69話 うずめの歌
六甲おろしは著作権フリーです。
熊野暦3月上旬
俺は朱里さんに報告しに向かう途中に少し考え事をしていた。
マナ・気・チャクラと魔力を表す言葉の伝承は多々あるが、これが一体何で有るか解明された事はない。噂によるとチベットで修行する僧は生活魔法の類が使えるらしいがどうなんだろうな。
今まで考えた事は無かったが、魔法を使った後にその魔力はドコに行くのかと言うと疑問も有るしな。体内で生成された魔力を使い事象の具現化を行うのが魔法だと思う、俺の多用する土魔法は一度使うとその場に残ったままで判断が付きにくいが、水魔法や火魔法は使った瞬間に消えるんだよな。その魔力はドコに行くのだろうか、後天音さんの話では魔法を使えない人でも魔力の生成が出来ない訳では無く常に垂れ流し状態だとの事だ。
普通に考えると大気中に魔力は満ちている事になる。
もしかしたら無意識の内に体に取り込んで居るのかもしれないが、意識的に取り込めないかと言うのが今回の疑問だな、土俵入りで魔力を集める事が判明したが、アレは戦闘中は無理だから何とか簡略化出来ないだろうか?
朱里さんの屋敷に帰って来ると、朱里さんとうずめの歌声が聞こえて来た。
「ろっ~こぉ~ おろ~し~に、さあそお~と~ そうてんかけ~る~ にちりんの~ せいしゅんの~はき~ うるわしく~」
何で阪神タイガースの応援歌なのか疑問に起こったが、京都府民だった朱里さんは阪神ファンなんだなと思いながら襖を開けると、そこには青白く発光するうずめの姿が有った。
「と~お~しはつらつ~ たつやいま~ ねっけつすでに~ てきをつく~」
うずめの歌う歌に合わせて光が強くなってゆき、辺りに広がっていった。
その光の中に居ると、なんだか何でも出来そうな高揚感が満ちてくる。
「朱里さん? 何をやっているんですか?」
「仁はんお帰り、今うずめちゃんに歌を教え取ったんやけどな、六甲おろしに戦意高揚の効果が有るのが判ったんやで」
いや、戦意高揚だけじゃなく、微弱で有るが身体能力強化の効果もありそうだ。
うずめは回復魔法だけではなく補助魔法も使えるのか、でもうずめはバリバリのストライカーだよな。念のため自分自身にバフを掛けながら戦う方法も模索して置いた方が良いな。少し試して見るか……
奈良の魔法のスペシャリストでも有る安部さんにも立ち会って貰い、うずめの歌の検証が行われた。まずは先ほどの六甲おろしが、うずめ自身の身体能力を引き上げる事が出来るかと言う事だ。
俺は今日発見した、土俵入りを使用した集気法を試した。
横では安部さんも一緒に検証している。
「おお、これは新発見ですね。体に魔力が満ちて来ます」
「太極拳やヨガでも出来そうやな」
「出来るかも知れないけど、やり方が判らないよね」
「中国では古代から不老不死の研究しとって、こっちの世界には本物の仙人がおるかもしれんなぁ、仙人は霞を食べるちゅう話があるけど、取り込んで居るのは恐らく魔力やな」
朱里さん仙人は俺たちの居た世界でも伝承が残って居るよ、
確か仙人は「俺は人間を辞めたぞジョジョ!!」見たいに、
何等かの方法で人間で有る事を卒業したんだよな?
そういえば吸血鬼とかもその類なのだろうか?
確かに人間の血から魔力を得るのは効率が良さそうだが……
大地から魔力を吸い上げた俺の体の中には、今だかつて無いほどに魔力が充満している。タマみたいに髪の毛も金髪になるかと少し期待していたが、あれはタマの体毛が銀色だからで有って黒髪で有る俺には効果が無かった。それは置いといて何でも出来さうな高揚感が有るな、脳内麻薬でも出ているのだろうか? ここは気分にまかせて中二病全開で行かせて貰おうか。
「うずめ準備が出来たぞ、いつも見たいに避けないから正面から掛かってこい」
「ほんと~ じゃあ、いくよ~」
うずめは気の抜けた宣言とは裏腹に、目に留まらない速さで迫りドロップキックを放って来た。俺は約束通り、うずめの蹴りを胸で受けると足を付いたまま1m程後方に引きずられたが、我慢出来ない事は無い位の感覚だった。
次にうずめには六甲おろしを歌いながら攻撃してもらった。
先ほどと同じく間の抜けた合図と共に突っ込んで来たが先ほどより早い。
避けないと宣言したが正直受けたくないな。
「ぐはっっっ」
うずめの蹴りの直撃を食らった俺は、後方に吹き飛ばされゴロゴロと転がり衝撃を逃がすが無茶苦茶痛い、思わず声を上げてしまった。
「仁はん、大丈夫け?」
「なっ…… 何とか大丈夫だよ」
これが相撲の勝負だったら負けていたな。効果がイマイチそうな六甲おろしでこの威力なら、熊野さんが歌う勇ましい軍歌とかなら効果はもっと有りそうだ。
「朱里さん、もう一つ試したい歌が有るんだけどいいかな?」
「仁はんがええならええで、ウチも興味あるし」
正直あの攻撃を正面から受けたくないが、うずめに歌を教えてもう一度攻撃してもらう事にした。
「守るも~ 攻めるも~ くろがねの~」
「何で軍艦マーチやの?」
宮崎アニメで見たそれしか知らないからだ。
「ほら、効果が有りそうだよ」
うずめの体の周りが青白く発光して体の周りを覆い始めた。
今度は光は体の中に溶け込まず、体の周りに停滞するんだな。
この違いは何だろうか?
まあ、一度攻撃を受けて見れば判るか……
三度攻撃を受けたが二回目よりは威力は無かった。心なしかうずめの足の裏が硬かったような気がするが、軍艦マーチは防御系か?
「安部さん、記録は取れたかな。痛いからこれ以上うずめの攻撃は受たくないな」
土俵入りで強化した俺と歌で強化したうずめではどちらが強いだろうか?
武器有りなら武器の性能の差で100%勝てそうだが、それはフェアじゃないし可愛い妹にそんなエグい攻撃を仕掛ける訳にはいかないな。取り回しの難しい武器は使え無さそうだから手甲でも作るかな。
自分で考えておきながらアレだが、ただでさえ強力なうずめの攻撃力がさらに上がるのか、金属製の手甲を装備させたらオークの頭蓋くらいならパンチで叩き割るかもしれないな。そう考えると素の攻撃力はうずめの方が強そうだ。ゲームなら攻↑速↑のHP↓守備↓のキャラか一撃必殺できればかなりの強キャラだな。
自分にも使用されると考えるとあまり教えたくないが、漫画で得た技を伝授した方がいいかな? 脚力自慢のうずめなら通背拳とか仕えそうだし。肘や膝を使った攻撃を教えれは攻撃のバリエーションが増えそうで有るが……
「でも、うずめの飛び膝蹴りを顔面で受けたく無いな~」
鼻の骨が折れる位じゃ済まなそうだ、首か頭蓋骨骨折で即死もあり得る。
教えるべきか教えざるべきか大いに迷う所だ。
そういえば北斗神拳は使えるだろうか?
確か経絡秘孔から自分の気を流して内部を破壊する技だったような気がする。
うずめに魔力を流すとくすぐったいんだよな?
相手に魔力を流す事は可能だが、内部から破壊はどうだろうか?
タマは唾液に魔力を載せて魔法を発現させていた。魔力を効率的に体内に入れるなら、うずめとディープな方のキスして魔法を発現させるのが現実的か?
いやいや、俺はロリコンじゃないぞ?
多分この方法は可能だと思うけど、恐ろしすぎて女性とキス出来ないな。
確かに暗殺向きでは有るが……
浸透頸とか有るし、打撃と共に魔力を流す研究をした方が良さそうだ。俺の使う電気系魔法とかはすでにその条件を満たして居るが、さらにそこから魔力を変化させる事だろうか?
俺は竹林に足を運び、打撃から竹を内部から破壊出来ないか試してみよう。なぜ竹なのかと言うと内部が空洞なので、魔法が発現したかどうか確認がしやすいからだな。
竹が内部から破裂して真っ二つに折れる事をイメージして、拳に魔力をためて正拳突きを放つと竹は折れたが、たぶん俺の腕力による物だな。竹の内部を見ると少し焦げているが破壊には程遠いが、魔力不足だろうか?
今度は爆竹がはぜるイメージで竹にそっと手を当て時間をかけて魔力を流すと爆発し竹が真っ二つに折れた。そう言えば魔法の発現は電気に似てるんだよな。魔力を流す量と圧力と抵抗を考えて、流す時間も関係するのか?
打撃の様な短時間で発現させるには流す魔力の量を多くしないといけない。
一度に流せる量が少なくとも圧力をかければ短時間で発現する事も可能だ、
そして物には抵抗が有るのを考慮しないといけない。
単位は電気と同じく、アンペア・ボルト・オームでいいか、工業高校に行っていたから普通の人間より詳しいつもりだけど俺機械科なんだよね。この計算は朱里さんなら出来るだろうからお願いしておこう。
電圧に当たる概念は考えて無かったな。
今後、意識的に魔法を使う事で感覚を研ぎ澄ましていこう。
ゲーム的に考えると、俺のMPはどの位なんだろうか?
なんだか時間経過とともに回復はしてそうなんだよね。
そして自然から魔力を取り込む事も出来る。
理論上はMPは無限に有る訳だけど、魔法は使う人間により威力が違う。
天音さんと安部さんの使う水蛇に違いが有るのは、発動時間に違いがないので電流か電圧に当たる所の違いだろうな。よく例えとして水道から水を引くホースに例えられるよな、ホースの太さが大きければ短時間で多くの水が流れ、ホースが細くても蛇口をひねって圧力を増やせば同じ量の水を送る事が可能だ。
天音さんに魔法について聞きたい所だけど、あの人そこまで考えて魔法を使っていないし、この件は安部さんを理論上は天音さんに勝てると煽って研究してもらおうかな?
うずめに歌を歌いながら戦わせるには曲を自作するしかなさそうですね。いくら著作権に関わらないとは言え、黒い街宣車が流す曲を歌わせるのは嫌ですし。
仁の使う土魔法は現物の形状変化なのでその場に留まります。
無から現象を起こすと消えますが、仁はその事に気づいていないようです。




