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極東西遊記~古代日本に転生したぽいので建国してみた  作者: 星 武臣
第3章 そうだ 京都に行こう
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56話 新たなマレビト

熊野暦12月中旬


 俺の私兵団である奇兵隊は今の所120人居る。

 それを二つに割って60人は行商と情報収集に当て、残り半分は奈良の物部連と言う自警団と合同演習をしていた。


 正月には一度帰る予定なので、そろそろ仕上げと帰る日取りの調整をしたいと藤堂から相談された。藤堂も彼女がいるからな、口には出さないが早く帰りたいのだろう。


 何か土産になる物を持たせたい所だが、今の所奈良漬け位しかないな。そんな渋い物を貰って藤堂の彼女は喜ぶだろうか? 伊勢では鰻の蒲焼が流行っているので付け合せとしては喜ばれそうだが……


 もう、硬いほうの八橋も作って置く? あの歯が折れそうな位硬いやつ……


 あれ作る位なら、南部せんべい作ったほうがいいよな?

 奈良の特産物て何だ? 葛粉やわらび粉は有るから、葛餅やわらび餅は作れるが夏場の商品だよな~


「柿食えば、鐘が鳴るなり、法隆寺か……」

 でも柿は岐阜や三重でも取れるしな。


 今の所、奈良の特産物は野鳥や淡水魚だよな、伊勢にも鴨の類は居るが鶴は居ないので特産と言えば特産だ。奈良湖に鱒は居るかな? 今の時期だと卵を持ってる可能性が有るな。


 イクラの醤油漬けの様な物でも持たせるか?

 鮭が食いた所だが東北から上にしか居ないんだろうな。


 まあ、鱒で我慢するとしよう。とりあえず釣ってみるか。


 釣竿を持って意気揚々と出かけたが、浅瀬に産卵するために鱒は集まっており竿は要らなかった。水鳥達は鱒ほどの大きさ(40~50cm)の魚を食べず、卵を狙ってやって来る小魚を食べているようだな。浅瀬に集まる鱒は湖に入って蹴飛ばすと陸地に簡単に打ち上げられる。実際に見た事はないが熊と同じ捕獲方法だな。そして奈良に熊は出ない。


 つまり、鱒は取り放題だ。ひゃっほう


「仁はん、こんなに捕まえてどうするんや?」


「とりあえず燻製にして、鱒とばとか作るかな、生で食べれる内は冷燻にしてスモークサーモン見たいな物でも作りますよ、卵は塩漬けか醤油漬けにした筋子ですかね?」


「なんや日本酒がすすみそうなラインナップやな」


「熊野さんにも食べさせたいから、少し持って帰るよ」


「干物やのうて、生で食べてもらいたい所やな」


 冬場だから一工夫すれば二日位なら持つかな? 

 抗菌作用の有る物で押し寿司を作るとか……

 鱒の寿司は富山の名産だよな?


 そういえば、柿の葉が有るじゃない。柿の葉寿司を作ろう。


 早速奈良の木工職人に頼み木枠を作って貰い、酢メシと具財を詰めた物を押して押し寿司を作り適当な大きさに切って、乾燥させた柿の葉に包んで完成だ。


「朱里さん出来ましたよ」


「なあ仁はん、お酒も出してえなぁ」


「まだ昼間ですよ? ダメです」

 この人いったん飲み出すと限界まで飲んで寝るからな。


 夜には燻製も出来るからそれでお酒を飲んだ方が旨いと言って聞き分けてもらった。我慢出来たご褒美に筋子の醤油漬けも出してあげよう。


 午前は料理をしていたら時間が過ぎてしまったが、今日は奇兵隊の合同演習の視察をしたいんだった。奇兵隊と物部連は京都南部に現われる、ゴブリン(餓鬼)を相手に演習して居るようだ。連携して攻撃してくると厄介だが、体格が人間のほうが圧倒的に有利なため。対人戦闘の練習相手としては好都合らしい。


 橿原から京都南部までは30km強か、鹿に乗っていけば一時間掛からないな。

 ついでにサクラ達も連れて行くか……


「お兄ちゃん、お出かけするの~、うずめも行くよ~」

 危ないからダメと言いたい所だが、うずめは下手をすると俺より強い。


 俺、9歳児に守られるヒロインポジなの?

 恥ずかし過ぎるだろ、意地でもうずめには負けられないな。


 身体能力強化はうずめのオリジナルだからな、本家本元には適わないかもしれない。何か俺のオリジナルの技が欲しい所だな。それは追々考えるとして、ちゃっと行って夕方には帰ってこよう。夕飯も作らないといけないしな。


 信忠に乗って京都南部に向かい、巨椋池周辺でタマ達とは別れ西に進路を取る。

 巨椋池は木津川・宇治川・桂川が流れ込み湖となっている。対岸に見える山(桃山)の裏にタマ達が住んで居る稲荷山が存在する。稲荷山周辺には最近タマの掘った稲荷の湯と言う温泉があるらしいな。


 豊臣秀吉も温泉が好きで居城の桃山城には温泉が湧いていたと聞くので、あの辺りを掘れば高確率で温泉が出るかもしれない。巨椋池周辺は湿地帯が広がるが少し西に向かうと平地が広がっていた。


 稲作が出来そうなので、この平地からゴブリンを駆逐して置こうと言うのも合同演習の目的だったりする。


「よっ藤堂、演習は順調か?」


「兄貴、ごぶりんとやらは平野部で戦う分には問題ないな、山岳戦だと少し厄介だぞ」


「ゴブリンはゲリラ戦が得意なのか、それは厄介だな」


「げりら戦?」


「ああ、すまない。山野で隠れながら戦う戦法の事だ」


 ゴブリンは体格が小さい為、藪に隠れられると見失うらしい。ゴブリンは殺傷力は弱いが弓や投石などの攻撃をして来るので、当たり所が悪いと最悪死者が出るとの事だ。山間部に逃げ込むヤツは追わずに平野から駆逐する感じで良いかな、山にはオークが居るから後はオークが片付けてくれるだろう。


 仲良くなってオークライダーにクラスチェンジしないだろうな?

 まあ、その時はその時か。


 俺達はゴブリンの集落を見つけては襲撃して行く。

 これ人間相手だったら俺達は外道だな。

 野生動物や魚にも家族が居るとか言い出したらメシは食えなくなる。

 そんな感じで割り切って行くしかないな。


 向かってきたゴブリンを身体能力を使い竹槍で引っ叩くと20m程飛んで行った。

 内野フライかシケてるな。

 まあ、ゴブリンが30kg位有るとするとこんな物かな?


「わ~ おもしろそ~ うずめもやる~」


 うずめはお得意のドロップキックを放つと、ゴブリンは集落に突っ込み建物が派手に倒壊した。それ何かスカッとしそうだな。俺も調子に乗ってゴブリンを建物に向かって打ち出して行くとあっと言う間に集落は更地になった。


「兄貴と姫様はもう無茶苦茶だな」

 奇兵隊の連中は唖然としていた。


 魔法適性の無い人間も魔力を溜められないだけで、魔力が無い訳じゃ無いんだよな。何か補助的な物を作れば、身体強化は出来そうだ。天音さん用の道具と同じ原理で行けると思うので、完成したら皆にも配るとするか。


「若、あっちで人が襲われています」


「助太刀するぞ、野朗共俺に付いてこい」


 ゴブリンを山に追い立てて居た部隊から連絡を貰い、俺達は現地に向かうとゴブリンと立派な鎧を着た集団が交戦していた。放って置いても大丈夫そうだったが、少し話しがしたかったので戦いに介入しようか。


「大丈夫ですか? 助太刀します!!」


「かたじけない」


 50匹位のゴブリンに囲まれていた集団は、日本刀と槍を装備していた。

 アレ鋼鉄製だよな、どこかで作っているのだろうか?


「俺とうずめが突っ込むから、3番隊はあの集団を保護、1番2番隊は展開して両サイドの敵を討て、逃げるなら深追いしなくていいぞ」


 俺とうずめは集団を二つに割り突っ込んで行く、二人とも身体能力強化を使うと弓矢の類は皮膚で弾いてしまうので、お互い何の心配もいらない。俺は少し痛い位だが、うずめは蚊に刺された位のダメージだろう。後ろで戦う奇兵隊のためにそちらに向かいゴブリンを吹き飛ばすと、ゴブリンはボーリングのピンみたいに倒れて行った。


 うずめも負けじとドロップキックでゴブリン達を吹き飛ばして行った。10分程でゴブリンは蹴散らされた。蹴っていたのはうずめだけだけどな。


 襲われていたのは、戦国時代の様な鎧を着た7人の集団だった。

 あちこちに生々しい傷口が有るので危なかったかもしれない。

 しかし、ゴブリンの武器であそこまで傷が付く物だろうか?


 謎は残るがうずめに頼んで回復魔法を掛けて貰うと、信じられない物を見たと言う顔を集団はして居た。関西には回復魔法は存在しないのだろうか?


「助太刀かたじけのうござる、それがし斉藤と言う物でこちらは従者の十兵衛」


「これはこれはご丁寧に、俺はこの集団の長の天野仁って言います」


「うずめは熊野うずめだよ~」


 何か顔が引きつって居たような気がしたが気のせいかな。

 斉藤さんと十兵衛さんは見た所40代後半に見える、十兵衛さんの方が年上に見えるが服装を見ると斉藤さんの方が偉いのかもしれない。


「ここじゃ落ち着かないので、少し遠いですが橿原にある館まで来ませんか?」


「正直何が起こっているのか解からないので、その言葉に甘えるとしよう」




 道中話を聞いていて解かったのだが、この人たちマレビトだな。

 戦国時代の何時から来たか解からないが、逃げている途中でこちらの世界に飛ばされて来た様だ、現地人なら製鉄技術について聞きたかったんだけど、武士だと流石に知らないよな。


 徒歩で木津川(市)の近くに有る奇兵隊の宿舎で鹿車を借り橿原に向かう、すっかり遅くなってしまったがその日の内に着く事が出来た。


「仁はん、おーそーい、早ようウチのご飯作ってぇなって、その人達は誰?」

 朱里さんは初対面の人に素の姿を見られ赤面していた。


「多分僕達と同じマレビトだと思うんですけど……」


太秦(うずまさ)の映画村から来たとはちゃうよね?」


「とりあえず、応接間に通してもらえます? 食事はすぐ作りますから」


「じゃあ、ウチが詳しい話聞いとくわぁ」


 朱里さんが、斉藤さん達の面倒を見てくれるので俺はさっさと夕飯を作って行こうか。


 斉藤さん達は、俺達の戦闘力が異常だったのか萎縮してあまり話が出来無かったんだよね、十兵衛さんとかは放心状態だったしな。女性が相手なら話易いかもしれない。


「みんな疲れてるから、胃にやさしい物がいいよな?」


 午前中に作った鱒の柿の葉寿司が有るからそれと、昨日の鍋の残りで汁物でも作るかな。

 そうだ、試作品のそうめんを入れてにゅう麺風にしようか……

 後は燻製にした鱒と奈良漬けでいいかな?


 お酒も付けて置くか、どのくらい飲むのかな?

 奇兵隊風に樽酒を柄杓で掬って飲んでくれじゃ品が無いよな~

 5合徳利を適当に持っていくか。


「食事の用意が出来ましたよ」


「仁はんが来た所で改めて自己紹介や、ウチが奈良の領主代理のニギハヤヒと呼ばれていて、そっちが今の領主のニニギヒコや」 何故役職名で名乗るんだ? 戦国時代の人に後ろの名前を名乗るのは良く無いんだったけ?


 たしか、こうなりたいと言う願いが込められているから、他人に呼ばれたくないとか言う理由だったよな? 自分から名乗る分には問題ないよね?


 十兵衛さんは信じられない物を見たと言う顔をして、口をパクパクしていた。

 何か知っているのかな?


「仁はん、この人達山崎の合戦の敗残兵や」


「山崎の合戦と言うと明智みっ……さんと羽柴さんの?」

 危なくフルネームで呼ぶ所だった。上司を呼び捨てにしたら根切りにされるな。


「せや、その明智方の兵隊さんやな」


「斉藤さんだから、岐阜の人だと思ってましたよ」

 明智光秀は岐阜の斉藤道三の部下だったけ?


「岐阜が有るのでござるか?」


「俺達が便宜上そう呼んでいるだけで織田さんはいないよ」

 信長と呼んで居る鹿は居るけどな。


 斉藤さんたちは明らかにホッとした顔をしていた。

 まあ、殺したと思ったら生きていましたとか悪夢だよな。


 この後どうするかの話になったので、滋賀県の坂本(大津)に人が住んでなかったら領主を遣らないかと誘っておいた、別に岐阜の明智でも良いんだけど耕一さんが居るからな。


 この先どうなるか解からないが、俺達に仕えたいと色よい返事を貰えた。

 こっちも、戦闘に関しては身体能力でゴリ押ししている素人なので渡りに船だ。

 正確には熊野さんも、三八式歩兵銃が使える事を前提とした戦いしか軍隊で習ってないので、我流だしな。


 斉藤さん達は、物部連の軍事顧問として雇われる事となった。

 十兵衛さんは元々文官寄りの人なので、事務仕事をさせて欲しいと斉藤さんから打診が有ったので受け入れることにした。


 十兵衛さんを呼び捨てにするのはかなり気が引けたので、苗字を名乗らないかと打診し。

 近衛を提案したら滅相も無いと言っていたが、朱里さんの補佐と護衛をする人は必要なので近衛でどうかと説得し受け入れて貰った。


 九州の様子を見に行きたい俺には渡りに船の人材だな、これで暫く留守にしても大丈夫かな?


 


明智光秀の幼名が十兵衛だったりしますがあまり関係はありません。

ただ娘と同じ名前のタマを溺愛します。

古今伝授の細川藤考と懇意にしていたので古事記とかに詳しいんじゃないかと言う解説役です。一応軍師としての仕事もしますね。


本能寺の変は光秀うつ病説を採用し、近衛(十兵衛)さんは少しうつ入ってます。


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