54話 今の俺達に出来る事
熊野暦12月上旬
うずめは少し前に回復魔法についてあれこれ聞いたせいか、その後も考え込んで居た様で見事に知恵熱を発症した。熊野さんは娘が奇病に掛かったじゃないかとオロオロしていたが、熱は1日で引き今日は大事を取ってお休みだ。うずめは持ち前の回復力の高さから病気の類はしないので俺も心配したが、天音さんの「これ知恵熱なんじゃ」の一言で俺達は平静を取り戻した。
今日は遠出は控えて何をしようか考えていると、新しい技を編み出したので付き合えと言うゆうなに誘われ熊野神社の境内に来ている。審判としてくくりが付いて来た。
「ルールは全力でおっぱいを揉みに行く俺を阻止するで良いか?」
「いきなり何を言うんです、この変態は!!」
「実際に戦場で男に捕まったら胸を揉まれる位じゃ済まないぞ、まさか手篭めにされそうになって、くっ殺せと言うのが夢だとか言わないよな? これは純粋な親心だ勘違いしないで欲しいな」
できれば対人戦闘はコイツ等にやらせたく無いのが本音だ。
決しておっぱいを揉みたい訳じゃないんだからね。
「くっ、くくりちゃんあのセリフを言ってやるです」
「それこそが偽善?」
やはり、そのセリフの出所はゆうなだったか、元ネタのアニメは何だったかな?
「くくりの語尾が疑問系になってるぞ、大儀は我に有りだ。大人しく胸を揉みしだかれるがいい!!」
「なに大げさなポーズを取ってるです、このエロ大魔王は!!」
「じゃあ、3分逃げ切ったらゆうなの勝ちでいいか?」
「うっ…… 3分なら良いです」
ゆうなの身体能力強化の持続時間は今の所3分だ、展開面積の少ない俺は5分間は行けるな。
ゆうなのスマホのアラームを3分後に設定しくくりに渡して、画面をと説明していたら自分で押してしまった。
「あっ…… しょうがないか、いくぞゆうな」
「ちょっと待つです、まだ心の準備が……」
ゆうなは脱兎の如く逃げ出したが、元々の筋力と肉体強化率はこちらが上だ、逃げ切れる訳がない。俺は大きく回りこみ、ゆうなの前に出る事に成功した。
「知らないのか? 大魔王からは逃げられないぞ?」
一度は言ってみたいセリフの5本の指に入る言葉だな。
「ここは、余裕を見せて3分間待ってやるとか言う場面じゃないですかね?」
3分待ったら試合が終わってしまうじゃないか。
「3秒間待ってやる、命請いをしろ。あと何だったけ?」
「こうなったら、やるしかないです。A.Tフィールド展開!!」
ゆうなは体に纏っている魔力を前面に集めだした。
その魔力の壁を叩いてみるとコンコンと良い音がするな。
弓矢とかは防げるかもしれない。
「ゆうなよ、そのアニメは俺も見ていたが、主人公達はそのフィールドを何で中和していた?」
おれが魔力を指先に集めて壁に押し当てると徐々に指がめり込んで行った。
魔力を込めた竹槍とかなら抜けるかな?
そこに込めた魔力量とかの差も有るか?
試しに指先に込めた魔力を濃くして行くと更に指先はめり込んで行く、思った通り純粋な魔力をぶつければ魔力の壁は中和できそうだ。
「発想は良いと思うが、メジャーなアニメから発想を得たのが悪かったな、対処法が割れて居るからな。さあおとなしく乳を揉まれるがいい!!」
「仁は、そんなに私の胸を揉みたいのですか?」
潤んだ瞳で反応に困るセリフを言うんじゃない。ただの悪ふざけだぞ?
「手の平サイズのゆうなじゃ揉み応えがないな、もうすこしがんばりましょうだ」
「死ねっ!!」
ゆうなが鏃を迂回して飛ばし俺の背面に突き刺さるが、「キンッ」と良い音がして弾いてしまった。感想はちょっと痛い位だな、銃弾位の速度で打ちこまれたら俺の体に刺さるかもしれない。
「この俺を舐めて貰っては困るな」
「まだです、女の敵は此処で叩いて砕くです」
遺伝子的に日本人に胸を大きくしろと願うのは酷な話だったか?
「揉まれると胸は大きくなるらしいぞ? ゆうなの悩みを解決してやろうと言っている俺はなんて優しいんだ」
「まだ言うですか、この変態は!! こうなったら……」
ゆうなは腰の帯を解き魔力を流すと、蛇のようにうねり俺の体に巻きついた。以前俺が捉えられたのはこの技だったか、引き千切ろうとしたが帯は魔力で強化されてかなりの強度が有るな。中々いい技じゃないか?
「それで? これからどうするんだ? 手は封じられてもまだ足が残っているぞ?」
俺は草履を脱ぎ脚の指をワキワキと動かすと、ゆうなは殴り掛かって来た。
硬い物を殴って手を怪我するなよ。まあ、ゆうなには良い教訓になるかな。
ゆうなが魔力の壁を解除して向かって来たので、足で胸を一揉みした所で時間切れになってしまった。くそっ、手で揉みたかった。
「ゆうな達の仕事は天音さんの護衛だろ? 帯で縛り上げた状態で仕事は出来てるよな。欲を言えば電気系魔法を覚えた方が完封出来るんじゃないか?」
「ううっ、それはそうですが……」
「後、袴を穿けパンツ丸見えだぞ」
「やっぱり、この変態は退冶しないとダメです!!」
何だよ人が親切心で教えてやったのに、ちなみにゆうなの下着は白と水色のストライプだな。ゆうながこの地に来て一年以上経つのに当時の物が使えるとは中々物持ちが良いな。もしかしたら帯を使う事を想定して市販されている紐で縛るタイプの下着じゃない物を着用しているのかもしれない。
だとするとこの状況は想定内と言う訳だ、何をそんなに怒るのか理解に苦しむな。
「ゆうなちゃん、どうどう」
くくりがゆうなを宥めて事は収まった所で、今度は2対1で試合をする事にした。ルールは要人警護を想定し、くくり達の後ろに置いた案山子に俺が触れたら勝敗が着く感じにして時間は無制限で行く事になった。
「くくりちゃん、一緒にアイツをやっつけるです」
「それは良いけど、落ち着かないと負けちゃうよ?」
アタッカーに宥められるディフェンダーとは珍しいな、二人は良いコンビなのかもしれない。
くくりはくの字に曲がった鉈のような物を二本持ち出して装備しだした。
「ゆうな、くくりにククリナイフをネタで持たせるじゃない!!」
「これ、園芸にも使えて便利ですよ? 魚も下ろせますし……」
ゆうなの代わりにくくりが答えたが、元々ククリナイフは山での農作業用なので植物を伐採するのに向いて居るが、武器としては使い辛いんじゃないかな?
くくりが鉈に魔力を流すと鉈は赤い光を纏い出した。あれを体で受けると不味い気がするので俺も竹槍使わせてもらおう。行きますと言ったくくりは真っ直ぐ突っ込んで来て鉈を振るう、熊野神社の女子達はどうしてこんなにアグレッシブなんだろうか?
大人しく炊事洗濯などを極めて欲しいと言うと、男女差別に成るのか?
戦闘行為に関しては男に任せて貰わないと立つ瀬が無くなるな。
俺が竹槍で鉈を受け止めると鉈は竹槍に食い込んだ。
武器に込める魔力に相当の差が無い限り起こる現象は変わらないか……
元々の武器の耐久力+注いだ魔力量と考えて間違いないのかな?
激しく両手で攻撃して来るくくりの攻撃を、出来るだけ斜めに受け流しても竹槍は削られて行く。このままではジリ貧だ何か対処しないと……
「私を忘れて貰っては困るです!!」
後ろからゆうなの鏃が迫る、これを避けたらくくりに刺さるんじゃないか?
体の前面に魔力を集中してくくりの鉈を体で受けて抱きかかえ真横に飛ぶと鏃は俺達の居た場所を通過した。
「ゆうな!! 避けられる事を考えて攻撃しろ、くくりに当たったら痛いですまないぞ」
「仁様、肩から血が……」
「こんなの唾つけとけば治るって、気を取り直して行こう」
俺の防御を上回るとは、ゆうなよりくくりの方が攻撃力は高いのか、使って居るのが鉈で助かった。以前の大剣の直撃を食らったら腕を切り落とされるな。この身体能力強化も過信は禁物だな、この試合は俺にもいい教訓になりそうだ。
俺は、真っ向から受けるのを止めて、くくりを振り切りゆうなに竹槍を投げつけた。
竹槍はゆうなの防御壁に阻まれたが、俺はすぐさま真横に跳びがら空きの案山子に迫る。
「ここは通しませんよ」
くくりは俺のフェイントを読んで先回りしたのか?
くくりの攻撃に殺傷力が低い事が判明しているので、さっきと同じく抱きかかえて案山子に触れる事で勝敗は決した。
「くくり達の体重が軽いのはどうしようも無いから、それをどうするかが今後の課題かな?」
身長差のおかげで頭部を狙えないのも痛い所だが、あの鉈を頭で受けるとさすがに痛いじゃ済まなさそうだ。兜を作っても魔力強化してないと兜ごと頭をかち割らるかな?
熊野さんと戦うには使えない戦法だろう。
格闘技でも階級とか決めているからな、体格の差を如何に縮めるが問題だな。
「なあ、熊野さんと俺にどの位の戦力差が有ると思う?」
「御館様と仁様ですか? 倍位だと思いますよ」
「マジで? 少しは近づいたと思ったのにな」
「仁は、鬼包丁を片手で振れるですか?」
丁度良い比較対象だな、早速くくりに熊野さんの鍛錬用の鬼包丁を持って来て貰った。改めて見ると凄い武器だな、刃渡り1m幅30cmの肉厚の鉈だ重量は大人一人分位有りそうだ。
早速、肉体強化を使い鬼包丁を振って見た。振れるは振れるが熊野さんの様に途中で止める事が出来無かった。あの人どんな体してるんだ? 熊野さんの肉体強化がパッシブスキルで有る事を願いたい所だな。
追い詰めたら「私は後2回変身できます」と言いかねない怖さが有るぞ、いかに本気を出させないで完封できるかが鍵となるが、熊野さんは娘の事になると人が変わるからな……
「正面から挑まなくても、お得意の搦め手で勝負するです」
「あの人だけには、正面から勝ちたいな。男の意地と言う奴だ」
「そんな物、捨てれば良いです」
「いやさ、物と違って意地を捨てたら二度と元に戻れない様な気がするな」
天音さんが「お父さんと洗濯物を一緒に洗わないで」とか言ってくれたら意気消沈して弱体化が狙えそうだが、熊野さんだけは正面から勝ちたいな。
「要するに馬鹿なんですね」
「ああ、男の子は何時までたっても大馬鹿野朗だ。見ていろよ一粒では力の無い水滴でも石に穴を開けるんだ。諦めさえしなければ、いずれ意地は通ると信じて居るさ」
「ゆうなちゃん、仁様に負けないように頑張ろっ」
「私達は打倒仁を目標にするです」
ん? ゆうな達が戦闘狂なのは俺のせいか?
俺個人としては天音さんとお付き合いしたいと言う不純な動機なんだか……
まあ俺を目標とするならば、何時までも越えられない壁になれるよう努力するか。
熊野神社の女子達は、遠征の度に大怪我する仁を多少は気にしています。
くくりとゆうなは瞬間的には成人男性以上の力を発する事が出来るので、頑張れば奈良まで着いて行く事が出来そうですね。
奈良県に麻生と言う地名は実際に有ります。
酒・煙草・ガソリンなどは人件費を使い生産するよりも、上前をはねた方が効率的だと言う理由だと思われる。国鉄は昔火炎瓶を持った人が電車とか丸焼きにしてたので、嫌気がさしたのかな?
何故電話と塩の利権を手放したのかは不明。




