳されたフリをしておこう。
「これで分かったら、奈良のおっぱいお化けに鼻の下を伸ばすのを辞めるです」
コイツは何か朱里さんにコンプレックスでも有るのだろうか?
「大きくても邪魔になるだけッス、胸が無いのは機能美ッス」
負け犬の遠吠えとはこの事だな。
「分かったよ二人とも、おっぱいに貴賤は無い」
「「分かればいいです」ッス」
なんだったんだ今のは? 少し前まで仲が悪そうだったのにすっかり意気投合してる様に見える。女心と秋の空とはこの事だろうか?
ゆうなの胸はBカップでそこまで小さくない。
ゆうなとトヨウケ姫の間には、女が可愛い子を連れて来ると言って可愛い子が来た例が無い事に代表される何らかの駆け引きが存在する。
ある意味この件に関して闇が深いのはトヨウケ姫か?




