50話 柴犬と遊ぼう
縄文~弥生時代の日本の犬は全て、柴犬か亜種の秋田犬です。
もしかしたら中国からチャウチャウ種が入って来てるのかな?
熊野暦11月下旬
晴れて無罪を勝ち取った俺は、自分の部屋でとある物を作っていた。パン生地に少量の油と蜂蜜を練りこんだ物を醗酵させていた。油は麻の実を絞ったものを使用しているな。
醗酵に使用する菌は基本的に糖分を分解して醗酵を促進させる。分解されると糖分に変質する炭水化物を使用すれば基本的にはいらないが、少量糖分を入れると普段よりふっくらするんだ。
その生地にあんこを包み込み、蒸す事15分――
「ついに出来たか、冬の井村屋の主力商品」
所謂、あんまんだ。
肉まんはオークが獣臭いので保留だ、地方都市には○○牛まんとか鹿まんとか有るらしいので、今度試してみよう。
中華饅頭の起源は、三国志の時代に諸葛孔明が作ったのが始めとされる。
水神を鎮めるために人間の頭部を生贄に捧げていたが、科学的な知識を持つ孔明はそんな事をせずとも、小麦粉に羊などのひき肉を詰め込んだ物をそなえれば良いと提案したらしい。故に漢字で書くと饅頭と頭の字が付く、当時はかなり大きい物だったのだろう。
奈良にも水神(水蛇)信仰が有るのだけど、流石に生贄は捧げていない。
朱里さんが全力で阻止したとか、昔話に神様に生贄を捧げる話は良く有るので、中国の故事にちなんでコッチに移行しようかなと言う狙いもある。
しかし魔女狩りと一緒で社会不適合者を処分する意味合いが合った場合どうする?
まあ、冤罪の可能性も有りうるから司法機関を通した方がいいな。
朱里さんの言っていた事はこう言う事だったのか、村単位で結論を出そうとすると面倒だから死刑でと言う判決が下る事が多くなるかもしれない。
中には農業が肌に合わなくて社会適合出来ない人もいるかもしれないし、
労働力が不足する現状では、神に捧げる前に領主に捧げろと言いたい。
熊野さんを始め多くの領主が、現人神として崇められている。
信仰を利用して労働力の確保と人命の保護をしたい所だな。
名草領では殺人犯でも、敵なら殺し放題だと言って採用しているな。
大概が衝動的にやった奴ばかりなので前線ですぐに使い潰されるらしいが、
何かの役には立っているな。
古参の戦闘員は猟奇殺人者が裸足で逃げ出すほどとか……
「犯罪者は和歌山送り」これは一つの道徳に利用できるかもしれない。
俺も子供の頃に、あまり言う事を聞かないと体罰のキツい全寮制の学校に入れるぞと良く脅されたものだ。犯罪抑止力として利用できるなら利用したい所だ。
いかんな血生臭い事を考えていたら何か気分が悪くなってきた。
何かで癒されよう犬が良いな、動物とのふれあいは最大の癒しだな。
はて、今何か忘れて居る様な気がしたが気のせいだろう。
俺は出来立てのあんまんを食いながら外に出ると、視界には木に縛られた二つの人影が有った。
うわっ、忘れてたと言うか、誰も助けなかったのか? 死んでないよな?
良く見るとタマは着ぐるみの様な状態に変化していて、ゆうなはタマによりそって暖をとっていた。
「鬼です、鬼が来ました」
「鬼じゃ生ぬるい、そうじゃ鬼畜じゃ、鬼畜野朗じゃ」
二人ともまだ元気一杯で仲がよさそうだな、もう一日くらい放置しておくかな?
誰が鬼畜野朗か!!
俺が素通りしようとすると、「後生だから助けてくれ」と涙目で言われたので縄を解いてやった。躾は一応成功したのかな?
流石に忘れて居たのは悪かったと思い、二人には蒸したてのあんまんをプレゼントした所、仲良く二つに割って食べていた。困難を乗り越えた二人は友情の様な物が芽生えた見たいだな。
やっぱり怒ってるよな? 何か食いつきそうな話題は無いだろうか?
「これから柴犬を見に行くが付いてくるか?」
「柴犬ですか? 行きたいですが、お風呂に入らせてほしいです」
「どうしようかな、鬼畜野朗の称号を得た俺は名に恥じない努力をしないとな」
「タマさん今すぐ謝るです、あの目はヤバイです変態の目です、
きっと私達をくんかくんかするつもりです」 ゆうなはとことん俺をディスりたいらしい。
誰がするか、そう言う発想が出てくるお前の頭を割って中身を見てみたい。
俺はゆうなの肩を掴み、真顔でそれは「フリだよな?」と尋ねた。
そうすると頬を染めながら違うと言っていたが……
何でだろうなラブコメ的な甘酸っぱい感じがしないのは、
ゆうなが頬を染めているのも吊橋効果と言う奴だろう?
じゃなかったら性癖を暴露されて恥ずかしいとかか?
嗜虐心に火が付いてもう少しイジって居たかったが、ゆうなが新しい趣向の扉を開いてしまわない様、すぐに開放し風呂に行かせた。
この辺りでは犬と言えば柴犬だ、中部地方に秋田犬が居る訳ないもんな。
もう少し犬種にバリエーションが有っても良い気もするが、知る限りでは柴犬しか見ていない。ゆうな達も戻って来たので、伊勢市に有る犬飼の実家にタローとジローを見に行った。
柴犬は見慣れない者には懐かないので、有る程度顔見知りの犬が良いな。
柴犬の豊かな表情には癒されるな、何故これほどまで愛くるしいのだろうか?
柴犬を猫可愛がりすると言う訳の分からない事をして居ると、タマが「それはオスじゃぞ」と言っていたがそんな事は知っている。何やら変な目で見られているが知った事か、俺のすさんだ心は癒されていった。
ゆうなも柴犬の魅力にはメロメロだ。
俺は嫉妬して、もげろとか言わないぞ?
タマはワシの時と態度が違うと言ったが、しょうがないじゃないか柴犬だよ?
そうだ、犬の獣人は居ないのか? 確か狸と狐はイヌ科の生き物だよな。
タマに聞いた所、京都南部には居ないそうだ。
非常に残念だが、まだ行ってない地域が有るからそれに期待だな。
すっかり癒された俺達は解散し、俺とタマは犬の獣人を探すべく岐阜方面に向かった。
何故ワシがと言うタマには、あんまんを食わす事で手を打った。タマは大きな狐に変化すると時速100km位出る、遠出をするには丁度良い相棒だ。
三重は猪の化物がいるし、奈良は狸だ、犬猿の仲と言う言葉が有るので、猿の化物の出る岐阜には何か手がかりが無いか探してみよう。
手がかりを探して岐阜県の山間部の集落を聞いて回ると、愛知県との県境で獣人を見たとの有力情報を得た。すぐさま小牧・犬山地区に向かい情報を集めると、
小高い山に住んでいるようだ。タマに匂いを辿って貰い山を登ると、犬の着ぐるみを着た様な二足歩行の生き物がいた。
タマに朝モコモコの毛皮を着ている状態になっていたのは何だと聞くと、生きてる過程で徐々に二足歩行になり人間に近づいて行くらしい。着ぐるみ状態から数十年すると尻尾と耳だけ残るとの事だ、毛皮を放棄するのは退化なんじゃ無いだろうか?
獣人の生態は不思議だな。
此処に居るのは若い固体ばかりとなる。
若いと言っても40年ほど生きているらしいので俺より年上なんだけどな。
先ほどから犬の獣人は警戒して鼻に皺が寄った表情になっているが、お土産代わりのオークの干し肉を差し出すと、暫く匂いを嗅いだ後ガツガツ食べ始め食い終わったら何の用だと尋ねられた。
特に用は無かったが、京都に予定している獣人達の特区と言うべきか寄り合い所の様な物を作りたいので参加しないかと誘って見た所、四季を通じて山野で獲物が取れる訳でもなし人間と共存する道を探していたので渡りに船だと言っていた。
まあ、犬だからな何時から人間と共存してたかは知らないが、
どうやら犬の獣人達も同じ考えの様だ、身体能力に自信の無い生き物は長い物には巻かれたいのかもしれないな。
集落で話し合いが行なわれ、5匹(名)程俺達について来て、タマの眷属が先輩として面倒を見ると言う話になったが、任せても大丈夫なんだろうか?
また、エサに釣られて原始的な罠に嵌ったりしないだろうな?
不安が残るが言葉は通じるので、交流を通じて文化に馴染んでもらおう。
5人の獣人のリーダーらしき着ぐるみが、煙を立てて人型に変化した。
だから、その状態になるなら服を用意しとけって!!
ご主人様よろしくお願いしますと言いながら、少し巻いた尻尾を振りながら
つぶらな瞳で見つめるんじゃない。困った事にメスなんだよな、伊勢に帰ったら
また変態呼ばわりされるじゃないか。
タマも隙あらば服を脱ごうとするからな、うずめ以上の露出狂だ。
人間は何故動き辛くなるのに服を着るのかと尋ねられたが、明確な答えが言えなかった。
伏見の稲荷山周辺がヌーディストマウンテンに成らない様に祈るばかりだ。
大和朝廷に反抗する勢力を土蜘蛛と言い、古事記には奈良周辺の土蜘蛛は有尾人だと明記されています。
これが面倒な事に色々な種類が居ので困ります。程々にしていい加減話を進めます。




