55話 奈良へ帰ろう
熊野暦12月中旬
俺は朱里さんとサクラ達を送る為伊勢を出発した。伊勢から奈良の橿原までは約70km有り山を二つ越えないといけない。途中の名張で一泊して翌日の夕方には着く予定だ。
「お兄ちゃん、ワンちゃん達とお出かけするの? うずめも行く~」
「熊野さんと天音さんにはちゃんと説明しておくんだぞ」
うずめと本気の鬼ごっこが出来るのはサクラ達しかおらず犬の獣人達は、うずめの良い遊び友達となっている。途中でオークの集団が出たので、朱里さんを護衛すべく奇兵隊の連中と共に展開しているとサクラからの提案が有った。
「ご主人様、あの子殺して良いの?」
何か発言が物騒だな。
「まあ、良いっちゃ良いが……」
「うずめもやる~」
どうしてウチの女子達は戦いたがるのか? うずめは俺と出会う前から熊野さんから教育を受けてたんだっけか、熊野さんのせいだな。この件には俺は無関係だと信じたい。
「サクラちゃんは右の奴ね、うずめは左の奴にする~」
「うん、殺っちゃうの」
サクラ達は連携してオークを攻め立て、右から腕に噛み付いたと思ったら、次は左からと波状攻撃で攻めてオークの体力を削って行く。奇兵隊でも柴犬を狩猟犬として使っているが、犬単体でも狩り出来るんだな。獣人だと言葉が通じるので細かい指示が出来るのが良いな、獣人部隊も考える余地がありそうだ。
うずめは準備運動をしていたと思ったら、一瞬にして俺の視界から消えた。目の前で起こった事に理解が追いつかない。うずめの体が小さいとは言え、時速何km出せば体ごと視界から消えるのだろうか?
うずめはすでに人間やめてないか? 俺はアレに勝てるだろうか?
うずめのドロップキックがオークの顔面にめり込んだ。
うわ~首が変な方向に曲がってるよ、あの一撃は絶対に貰いたく無いな。
「なあ、うずめのソレはどうやってるんだ?」
「おなかにぎゅ~として、ば~んてするの~ お兄ちゃんも出来るでしょ?」
相変わらず難解な回答だな。
要するに身体強化を覚えたんだな。ゆうな達と何かやって居ると思ったら修行してたのか、今まで無意識で行なって居た事を意識的に行なう事によって強化率を上げて居る訳だな。元々驚異的だった加速は縮地法でも使ってるんじゃないかと言うレベルだ。
ん? 縮地法と言う言葉が有る以上誰か使って居たんだよな、漫画が発祥じゃなく天狗か何かが使う妖術だった様な気がするが、うずめは身体能力で無理矢理使って居るが、法と言う以上それなりの人間が使える術なんだよな?
「さくら達も終わったの、褒めて、褒めて」
うわ~ こっちは口の周りが血まみれだ。オークの死骸もモザイクが必要だな。
犬だからしょうがないとは言え、人型になってもその攻撃手段はいかがな物か?
服まで真っ赤だぞ、しょうがないから何か武器を考えて置くか?
途中でオークが出た以外は特に何も無く、朱里さんの館の有る橿原に着いた。
荷解きは人に任せ俺は、適当な物を見繕って夕飯を作ろう。
飛鳥時代などと言う言葉があるが、橿原の市場には奈良湖に飛来した渡り鳥が並んで居た、これは鶴とトキだよなオシドリまで居るな。旨いのかな?
「なあ、おじさん、俺は野鳥に詳しく無いんだがコレは旨いのか?」
「これはニニギ様、鶴やトキは鍋物にオシドリは焼いても旨いですよ」
橿原では俺はニニギと呼ばれて居る。朱里さんの役職名がニギヤハヒなので、その姉弟なのが由縁なのかな、ニギがにぎやかとか稲穂が育つとか言う意味だったけ、俺が奈良に来た時にオーク被害で住民の元気が無かったので、伊賀から酒を持ち込みドンチャン騒ぎをしたのも関係があるかもな。
「国民にはパンとサーカスを」が基本方針なので、まあ良しとするか。
あと伊勢ではマレビトはアマテラスの関係者と認識されて居るので俺の名前の後には日子が付くな、ニニギヒコが俺の通称となる。何か猿田彦見たいだな、俺がコッチに来て2年近く経つがようやく現地人に受け入れられた様な気がする。
薦められた野鳥を買い取り、早速調理してみる事にした。
トキは少し生臭いが味は悪くないな。しょうがが有れば団子状にして吸い物の具にも使えるかもしれない。今まで鶴を食べれると言うのは知ってはいたが、長寿のゲン担ぎだと思っていたが味も良いな、食い出の有る鴨みたいな味だな。
マクロや鰹などの回遊魚も血の味が濃いが渡り鳥も同じ事が起こる様だ、まあ可食部分は筋肉だからな、良く動かせば血の巡りが良くなり味も濃くなっていく。後は食べて居る物によって身に臭みが出るかどうか決まるのも魚と同じかな、養殖の鯛やハマチなどは脂身が同質の味がするしな。
親戚が釣りをしてたらカモメが釣れたので食べたら不味かったと言っていたので、肉食系のより草食系の方が美味しい様だ。オシドリは鶏と一緒で基本的には雑食だが、植物を好んで食べるため臭みが無く美味しいと市場の人が言っていた。実際に食べてみると銘柄の地鶏以上の旨みが有るが少し硬い、完全に火を入れずに低温調理でじっくり火を入れた方が良いかもしれない、土に埋めて上で焚き火でもして蒸し焼きにするかな、東南アジアだとバナナの葉っぱで包るんで埋めるらしいが……
笹の葉で良いか…… 付け合せの里芋や栗も埋めて置くかな。
外に出て穴を掘り、下処理した具材を埋める。今回は約70℃で二時間以上火を入れたいので深めに穴を掘って埋めたぞ。その上に石を積み上げて竈を作り、鍋を作っていこうか。
薪を積み上げて、火打ち石と悪戦苦闘しているとタマがやって来た。
「主様よ、ワシが火をつけてやろう」
そう言って、唾を木に向けて「ぺっ」と吐くと青白い炎を上げた。
「どうじゃ、秘技 狐火じゃ」
確かに狐が火を使う伝承は有るが、唾なのか? ガスバーナーの様な火の出し方を想像していたんだけどな。
スピットファイヤーなんて言葉が有るが効果音をイメージすると、「ゴ~」よりも「ぺっ」だよな? タマに聞いて見ると、ガスバーナーの様に連続して火を吐く事も出来るが熱いからあまりやらないらしい。それもそうか、唾に魔力を溜めて吐き出す発想は無かったな。
鍋で具材を煮ている間時間が有ったのでタマの使って居た魔法を試して見た所、線香花火の様な火が出た、タマの吐いた火は青かったよな? あれは2000℃以上ないと出ない色だ、そう考えると凄い技だな、組み合ってる最中に吐かれたら俺は燃やされるな。
俺の使う技は電気系にしろ炎系にしろ、相手を怯ませる位の効果しかない。
有用なのか判断に迷う所だ、何事も鍛錬あるのみか。
そうこうしている内に鍋の方が出来たので、火の弱い所に移し後は米でも炊けば地中に埋めたオシドリも食べごろになるだろう。開いた時間で食後の甘味でも作っておこうか。
小一時間後――
「さあ、出来たぞみんなあつまれー」
「久しぶりに遠出したから、おなかペコペコや早速食べようなぁ」
あんた籠に乗ってるだけであまり動いて無かっただろ。
まあ、精神的な疲労もあるのかもしれないから、動かないから腹が減らないとは言えないのかもしれない。
「仁はん、この味噌鍋味が濃厚やけど何入れたんや?」
「骨から取った出汁と胡桃をすり潰した物だけど、口に合いませんでした?」
「いや旨いで、ただ伊勢のお姫さん達が仁はんを外に出したがらない理由が解かった気がするなぁと思っただけや」
「一応、岐阜の特産物を考えてくれと耕一さんに頼まれてたので、五平餅用に胡桃の入った味噌は考えていて、くくりは自分で作れますけどね」 娘の手料理に耕一さんは涙を流して喜んでいたけどな。
「それをアレンジするには、経験がいるやろ?」
「そこは、実家が料理屋なので一日の長がありますね。そのうち追いつけますよ」
正式には明治の初めまでは伊勢神宮に徒歩や馬で来る観光客にお茶を振まう和菓子屋だったが、移動手段が車や鉄道になった為、客単価の高い日本料理店に転進した経緯があるな。
「せや、仁はんは年末年始は伊勢に行くんやろ? おせ……」
「あっ、朱里さん、オセアニアにマレビトは居ますかね?」
「オーストラリアは中世まで石器時代みたいな生活しとったから、難儀するんやない? それで、おせ……」
「お節介かもしれませんが、肩こってません? 揉みますよ」
「ほな頼むわぁ、じゃのうて、おせちやおせち」
くそっ、誤魔化せなかったか
「じいちゃんの遺言でおせちは作っちゃいけないんだ」
じいちゃんは多分まだ生きていると思う、ゴメンじいちゃん。
「何でやの? めっちゃ目ぇ泳いどるで、絶対嘘やろ?」
「おせちには軽いトラウマが有るんですよ、それに作りたくても材料が有りませんよ?あんなもの無理して食べる必要ないですって」
毎年、年末年始は徹夜仕事だ、一般人が紅白や笑ってはいけないなんちゃらを大晦日に見ている時に黙々と煮豆とか作ってるんだぞ。苦痛以外の何者でもない。二度と遣りたくない仕事だな。
「縁起物やないの、海老の煮物と田作りとかは作れるんやないの?」
伊達巻も作れるがその習慣を広めるのは勘弁願いたい。
「鰯の子供はちりめんじゃこが一番美味しい食べ方ですよ?」
「奈良は今年は、田んぼが駄目になったやろ? 田作りは味じゃないんやで」
誰だよ、アレに田作りと名付けたのは、バレンタインのチョコレートみたいに売れない商品の販促に適当な理由をつけて売ってるだけだろ? 正直な話、伊勢でもこの手の話は出ていて、鰯の稚魚の干物は作って有ったりする。
俺は朱里さんに上目使いで駄目かと聞かれ、断り切れなかった。
美人の上目使いにもマケズ
熊野さんのパワハラにもマケズ
東に特産物を考えろと言われても考えず、
西に困って居る人がいても助けない。
NOと言える日本人そんな風に私はなりたい。
利益を追求するならばそう有るべきだが、実際にやったら人間のクズだな。
これも付き合いの一つだと思い我慢してやるしかないか。
朱里さんにお茶とお茶菓子を出して、肩を揉んでいるとお菓子について聞かれた。
「これ京都銘菓のアレやろ? どうやって作ったん?」三角形をした餅状の生地にあんこを包んだ物だな、京都に行くと大体の人が買って帰るアレだ。
「まずもち米を炊いた物を乾かしてから、粉末状にしてから鍋で煮て練ったりしてから薄く延ばすと出来ますね、ちなみに粒のままお湯で戻すと桜餅の皮になりますね、桜の葉っぱの塩漬けは作ってあるので春になったら食べましょう、でも古代の品種だと本物からは程遠いですよね」
「アレが何時出来たかは知らへんけど、その問題があってニッキ(シナモン)で誤魔化しとっつたんかもな」
「あ~ それは有るかも、落ち着いたら品種改良とかもしたいですね。日本酒用の粒の大きな米も作りたいですけど、突然変異を待つしかないのかな?」
「ほんならウチの魔法が役立つかもな」
そう言った朱里さんは、大豆を手に取り魔力を流すとニョキニョキともやしが伸びてきた。何コレ生物の細胞分裂を促進できるなら怪我も治せるんじゃないかな?
「朱里さん、ソレ人の怪我とかも治せるんじゃない?」
「えっ? 枯れ木に花を咲かせる宴会芸にしか使うてへんけど、そんな大層なもんなん」
朱里さんがその宴会芸を披露したら、一緒に飲んでた住民たちが平伏したのが領主になったきっかけらしい。見方によっては年老いた木を治療したと見ても良いよな。植物と人体じゃ構造が違うが原子レベルまで逆登るとそれ程差は無い筈だ、頑張れば行けるんじゃないか?
「以前くくりに鉈で切られた傷の治りも良かったので、魔力と傷の治りと言うか細胞分裂に何か作用しているかもしれません」
あの時は大丈夫と思っていたが思っていたより傷は深かった。
血は直ぐに止まったのであまり気にはして居なかったが、冷静に考えると異常だよな。
「ちっちゃなお姫さんの使っとる魔法がウチも使えるんけ? 少しは役に立てるなぁ」
「うずめのおまじないも、手を触れる事によって自然治癒能力を活性化してるかもね」
「怪我治すのを手当てちゅうし、そうゆうもんかぁ」
そう考えると昔のおまじないにもそれなりに効果が有った様に聞こえるな。
「呪術の研究もしたほうが良いかもね」
「藁人形で人を呪い殺すやつけ?」
「物騒なのは止めて、コックリさんからでいいんじゃない?」
「お稲荷様は目の前に居るんやけどなぁ、占いから始めるのはアリやなぁ」
女性は占いとか好きだよね。
遠隔で人を殺せるとか怖すぎるので、そっち方面の研究は俺の死んだ後にしてくれ。使用方法は解からないが、占いに使う竹の束(筮竹)は作っておくかな簡単に出来るし。
調べたところ、白鳥とか雷鳥とかも美味しいらしいですね。
鶴はタンチョウヅルは不味いらしい、カモメは滅茶苦茶不味いらしい。




