65話 一目連
作中で物部連と言う名前が既に出ていますが、連=集団と解釈して下さい。
熊野暦2月上旬
大阪市周辺の視察を終え戻って着た俺は今後の開発について朱里さんに相談する事にした。
「助けて~ 朱里ぇもん~」
「誰が青だぬきやねんな」
そこは、本当にしょうがないな君はと言って受け止めてくれる役だろ?
それはさて置き、現在無人の大阪市周辺を押さえて置いたらどうかと尋ねて見た。
「ウチも河内湖の存在とその経緯を知っとるけど、利用価値が出るのは堆積した土砂で入り江が埋まって淡水湖化した後やで、西暦で言うと3~4紀ほどやな」
朱里さんの話では、河内湖が淡水化した後にも土砂の流入は続き、中洲が出来始めたら田んぼとか建物とか作れるそうだ、だがココは無理矢理でも時計の針を進め確保して置きたい場所だ。せめて現在湿地帯になっている東大阪市周辺だけでも何とかしたい。
「朱里さんは、明石だこに代表される瀬戸内の海の幸を食べたくないんですか? ソースは無理だからたこ焼きは作れないけど、出汁で食べる明石焼きは食べられるんですよ?」
「なっ…… それはかなり魅力やなぁ」
「ほら、卵を多めに入れた、ふっくらとした小麦粉生地が、濃厚な鰹出汁を吸って芳醇な香りがするんですよ。そして一口かぶり付くと中からネギのさっぱりとした味わいと共に現れるタコ、そのタコは瀬戸内の荒波に揉まれ日本一と言っても過言ではない、歯ごたえと旨みが……」
「ああもう、分かったわ、今すぐ明石焼きが食べとうなったわ、大阪周辺を押さえた暁には、あんさんが責任持って、ウチに明石焼きを食べさせる事、ええな」
交渉は成立したな。それでは具体的な案に移ろうか。
「朱里さん、一度奈良湖の水を全部大阪方面に抜いて見ない?」
「いずれは無くなる物だからええけど、どうしたん?」
俺は人工的に大和川下流に洪水を起こし、河内湖の奈良寄りだけでも砂が堆積するようにしたいと告げた。勿論一度水を抜いたら人工的な堤を作りダムとして水の確保をしたい。出来れば雨季に当たる梅雨時までには実行したいな。
「ふむふむ、色々と下準備は必要やけど、やってみる価値は有るかもなぁ」
「それと、もう一つ相談なんだけど、鍛冶師を紹介して欲しいんだ」
「何か作るんけ?」
「いい加減、武器を竹槍から青銅製にしようかなと……」
「せやな、ウチからしたら奇兵隊も含め竹槍装備は無理が有ると思うとったよ」
なんだかんだ言って竹槍は原価タダだから、ついと言う奴だ。
そう言った朱里さんは、橿原町の北に有る田原町の鍛冶集団を紹介してくれた。
名前は一目連と言うらしい。何かそんな名前の妖怪が居たような気がする。
朱里さんの話では、金属を鍛造する際に温度を目分量で見極める必要が有るので、焼けた金属の色合いの変化を見るのに、その一族は片目をつむり作業する事から名が付いたそうだ。
近くに行ったら、一つ目の旗が立ってるからすぐに分かると言っていた。
田原町は橿原町から田んぼを隔てて隣に有る町で、主に木工・石工・鍛冶をしている職人集団が居るみたいだな。
町に近づくと金属を叩くカンカンと言う音がして来た。音のする方に足を向けて進むと、一つ目の旗が立っている建物が有った。多分ココだな。
俺が「ごめんくださ~い」と門の前で大声で言うと一人の男が出て来た、布を包帯の様に巻き、片目を隠した身長160cm位のがっちりとした男だ、何しに来たのかと問われたので、鍛冶の見学と槍の注文に来た事を伝えた。
「朱里様の紹介ならしょうがねえ、邪魔したらつまみ出すからな」
職人気質でぶっきらぼうな人だな、と言うか俺ココの領主なんだけど……
奈良では何もしていないので知名度が無いのはしょうがないが少しショックだ。
青銅器の鍛造と聞いてピンと来なかったが、銅とスズの合金で有る青銅はスズの含有量で硬さが増える反面脆くなる。これを中心は柔らかい素材を使い両側面を堅い素材で挟み叩いて繋げる事で柔らかい部分がショックを吸収して折れる事を防いでいる様だな。
これは和包丁の作り方と一緒で張り合わせと言う技法だな。比較的安い2~3万位の包丁がこの方法で作られる。10万を超える包丁は本焼きと言い硬い鋼だけを叩いて作られる。固い反面直ぐ欠けてしまうので刺身包丁位にしか使われないが、日本刀を彷彿とさせる銀色の輝きが魅力的な逸品となっているな。
鉄の精製はまだしていないようだが、銅だけでどれだけ強度を出せるか研究しているようだ、鍛冶場の置くには片目の不動明王の様な剣を持った彫刻が有り、アレは何かと聞いてみたらこの集団の初代の天目一箇神と言うらしい、どこからともなくふらっと来て様々な道具や効率的な鍛冶の仕方を伝えた人物で、天が使わした一つ目の神と言う意味でコノ名前だそうだ。
話を聞く限りはマレビトっぽいな。既に他界しているようだが、コノ集団の頭領はその人の子孫らしい。頭領は代々タタラと言う名前を世襲して居て、恐らく金属を溶かす際に使用するふいごを足で踏む作業の名前だと思われる、何かのアニメで見た事が有るがコレはタタラ製鉄の原型だよな。
朱里さんから以前特殊合金を作ったと聞ては居た、どうやって作ったのかは疑問だったけど、この方法なら作れるかもしれない。
そのタタラさんは最近代替わりした20代の若者だった。
歳が近くて助かった、偏屈な爺さんだったら話かけ辛いからな。
少し疑問に思った事が有ったので疑問をタタラさんにぶつけて見た。
「この作り方だと、柔らかい銅が大量に必要ですよね」
「おう、そうだな、良く分かるな」
鍛造の授業は高校で受けているからな。
「それで硬さの違う二枚の板を半分に折って伸ばすのを繰り返したら、強度を維持しつつ原材料を節約出来るんじゃない?」
「はぁ? 何言ってやがる、いや待てよ……」
この技法はシリアの首都ダマスカスで作られてたと言うダマスカス鋼の技法だ。本来ならばインド産のウーツ鋼を使い作るのだが、炭素と鉄の合金で有る鋼は熱により炭素が酸素と結合して二酸化炭素となって抜けてしまうので、時間を掛けて作ると強度が維持出来無いためロストテクノロジーと呼ばれている。
恐らく人海戦術で高速で仕上げていたんじゃないのかな?
まあ今回作るのは青銅製なのであまり関係の無い話だな。
疑問に感じながらも気になったタタラさんは、俺の提案した方法を試して見るようだ。
「お前は確か槍が欲しかったんだよな? 俺が直々に打ってやる光栄に思えよ」
「刃先だけではなく、溶接で良いので持ち手も銅で作ってください」
「はぁ? 普通持ち手は木だろうがよ」
「俺は魔法も使うから金属製の方が使い勝手が良いんだよ」
木属性の魔法が有るから持ち手の材質は木でも良いのかもしれないが、俺の無茶振りに溶接で良いのならと答えてくれた。2・3日時間をくれと言われたので、俺は鍛冶を教えて貰いながら待つ事にした。魔法を使いながら金属を鍛えると何か特殊効果を得られないかと思ったからだ。
以前黄銅を素材に魔術加工したオリハルコンを作ろうとしたら、炉で溶けないと言う事態が起こったので耐火性を最終的に付けるならこの段階しかないと感じた。試行錯誤の結果、徐々に青銅は熱に強くなり高温で熱しても硬いままで、鍛造するのが辛くなって来た。
これ以上やると鍛造出来なくなると言う所で魔力強化を止めて仕上げると、何とか耐火性のエンチャントは付けられたな。タタラ製鉄の方法で鋳溶かせないとなると融点は鉄を凌駕するかもしれない。
合金を使い複数のエンチャントを付けようとすると、鍛造時に流し込む魔力を調節しないと上書きされそうだな。まだまだ工夫が必要だけど各種強化(小)の武器なら作れそうだ。
魔法を使える者ならば自前で武器を強化できるが、魔法の使えない人の方が多いから、この手の工夫が必要になる。魏の曹操の持っていた七星剣の様に、鞘に付いた七つの宝石に魔術加工したら必要に応じてその場でエンチャントを付けれるかもしれない。
陰陽と五行で7属性だよな……
日・月・火・水・木・金・土で七曜と言う解釈で合っているならば、陰陽は月と太陽の属性になる。どう言った現象が起こるのかは分からないが、相手によって属性を変えられるなら強力な武器だよな。出自が中国なので、すでに中国人が作っているかもしれないが……
ダイヤモンド・ムーンストーン・ルビー・サファイヤ・エメラルド・オパール・トパーズ辺りが七曜対応かな? 確実に日本じゃ作れないな。などと考え込んで居ると注文した武器が出来上がった。
「ようやく出来たぞ、面倒な仕事を押し付けやがって」
そう悪態をつきながらもタタラさんは何か楽しそうだった、根っからの職人気質で面倒でも試さずには居られなかったのだろう。これもツンデレの一種か?
手渡された槍の穂先には波打った波紋が幾重にも有り作業の苦労が伺える。
青銅は銅の含有量で色が変わるので、色合いの違うの黄金色が層となって現れて、何と言うか芸術作品の様な風合いが有るな。ちょっと使うのが勿体無いな感じがするが、新しい武器は試して見たいと思うのも人情だろう。
「ちょっと試し切りをしてみるよ」
「おい、何で石の有る方に行くんだよ、そんなもの切ろうとしたら刃が欠けるぞ」
以前、竹槍で岩を粉砕した事が有るので大丈夫だろう。
この槍で石を破壊では無く切断出来るだろうか?
俺は青銅の槍に魔力を込めると槍は青白い光を纏い始めた。
ん? 俺の純粋な魔力の色は天音さんと一緒か?
以前、奉納舞で天音さんが体に纏っていた光と同質の輝きだな。
その光を見た時が、多分切れると言う自信が確信に変わった瞬間だった。
俺が石を槍で突くと抵抗は有る物の難なく突き刺さり、そこから切り裂くと石は切断された。なんと言う事だ、魔力の伝達の仕方も良いし強度も申し分ない。鋳造品でもいいからもっと早く作って置くべきだったな。
「ほお、魔力強化をするとそんな事も出来るのか、これは良い物を見せて貰った。これからの製作が捗りそうだ」
「タタラさんも魔法を使えるんですか?」
「あたぼうよ、俺っちの家は代々金属性魔法の使い手だ」
まあ祖先がマレビトなら有り得るか、そしてドコかに静岡中部か関東の訛りの有る様に聞こえるのは気のせいだろうか? そんなどうでもいい疑問はさて置き俺の新しい武器が出来た。
「この武器に名前とか付けます?」
「お前の苗字は天野だったよな、天之沼矛でどうだ」
「沼はドコから……」
「俺の祖先が沼津と言う場所から来たらしい」
やっぱり静岡だったよ。
これから、沼シリーズが出来るのかな?
おれも口出しして天野シリーズの武器を作って見るか。
日本神話に有る武器でアマノと頭に付くのは、
天羽々切・天羽々矢・天叢雲か、天岩船とか言う乗り物も有ったな。
人造神器か中二病が捗ってしかたがないじゃないか。
実際の天目一箇神は、天の岩戸の下りで祭りの剣や矛を奉納した神様です。
三重県桑名市に有る多度大社では、一目連は龍神として祭られています。
天沼矛は神話では、その矛で地球をかき混ぜると日本列島が出来たと言われていますが、そんな眉唾話は採用しません。別名の天逆矛の方が有名かもしれませんが、こちらは鋼鉄製になったら名前を付けます。
タタラさんは静岡県民が祖ですが、恐らく江戸っ子の様な、べらんめぇ口調にシフトしていく予定です。まだ仁とは初対面なので素が出てないと思って下さい。




